第3話 俺の周り、少し騒がしくないか?
大学祭実行委員に参加すると決めてから、一週間。
俺の日常は、少しだけ変わった。
「藤堂ー!」
朝。
大学の正門をくぐったところで、聞き慣れた声が飛んでくる。
「おはようございます、晃先輩!」
「おはようございます~」
「……おはようございます」
三人。
桐生颯太。
天野心春。
橘花音。
「なんでお前らが一緒にいるんだ?」
「駅で会った!」
颯太が答える。
「そして、心春ちゃんが俺に『晃先輩はどこですか?』って」
「言ってないです!」
「言っただろ!」
「言ってません!」
「じゃあ花音ちゃん!」
「私は……『藤堂くんはどこですか~?』って聞きました」
「ほら!」
「なんで花音まで!?」
心春が慌てる。
「違います! 大学祭の打ち合わせがあるからです!」
「俺も大学祭だよ」
「颯太先輩は関係ないですよね?」
「ひどい!」
朝から騒がしい。
俺はため息をつく。
「とりあえず、遅刻するぞ」
「はーい!」
心春が元気よく返事をした。
――なんだか最近、俺の周りが騒がしい。
午前の講義。
大学祭の準備が始まったとはいえ、学生の本分は勉強だ。
俺は講義を受けながらノートを取っていた。
すると。
「……藤堂くん」
隣から小さな声。
見ると、花音がこちらを見ていた。
「どうした?」
「この問題……分かりますか?」
ノートを見せてくる。
「どれ?」
「ここです~」
指差された場所を見る。
「これは、この公式使えばいい」
「公式……」
「ここをこうして」
「なるほど……!」
花音が真剣な顔でノートを見る。
「藤堂くんって教えるの上手ですね~」
「そうか?」
「はい」
「じゃあ、今度から分からないところがあったら聞いて」
「本当ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます~」
花音が嬉しそうに笑う。
そのとき。
「……藤堂くん」
前の席から莉奈が振り返った。
「何?」
「私も分からないんだけど」
「どこ?」
「全部」
「……」
「お願い!」
「授業聞いてた?」
「聞いてたよ!」
「じゃあ分かるだろ」
「分からなかったから聞いてるの!」
「それもそうか」
「じゃあ教えて!」
「はいはい」
俺は莉奈のノートを見る。
すると、花音が小さく笑っていた。
「桜井さんも藤堂くんに教えてもらってるんですね~」
「うん!」
「じゃあ私たち、一緒ですね」
「そうだね!」
何故か二人が意気投合する。
俺は少しだけ嫌な予感がした。
昼休み。
俺たちはいつものカフェテリアに集まっていた。
「それでさ!」
莉奈が楽しそうに話している。
「今年の大学祭、何やる?」
「まだ決まってないだろ」
直人が答える。
「だから考えるんじゃん!」
「桐生は?」
「俺は屋台!」
「具体性がない」
「じゃあ、お化け屋敷!」
「去年も候補にあったな」
「今年こそ!」
颯太が拳を握る。
「私はカフェがいいです!」
心春が手を上げた。
「カフェ?」
「はい! 可愛い制服を着て、みんなでお客さんを迎えるんです!」
「お前、そういうの似合いそうだな」
「本当ですか!?」
「ああ」
「えへへ……」
心春が嬉しそうに笑う。
すると。
「私もカフェがいいです~」
花音も手を上げる。
「花音も?」
「はい~」
「でも花音、料理できるの?」
「……」
「花音?」
「……できますよ?」
「今の間は何だ」
「できます!」
花音が少しだけ頬を膨らませた。
「じゃあ、藤堂くんが味見してくださいね」
「俺が?」
「はい」
「……まあいいけど」
「やった~」
花音が嬉しそうに笑う。
「晃」
颯太が俺の肩を叩いた。
「何?」
「お前、モテ期来てるんじゃね?」
「何言ってるんだ」
「いや、だって」
颯太が周囲を見る。
莉奈。
花音。
心春。
そして少し離れた席にいる――。
「藤堂」
葵先輩。
「こっち来て」
「はい?」
「実行委員の資料」
「ああ」
俺は立ち上がる。
颯太がニヤニヤしている。
「……」
「なんだよ」
「いや」
「何?」
「なんでもない」
「さっきからそればっかりだな」
大学祭実行委員会。
会議室には、各学部やサークルから集まった学生が並んでいる。
「今年のテーマは――」
瀬戸先輩が前に立つ。
「『繋がる』だ」
会議室が少しざわつく。
「大学にはいろんな学部がある。普段なら関わらない人たちもいる」
瀬戸先輩は続ける。
「だから今年は、学部やサークルの垣根を越えて、一つの大学祭を作りたい」
拍手が起こった。
俺も手を叩く。
「いいテーマですね」
隣にいた結衣先輩が微笑む。
「そうだね」
「白石先輩は何か企画するんですか?」
「私は実行委員全体のサポートかな」
「大変そうですね」
「藤堂くんもね」
「俺はまだ一年目ですから」
「でも去年も手伝ってくれたでしょう?」
「まあ……」
結衣先輩は優しく笑う。
「頼りにしてるよ」
「……はい」
不思議な人だ。
白石先輩に頼られると、断りづらい。
その向かいでは。
「藤堂」
葵先輩が資料を見ながら口を開いた。
「この企画書、少し手伝って」
「俺が?」
「あなた、こういう文章得意でしょう」
「まあ、人並みには」
「じゃあお願い」
「分かりました」
「ありがとう」
短いやり取り。
でも。
最近、葵先輩とも話すことが増えた。
去年までは、挨拶する程度だった。
それが今では、こうして仕事を頼まれるようになった。
人との距離は、気づかないうちに変わっていくものなのかもしれない。
夕方。
会議が終わった。
「藤堂先輩!」
心春がこちらへ駆けてくる。
「どうした?」
「一緒に帰りませんか?
「颯太たちは?」
「先に帰りました!」
「そうか」
俺は荷物を持つ。
「じゃあ帰るか」
「はい!」
キャンパスを歩く。
夕方の校舎は、昼間より少し静かだった。
「先輩」
「ん?」
「大学祭、楽しみですね」
「そうだな」
「先輩は去年も参加したんですか?」
「ああ」
「楽しかった?」
「まあ」
「じゃあ、今年も楽しくなりそうですね」
「……どうかな」
「楽しいですよ」
心春は迷いなく言った。
「私、先輩と一緒なら楽しいと思います」
「……」
思わず足が止まりそうになる。
「どうしました?」
「いや」
俺は歩き続ける。
「そういうこと、あんまり簡単に言わないほうがいいぞ」
「どうしてですか?」
「誤解する奴もいるから」
「……先輩は?」
「俺?」
「先輩は誤解しますか?」
「しない」
「……本当に?」
「ああ」
心春は少しだけ寂しそうな顔をした。
だが、すぐに笑った。
「じゃあ、これから分かってもらいます」
「何を?」
「私が先輩のこと、どう思ってるのか」
「……」
俺は何も答えなかった。
ただ。
胸の奥に、少しだけ違和感が残った。
その夜。
自宅に帰ってから、大学祭の資料を確認していた。
スマホが鳴る。
メッセージ。
【桜井莉奈】
『今日の会議お疲れ!』
短いメッセージ。
『お疲れ』
返信する。
すぐに既読。
『明日、一緒にお昼食べない?』
『いいけど』
『やった!』
その直後。
【橘花音】
『藤堂くん、明日空いてますか~?』
続けて。
【天野心春】
『晃先輩! 明日一緒に大学行きませんか?』
さらに。
【白石結衣】
『明日の実行委員会、少し早めに来られるかな?』
そして。
【小鳥遊葵】
『企画書、確認したい』
「……」
スマホを見る。
メッセージが五件。
少し前まで。
こんなに連絡を取る相手はいなかった。
俺はスマホを机に置く。
「……忙しくなりそうだな」
それなのに。
なぜか嫌ではなかった。
むしろ――。
少しだけ。
楽しみだった。
翌朝。
「おはようございます、晃先輩!」
「おはよう」
「……あれ?」
大学の正門。
心春が首を傾げる。
「先輩、今日ちょっと嬉しそうじゃないですか?」
「そうか?」
「はい」
「気のせいだろ」
「ふふっ」
心春が笑う。
「じゃあ、そういうことにしておきます」
「何だそれ」
俺たちは並んで歩く。
少し前まで。
俺は誰かと一緒に歩くことなんて、ほとんどなかった。
でも今は。
隣に誰かがいる。
それが――。
少しだけ、心地よかった。
そして俺はまだ知らない。
今日から始まる大学祭の準備が。
俺たち六人の関係を、大きく変えていくことを。
そして――。
この何気ない日常が。
いつか俺にとって、
かけがえのない時間になることを。
記念すべき一作目です!!!
大学でのハーレム小説ということでこれからの展開をお楽しみに!!!
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