第33話 「六人と過ごす冬の日」
冬の大学には、いつもとは違う活気があった。
中庭にはイルミネーション。
校舎には期間限定の装飾。
学生たちが企画した屋台やイベントも並び、普段より多くの人がキャンパスを歩いている。
今日は――。
大学主催の冬イベントの日だった。
「いやぁ、こういうのって大学っぽいよな!」
颯太が楽しそうに辺りを見回す。
「お前は何でも楽しそうだな」
直人が呆れたように言う。
「当然だろ! イベントだぞ!」
「子供かよ」
「いいじゃん!」
二人のやり取りを聞きながら、俺は笑う。
「晃」
後ろから声がした。
振り返る。
莉奈だった。
「おはよう!」
「おはよう、莉奈」
「今日は楽しもうね!」
「ああ」
その隣には花音もいる。
「晃くん、おはようございます~」
「おはよう、花音」
「今日はいっぱいお店がありますね」
「そうだな」
そして――。
「おはよう」
葵。
「おはようございます、先輩」
「ふふ。今日は楽しそうね」
結衣もやってくる。
「晃くん、おはよう」
「おはようございます」
「今日は寒いから、ちゃんと暖かくしてね」
「はい」
さらに。
「晃先輩!」
心春が駆け寄ってくる。
「おはようございます!」
「おはよう、心春」
「今日は絶対、一緒に回りましょうね!」
「分かった」
最後に。
「……おはよう」
凛。
「おはよう、凛」
六人が揃う。
それだけで――。
「……すごいな」
思わず呟いてしまった。
「何が?」
莉奈が首を傾げる。
「いや、何でもない」
俺は苦笑した。
「それじゃあ、どうする?」
イベント会場の入り口。
全員でパンフレットを眺める。
「まず屋台!」
颯太が即答。
「お前は食べることしか考えてないのか」
直人がツッコむ。
「だって腹減ってるし!」
「まあ、いいんじゃない?」
莉奈が笑う。
「じゃあ最初は屋台にしようよ」
「賛成です!」
心春も手を挙げる。
花音はパンフレットを見ながら呟いた。
「私、甘いもの食べたいです~」
「じゃあ、スイーツ系を探すか」
「はい!」
そんな話をしながら歩いていると――。
「晃くん」
結衣が小さく声を掛けてきた。
「ん?」
「今日は、みんなで過ごせてよかったね」
「そうですね」
「……うん」
結衣は嬉しそうに笑った。
その時。
「晃!」
莉奈の声。
「こっち!」
見ると、莉奈が屋台の前で手招きしていた。
「これ、美味しそう!」
「何だ?」
「焼き菓子!」
「買うか」
「うん!」
その隣では花音が別の店を見ている。
「晃くん、こっちにもありますよ~」
「今行く」
「……」
心春が少し頬を膨らませた。
「先輩、人気者ですね」
「そうか?」
「そうですよ」
凛が静かに言う。
「本人だけ気付いてない」
「……」
「そうなの?」
俺が聞くと、凛は頷いた。
「そう」
「そっか」
すると葵が笑う。
「自覚したほうがいいわね」
「……善処します」
昼過ぎ。
イベント会場の一角では、学生たちによるミニゲームが開催されていた。
「これ、面白そう!」
莉奈が目を輝かせる。
「二人一組みたい」
花音が説明書きを読む。
「じゃあ、誰と誰が組む?」
「はい!」
心春が勢いよく手を挙げた。
「私、晃先輩と!」
「おい、早いな」
「早い者勝ちです!」
「じゃあ私は花音と」
莉奈が言う。
「えっ?」
花音が驚く。
「いいよね?」
「はい~」
葵と結衣もペアになり、凛は一人残る。
「じゃあ凛は俺たちのチームで――」
「待って」
凛が遮る。
「私は一人でいい」
「でも、このゲーム二人一組だぞ?」
「……」
凛が少し考える。
すると。
「俺が凛と組むよ」
陸が後ろから現れた。
「瀬戸先輩!」
心春が驚く。
「こういうイベント好きだからさ」
陸が笑う。
「凛、一緒にやろうぜ」
「……うん」
凛が頷いた。
「それじゃ、スタート!」
ゲームが始まる。
内容は、会場内に隠されたポイントを探していく簡単な謎解きだった。
「晃先輩、こっちです!」
心春が走る。
「待てって!」
「早く!」
「危ないぞ!」
「大丈夫です!」
「絶対大丈夫じゃないだろ……」
そんな俺たちを見て、莉奈が笑っている。
「晃、楽しそう!」
「心春が元気すぎるんだよ」
「ふふっ」
一方、花音は。
「莉奈ちゃん、これじゃないですか?」
「本当だ!」
葵と結衣も順調に進んでいる。
そして凛たちも――。
「陸、そこじゃない」
「え?」
「反対」
「あ、ほんとだ」
「……」
凛が小さく笑った。
そんな光景を見ていると。
「……なんかいいな」
自然とそう思った。
みんなが楽しそうにしている。
それだけなのに胸の奥が温かくなる。
ゲームが終わる。
結果は――。
「優勝は……晃・心春ペア!」
「やったー!」
心春が飛び跳ねる。
「晃先輩!」
「おめでとう」
葵が拍手する。
「さすがですね」
結衣も笑う。
「俺、ほとんど心春について行っただけだけどな」
「そんなことないです!」
心春が嬉しそうに笑った。
莉奈が少し悔しそうにする。
「むー……」
「莉奈?」
「次は負けない!」
「何の勝負だよ」
「全部!」
「全部って……」
「ふふっ」
花音が楽しそうに笑う。
凛も小さく笑っていた。
「……今日は楽しい」
「凛?」
「ううん。何でもない」
けれど、その表情は明らかに嬉しそうだった。
夕方。
イベントの最後には、中庭のイルミネーションが点灯した。
「綺麗……」
花音が呟く。
「すごいですね」
心春も目を輝かせている。
莉奈は写真を撮っていた。
「晃、こっち見て!」
「ん?」
カシャッ。
「撮れた!」
「何で俺を撮るんだよ」
「記念!」
「なら全員で撮ればいいだろ」
「それもそうだね!」
結衣が笑う。
「じゃあ、みんなで撮りましょう」
「賛成」
葵が頷く。
陸と颯太、直人も加わる。
全員で並ぶ。
「じゃあ撮るよー!」
写真を撮る。
画面に映った全員の笑顔。
それを見て、俺は少しだけ笑った。
――こういう時間が、ずっと続けばいい。
そんなことを思ってしまった。
イベント終了後。
駅へ向かう道。
六人と俺は、途中まで一緒に歩いていた。
「今日は楽しかったね」
莉奈が言う。
「うん」
花音も頷く。
「またこういうことしたいです」
心春が言う。
「そうね」
葵が微笑む。
結衣も。
「私も」
凛は少しだけ考えてから。
「……またみんなで行きたい」
「じゃあ、また計画するか」
俺が言うと。
「本当に?」
莉奈が振り返る。
「ああ」
「約束だよ!」
「分かった」
みんなが笑う。
その瞬間。
俺のスマホが鳴った。
昼間撮った写真が送られてきた。
さっきの集合写真だった。
写真を見る。
そこには――。
笑っている自分がいた。
昔なら、こんな写真を撮られるのも嫌だった。
人と並ぶことも。
誰かと一緒に写ることも。
でも今は違う。
「……変わったな、俺」
小さく呟く。
すると凛がこちらを見る。
「何か言った?」
「いや」
俺は写真を見ながら笑った。
「いい写真だなって」
「……うん」
凛も笑った。
その横で、莉奈がこちらを見る。
花音も。
葵も。
結衣も。
心春も。
それぞれの表情は違う。
けれど。
その全員と過ごした今日という時間が、俺にとって大切なものになっている。
まだ答えは出ていない。
だけど――。
いつか答えを出す時が来る。
その時は。
逃げずに、自分の気持ちを伝えよう。
そう思った。
冬の夜。
イルミネーションに照らされた道を歩きながら。
俺たちは、それぞれの帰路へと向かっていった。
そして――。
誰にも見えないところで。
六人の想いは、少しずつ次の段階へ進み始めていた。
お久しぶりです。
初めましての方は初めまして。
桜兎と申します。
本当に久々な感じがしますね。
楽しみに待っていてくれた方には申し訳なく思っております。
簡潔に更新を止めてた理由を話すと、現在現役の高校三年生でして就職活動をしておりました。
そしてありがたいことに、第一志望である行きたかった企業様に内定をもらうことができました!!!!
これからは前みたく、毎日投稿とはいきませんが連載を開始していきますので応援をよろしくお願いいたします!!!




