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14-謎の少女

 無事に要石で橋を繋ぎ、問題なく完成した後。

 次の仕事は、壁石と呼ばれる石を輪石の上に積んでいき、橋の上を平らにしていくことだ。


 場合によってはこの壁石に模様が入っていて、均等に積み上げていくこともあれば、壁石自身の計算された組み合わせで模様を作っていくこともあるらしいが、今回は難しいことはなくただ石材を積み上げていく乱れ積みというものだ。


 簡単に言えば、今までと変わらず指定されている石を輪石の上に積んでいけばよい。

 最後には橋の上を平らにするが、そこは魔法や削る作業も入るので、でっぱりなどが出ても俺たちは何も考える必要はない。

 この橋の頑丈さは前回の魔法などの件でお墨付きなので心配する必要もなく石を積んでいける。


 対岸へと移動するのも、輪石だけの橋といえど問題なく渡れるのでとても楽になった。

 これはとても嬉しい。

 前の、人が倒れる事件のようなことがあったとしても対応が早くなるし、移動に時間が取られることが少ないのも単純に喜ばしいことだ。


 まあその分、仕事の時間が長引くことになるのだろうが。


 というわけで、今日も今日とて石運びである。

 前までは対岸側にいた者たちとも混ざるので、何だかスムーズに進んでいる気もするが気のせいだ。


 橋の幅は馬車が二、三台は通れるほど。

 輪石を敷くだけで約三ヶ月はかかったのだ。この上に更に倍以上を、アーチ状から平らに積み上げていくとなると気が遠くなるが、何とか三年の内には終わらせたいとこだ。


 さあ、今日も一日頑張るぞ。




 〜〜〜




 雨にも負けず、風にも負けず。

 寒さにも負けず、冬の乾燥にも負けず、毎日毎日働き続け。

 三ヶ月が過ぎた頃。


 この世界にも年があり、三百六十日。

 一ヶ月は三十日であり、週は七日。

 季節も春、夏、秋、冬とある。


 一年を通して、精霊の力が強まる時期が季節の変わり目とされているらしいが、四季がある理由は未だよくわかっていない。


 このプロージの街はそこそこ温暖なようで、冬も囚人服で肌寒い程度ではあるが、地域によっては年中雪が積もっている場所もあるらしい。


 以上が、未だに看板娘として働き、情報収集もしてくれているエンリからのこの世界の知識だ。

 最近では専ら、おかげで俺の情報不足もなくなりつつあり、牢屋で話す話題は来る客のことなどになってはいるが。


 俺が捕まったのは10月の終わり頃なので、あと二年と九ヶ月。


 橋へ移動する際に、街では様々な祭りや行事のような光景が見受けられたが、奴隷の身では参加もできない。

 土方や親方も毎日いるわけもなく、見張りの騎士も定期的に変わった。


 変わらないのは俺たち三人の奴隷、毎日が労働である。

 エンリには休日があるし、お金も溜め込んでいるので気晴らしにそういった祭りなどに参加してみてはどうだとも提案したのだが、


「その時は絶対に主と一緒がいい」


 と嬉しいことを言われ、以来街の行事などについては出所後の楽しみの一つとなっている。


 楽しみがあるから頑張れる。

 終わりが見えるから頑張れる。


 そんなこんなで続けている、毎日が変わらない橋づくりの労働であったが、今日は新たな風が吹き込んだ。


「ごめんなさーい! 遅くなりましたー!」


 俺がこの橋づくりの名物、一人石材運びをしながら橋の中間に差し掛かった距離でも聞こえる程の大声が作業場全体に響き渡った。


 その声は少女特有の高さを持っており、これまで男と蜥蜴に化けたエンリしか見られなかったこの職場では初めて耳にする声である。


 因みに今日もエンリは仕事でいない。

 最近は俺が牢屋でポツリと食べたいなぁ、と零したとある料理が、エンリが店にも伝え今では冬の人気メニューとなり、店も忙しいらしい。


 声の方は門から。

 運ぶ石材は街から馬車で運ばれてくるので、運ぶ石材があるのは門側の地面である。


 俺は石材を積み、サボってはいませんよとアピールしながら再び石材の方へと向かい、その途中視線を巡らせ声の主を探す。


 するとそこには、紫と橙が混ざったような、鮮やかな色の長髪をした、走ってきたのか手を膝につけている少女と、キラリと光る頭の我が親方が立っており、何やら話し込んでいた。


 少女の顔は遠目からでもわかるほどに整っており、まさに美少女。何とも説明しがたい、髪と合わせたのか紫を基調としたハロウィンの魔女のコスプレのような服を着ている。

 ふわふわとしたスカートが可愛らしい。


 変わらぬ日々の大きなスパイスに、思わず真面目な俺の、石材へと向かう足も速度が落ちる。


「ったく嬢ちゃん、頼むぜ? まあ、新入り奴隷のせいで仕事が早まっちまって、必要になるのが早まっちまったのは悪かったが」


「いえいえ、これもあたしの力不足です! 出来たら量は問わずすぐ持ってこいということでしたので、数は足りませんがとりあえずはこれを」


 声が聞こえる距離まで来ると、聞こえてきた内容から察するにあの子は商売人か何かか。

 よく見れば背には大きなバッグを背負っている。


 はて、橋づくりに必要なものが他に何かあるのか。

 前世でも橋づくりの経験もなし、この世界の橋についての知識もなしの素人にはわからん話なので、とりあえず石材置き場に着いたのでゆっくりと持ち上げながら聞き耳を立てておく。


「……まあ、今はこれだけあれは十分か。これからも出来次第すぐに持ってきてくれよ」


「わかりました! 他に仕事も特にないので、頑張って作っていきます!」


 横目でチラチラと見ていると、少女がどさりとバッグを下ろして、何やら液体の入った瓶を地面に次々とバッグから取り出し置いていった。


 親方も顎に手を当てながら数を見てうなずく。


 それにしても作るとな?

 彼女は商売人ではなく職人であったか。


 あれが何なのかは知らないが、見た目もまだ10代半ばの少女が物を作って売っているなんてすごいなぁ。

 などと、石材を運び、しみじみ思いながら見ていると、空になったバッグを背負い直した少女と目があってしまった。


 まずい、興味の赴くままに任せていたのが不味かったか。

 少女は俺の顔を見てビクリと一歩退く。


 ……久しぶりの反応に、少しだけショックを受ける俺。

 まあ強面の男が自分のことをジロジロと見ていたら、誰だって驚くだろう。


 俺は誤魔化すように視線を前に戻し、石材を運ぶ足を早めどうにか離れようとする。


 が、これまた予想外の出来事が起こった。


「あ、待ってくださーい!」


 俺の背に、少女の声がかけられたのだ。

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