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第32話 「君の隣で見つけたもの」

放課後。

約束通り、俺は大学の中庭へ向かっていた。

冬の夕暮れは早い。

空は少しずつオレンジ色から青紫色へと変わり始めている。


「……凛、まだ来てないか」


辺りを見回す。


すると――。


「晃」


後ろから声がした。

振り返る。


凛が立っていた。


「待った?」

「いや。俺も今来たところ」

「そう」


凛は俺の隣まで歩いてくる。

今日はいつもより少しだけ表情が柔らかい。


「それで、今日は何の用なんだ?」

「……一緒に行きたい場所がある」

「場所?」

「うん」


凛はそれだけ言って歩き始めた。


「ついてきて」

「分かった」



連れてこられたのは、大学の図書館だった。


「図書館?」

「そう」

「意外だな」

「何が?」

「凛が俺を誘う場所としては」

「……静かな場所が好きだから」

「なるほど」


図書館の奥にある閲覧スペース。

そこには大きな窓があり、キャンパス全体を見渡せる。


「ここ、私がよく来る場所」


凛が窓の外を見る。


「人が少ないから落ち着く」

「確かに静かだな」

「うん」


俺も隣に立つ。

夕日に照らされたキャンパスは、普段とは少し違って見えた。


「大学って、広いよね」


凛が呟く。


「入学したばかりの頃は、全部知らない場所だった」

「俺もそうだったな」

「でも、今は違う」

「……そうだな」


凛がこちらを見る。


「この場所にも、知ってる人が増えた」

「颯太とか、直人とか?」

「それもそう」


少し間を置いて。


「……晃も」

「俺も?」

「うん」


凛は小さく笑った。


「最初は、ただの知り合いだった」

「今は?」

「……大切な人」

「……」


不意打ちだった。

俺は何も言えず、窓の外へ視線を戻す。

凛はそんな俺を見て、少しだけ笑った。


「照れてる?」

「……別に」

「顔、赤い」

「夕日のせいだ」

「そういうことにしておく」

「……凛」

「ふふ」


いつもより楽しそうだった。



しばらくして、凛が一冊の本を取り出した。


「これ、知ってる?」

「……大学の歴史?」

「そう」


古い大学案内のような本だった。


「この大学、昔から結構いろんなイベントをやってたんだって」

「へえ」

「昔の写真もある」


ページをめくる。

そこには、今とは少し違うキャンパスの風景が載っていた。


「すごいな」

「でしょう?」

「こうして見ると、時間って長いようで短いな」

「……うん」


凛の声が少しだけ寂しくなる。


「私たちも、いつか卒業する」

「そうだな」

「晃は、卒業したらどうする?」

「まだ具体的には決めてない」

「そっか」

「凛は?」

「私もまだ」


凛は本を閉じた。


「でも」

「ん?」

「卒業しても、今の関係が続けばいいなって思ってる」

「……」

「大学を卒業したら、みんなと会う機会は減ると思う」

「確かにな」

「だから、今の時間を大事にしたい」


その言葉を聞いて、俺は思った。

自分も同じだった。

今まで、卒業なんてまだ先だと思っていた。


けれど。


いつか必ず、その日は来る。


莉奈とも。

花音とも。

葵先輩とも。

結衣先輩とも。

心春とも。

凛とも。


ずっと同じ時間を過ごせるわけじゃない。


だからこそ――。


「凛」

「なに?」

「今日は誘ってくれてありがとう」

「……うん」

「俺も、こういう時間を大切にしたいと思う」


凛は静かに微笑んだ。


「じゃあ、一つお願いしていい?」

「なんだ?」

「もう少しだけ、一緒にいたい」

「もちろん」



図書館を出ると、外はすっかり夕暮れになっていた。


「寒いな」

「うん」


二人で駅へ向かって歩く。

しばらく無言だった。

でも、不思議と気まずくない。

むしろ心地よかった。


「晃」

「ん?」

「私ね」

「うん」

「昔は、一人でいるほうが楽だと思ってた」


凛は前を向いたまま話す。


「誰かと一緒にいると、その人がいなくなった時に寂しくなるから」

「……」

「でも今は、少し考え方が変わった」

「どう変わった?」

「いなくなることを怖がるより」


凛が俺を見る。


「一緒にいられる時間を大切にしたい」

「……そうだな」

「だから」


凛は少し笑った。


「これからも、よろしく」

「ああ」


俺も笑った。


「こちらこそ」


駅に着く。


「じゃあ、また明日」


凛が手を振る。


「ああ。また明日」


凛が人混みの中へ消えていく。

俺はその背中をしばらく見送っていた。


――不思議だった。


凛と一緒にいると、時間がゆっくり流れているように感じる。

何か特別なことをしたわけじゃない。


ただ話して。

本を見て。

歩いただけ。


それなのに。


「……楽しかったな」


自然と、そんな言葉が口から出た。



帰宅後。

部屋でスマホを見る。

グループチャットには、颯太から大量のメッセージが届いていた。


『晃!』

『明日の昼、みんなで飯食おうぜ!』

『最近お前だけ忙しくね?』

『もしかしてまた誰かと――』


そこでメッセージは止まっていた。


「……あいつは本当に」


苦笑する。

その直後。

別の通知が届いた。


凛だった。


『今日はありがとう』


『こっちこそ』


少し考えてから、もう一度文字を打つ。


『またこういう時間、作ろう』


送信。


既読がつく。


そして。


『うん。約束』


その短い言葉を見て、俺はスマホを置いた。


「……約束、か」


胸の中が少しだけ温かくなる。

俺はまだ、誰を選ぶのか分からない。


でも。


少しずつ。


本当に少しずつだけど。

自分の気持ちが見えてきている気がする。


誰といる時に安心するのか。

誰といる時に笑うのか。

誰といる時間を、もっと増やしたいと思うのか。


そして――。


「俺は……誰の隣にいたいんだろうな」


答えはまだ出ない。


けれど。


その答えを探すことが、今は怖くなかった。


むしろ――。


少しだけ、楽しみになっていた。



そして翌日。

大学へ向かった俺を待っていたのは――。


「晃!」

「おはよう、晃くん!」

「おはよ」

「おはようございます!」

「おはよう、晃くん」

「……おはよう」


六人全員だった。


「……なんで全員いるんだ?」


思わず呟く。

すると颯太が遠くから叫んだ。


「お前、完全に囲まれてんじゃん!」

「颯太、うるさい!」


直人のツッコミが飛ぶ。

朝から始まる、いつもの騒がしい時間。


だけど。


昨日までとは、少しだけ違って見えた。

俺は六人を見渡す。


そして――。


心の中で、小さく思った。


――この時間を、大切にしたい。


その気持ちは、もう間違いなく本物だった。

初めましての方は初めまして。

桜兎(さくらびっと)です。


六日も更新していませんでした!

大変申し訳ございません。

言い訳になってしまいますが、現在カクヨム様にて新しく連載を始めた小説の方がございましてそちらにここ週数間は力を入れておりました。

興味がある方はぜひそちらの方もご覧くださいませ。


そして、現在高校三年生という大事な時期でして、就職活動をしております。

試験日までもう少しです。もし落ちてしまったらまた一から始めないといけません。

そのためこれからは少しずつでの更新となりますが応援の方よろしくお願いいたします。

極力、頑張って投稿していきます。


「転生したら美少女イラストレーターでした――正体を隠して活動していたら、VTuberたちに懐かれすぎています」

https://kakuyomu.jp/works/2912051607200315841

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