第26話 六人の本音――初めての恋敵
学園祭が終わった翌週。
大学の中庭。
俺の目の前には――六人の女子が並んでいた。
莉奈。
花音。
葵先輩。
結衣先輩。
心春。
凛。
そして。
なぜか俺は、その中心にいる。
「……」
重い。
空気が。
ものすごく重い。
「えっと……」
俺が口を開こうとすると。
「藤堂くん」
莉奈が言った。
「ちょっとだけ、私たちで話してもいい?」
「俺は……」
「大丈夫」
莉奈が笑う。
「藤堂くんには聞かせるから」
「……分かった」
俺は近くのベンチに座る。
六人は少し離れた場所で向き合った。
「最初に言うね」
莉奈が口を開く。
「私は藤堂くんが好き」
真っ直ぐな言葉だった。
「友達としてじゃない」
「……」
「男の人として好き」
莉奈は少し恥ずかしそうにしながらも。
目を逸らさなかった。
「だから」
「……」
「私は、誰にも負けたくない」
「私もです」
心春が続く。
「私も藤堂先輩が好きです」
「……」
「先輩といると安心します」
「……」
「もっと先輩の近くにいたいです」
心春は小さく笑う。
「だから、私も頑張ります」
「私も~」
花音が手を上げる。
「私も藤堂くんが大好きです」
「花音……」
「最初は」
花音は少し照れながら話す。
「藤堂くんって、大人っぽくて優しい人だなって思ってました」
「……」
「でも、一緒にいるうちに」
「……」
「もっと一緒にいたいって思うようになりました」
花音は笑う。
「だから、私も諦めません」
「私も」
葵が静かに言う。
「藤堂のことが好き」
短い言葉。
だけどその声には強い意志があった。
「私はあまり感情を表に出すのが得意じゃない」
「……」
「だから、今まで言わなかった」
「……」
「でも」
葵が俺を見る。
「私も譲るつもりはない」
「私も同じだよ」
結衣先輩。
「藤堂くんが好き」
優しい笑顔。
でもその目には決意が宿っている。
「先輩だからって遠慮するつもりはない」
「……」
「私も一人の女の子だから」
最後に。
凛が口を開く。
「私も」
「……」
「藤堂先輩が好きです」
凛は全員を見る。
「昨日までなら」
「……」
「みんなと争うなんて考えませんでした」
「……」
「でも」
凛は真っ直ぐに言う。
「好きな人を諦める理由にはなりません」
「……」
「だから」
「……」
「私も戦います」
六人の視線が交差する。
空気が張り詰める。
だが。
「……ふふ」
突然、莉奈が笑った。
「何?」
葵が尋ねる。
「いや」
莉奈は笑いながら。
「みんな本気なんだなって」
「当然です~」
花音が頷く。
「私だって負けません!」
心春も続く。
「私も」
凛が頷く。
「……私もよ」
葵。
「私も」
結衣。
「じゃあ」
莉奈が手を差し出す。
「勝負しよう」
「勝負?」
「うん」
莉奈は笑う。
「誰が一番、藤堂くんを幸せにできるか」
「……」
俺は思わず頭を抱えた。
「待ってくれ」
「何?」
「俺の意見は?」
「もちろん聞くよ」
莉奈が笑う。
「でも」
「……」
「私たちも本気だから」
俺は何も言えなかった。
その日の放課後。
俺は颯太と直人に呼び出された。
「晃」
「なんだ?」
「大変なことになったな」
颯太が肩を叩く。
「お前、六人から好かれてるんだぞ?」
「分かってる」
「しかも全員、かなり本気」
「……」
直人が腕を組む。
「お前、どうするんだ?」
「俺は……」
答えが出ない。
「まだ分からない」
「まあ」
直人が頷く。
「無理に決める必要はないと思う」
「そうだな」
「でも」
颯太がニヤッとする。
「これから大変だぞ?」
「……何が?」
「六人が本気でアピールしてくるってことだよ」
「……」
「覚悟しとけ」
「余計なこと言うな」
翌日。
「藤堂くん」
莉奈がやってくる。
「お昼、一緒に食べない?」
「いいよ」
「やった!」
その瞬間。
「藤堂先輩」
心春が現れる。
「私も一緒にいいですか?」
「もちろん」
「……」
莉奈が心春を見る。
「もちろん、みんなで食べればいいよね」
「はい!」
そこへ。
「藤堂くん~」
花音。
「私も~」
「……」
さらに。
「藤堂」
葵。
「私もいい?」
「もちろんです」
「ありがとう」
そして。
「藤堂くん」
結衣先輩。
「私も一緒にいいかな?」
「はい」
最後に。
「……」
凛。
「私も」
「うん」
結果。
昼休み。
俺の周りには六人。
「……」
俺は思わず呟く。
「人数、多くないか?」
「いいじゃん!」
莉奈が笑う。
「楽しいし!」
「そうですね~」
花音も笑う。
「……まあ」
葵が頷く。
「悪くないわね」
「私も楽しい」
結衣。
「先輩と一緒なら!」
心春。
「……」
凛も少し笑った。
昼休みが終わる。
俺が教室へ戻ろうとすると。
「藤堂くん」
莉奈が呼び止める。
「ん?」
「今日、放課後空いてる?」
「特に予定はないけど」
「じゃあ」
莉奈が笑う。
「一緒に帰ろうよ」
「分かった」
「約束ね!」
放課後。
校門。
莉奈が待っている。
「藤堂くん!」
「待たせた?」
「ううん」
二人で歩く。
「ねえ」
「ん?」
「この前の学園祭」
「うん」
「結衣先輩と話してたこと」
「……」
「私、聞いちゃった」
「……そうだったのか」
「うん」
莉奈は少し俯く。
「正直、悔しかった」
「……」
「でも」
莉奈は俺を見る。
「それ以上に」
「……」
「私もちゃんと伝えなきゃって思った」
「莉奈……」
「だから」
莉奈は立ち止まる。
「私はこれから、もっと藤堂くんの近くにいたい」
「……」
「友達じゃなくて」
莉奈の顔が赤くなる。
「好きな人として」
「……」
俺は答えられなかった。
けれど。
「ありがとう」
それだけは言えた。
「うん」
莉奈は笑う。
「今はそれでいいよ」
翌朝。
大学の掲示板に。
一枚の紙が貼り出された。
『冬季交流イベント・実行委員募集』
俺はそれを見る。
「冬か……」
まだ秋になったばかりなのに。
大学生活は思っていた以上に早く過ぎていく。
そして。
俺の知らないところで、六人のヒロインたちはそれぞれ自分なりの方法で動き始めていた。
その日の夕方。
凛が一人で大学の屋上にいた。
そこへ。
「凛」
葵が現れる。
「……小鳥遊先輩」
「少し話さない?」
「はい」
二人は並んで空を見る。
「あなた」
葵が言う。
「本気なのね」
「はい」
「藤堂のこと」
「はい」
「そう」
葵は少し笑う。
「なら、私も遠慮しない」
「……」
「あなたにも」
「はい」
「莉奈にも」
「……」
「誰にも」
葵は空を見る。
「負けるつもりはないから」
凛も小さく笑う。
「私もです」
二人は顔を見合わせる。
そして。
「……いい恋敵になりそうね」
「そうですね」
秋。
恋の季節。
今まで仲間だった六人が。
初めて恋敵になった。
けれど。
誰かを蹴落とすためじゃない。
誰かを傷つけるためでもない。
ただ一人。
藤堂晃という男に。
自分の気持ちを届けるために。
六人は。
少しずつ前へ進み始める。
そして晃自身もまだ気づいていない。
自分の心の中に。
「特別な誰か」への感情が芽生え始めていることに。




