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15-錬金術師

「あなたが噂の怪力……力持ちさんですよね?」


「……あ、あぁ、多分」


 なんだ、一体何なんだ。

 俺は女の子に話しかけられるような美男子ではないぞ?

 逆に強面で離れられるような男だぞ?

 しかも犯罪奴隷の身で更には仕事中だ。


 この少女は何をしたいんだ?

 ……まさかエンリか?


 いやいや、あいつは仕事中だし……。


 思いもよらぬ出来事に、内心焦りまくって少女に低い声で返してしまう。

 普通ならそれで女の子なら悲鳴を上げて逃げ出しそうなものだが、その少女は気にせず、石材を運ぶ俺の横をピッタリとくっついて歩いてくる。


「やっぱり! あなたちょっとした有名人さんなんですよ、凄い強面で怪力の男がいる! しかも仕事熱心! って!」


 横目で少女を見れば、アメジストのように綺麗な瞳がキラキラと輝いてこちらを見ていた。


 ……それにしても有名人、か。

 確かに街壁修復の石材一人運びは、現場にも驚かれた。

 修復は一箇所に留まらず、様々な所へと足を運んだので作業を見られているのは間違いない。


 だがそれだけで俺が有名人とは、この街の人々は娯楽や何かに飢えているのだろうか。

 俺は考えるが、なかなかどうして、悪くない気分だ。


 最後の仕事熱心、というのも俺の心に響くポイントが高い。それを美少女に言われたのだ、鼻が伸びてしまうのも仕方ない。


 ちょっぴり足を早め、顔を引き締めながら石材運びを続ける。他の土方や奴隷の視線が刺さるが、今の俺にはそれも心地良い気分だ。


 ……いや待て。


「……どうも。でもいいのか? 犯罪奴隷なんかに、こうして近寄ったりして」


 普通ならこんなか弱い少女、この距離では危害を加えるのなんて簡単だ。俺だからしないが、他であったら何かしら当たられてもおかしくはない。


 しかし少女は、俺の問いに一瞬ぽかんとした後、ぷっと笑い出しながら言った。


「労働に駆り出されてる犯罪奴隷は、それだけで危険はあまりないって証拠ですよ? 大したこともしてないだろうし、役人さんがちゃんと人格を見てくれてますもん。本当に危険な人はその場で処刑か監禁、しかも貴方は赤バッジじゃないですか。だからこうしてお話ししても大丈夫かなーって思ったんです!」


 ……初耳だ。

 得意げに語る少女の情報は、まるで頭を金槌で殴られたくらいの衝撃を受けた。言われてみれば、俺以外の山賊はその場で殺されていた。それに役人とも話したし、他の囚人の罪もリベルの本当に大したこともないものしか聞いていない。


 いくら騎士が見張っているからといって、このような場所で手錠もかけずに労働に従事させるなど、何かしら問題が起こりそうなものだ。


 その上でどれだけ問題のない囚人かを示すバッジまでつけられている。……なるほど、そういう体制であったのか、この街の監獄は。


 俺が思わず足を止めて考え込んでいると、少女は気にせず話しかけてくる。

 往復する他の労働者は邪魔そうな目で俺たちを避けて歩いているが、少女はそんなものはおかまいなしだ。


「やっぱり前は傭兵か何かだったんですか? 魔物とかも楽に勝てちゃうんですか? 頑張ったらもっと重たいものとかでも持てたりしちゃうんですか? あ、歳とかはいくつだったりします?」


「……前は山で暮らしていた、魔物かは知らないが獣ならいくらでも狩ったことはある。まだ力に余裕はあるな……歳は十八だ」


 少女の矢継ぎ矢継ぎの質問に、いくらか誤魔化しながらも全て答えていく俺。年齢に関しては、あの山の中では正確な日付を確認できなかったため、エイリーネがわかりやすいようにと年が変わって初日を誕生日とした。

 こうして話しかけてくれるのは嬉しいので、頭から今の状況がすっぽりと抜けている。


「やっぱり! でも十八歳なんて、あたしと三歳しか変わらないなんてビックリ! ……それで、あたし錬金術士なんですけど、もし刑期が終わってここを出たら……」


 手を合わせ、少女が最後言いかけている途中。


「おいアーラ! 仕事の邪魔をしてんじゃねえ! 坊主もそいつなんか無視してさっさと作業に戻れ!」


「わっ、ごめんなさーい!」


 親方の怒声が橋にいた俺たちまで届いた。

 少女は慌てて親方の方へ頭を下げると、再び俺の方に振り返り、


「あたし、アーラって言います。またお話しましょうね!」


「あ、あぁ、俺はライク……」


 俺が言い終わる前に、走って去っていく少女……アーラ。

 親方の前まで来ると再び頭を下げ、そのまま走り門をくぐって、姿は見えなくなっていった。


 本当に不思議な少女であった。

 俺は止めていた足を進め、抱えていた石材を積み、親方の方へと戻る。


「すみません、親方。それにしてもあの子は何なんですか?」


 謝罪と疑問、両方を済ますために石材ではなく親方の方へと戻った。俺のサボりを咎めることはなく、親方は困ったように頭を掻きながら質問に答えてくれた。


「あいつはこの街の錬金術師でな。木材の防腐剤や、この橋の風化防止剤を依頼で作って持ってきてもらってんだ」


 錬金術士と聞いた途端、脳裏に人体錬成や賢者の石がよぎったが、そんなものではないようだ。


「それにしても、坊主に何の用だったんだか、あいつは……」


 それは俺も聞きたい。

 最後に何か言いかけていたが、それもわからず終いだ。


 まあ気にしても仕方ない。

 今日は久しぶりにエンリが化ける以外の女の子と会話をした日だ。


 俺も男、気分は高揚し、この日の作業もまた一倍精を出すのであった……。

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