↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/34

第25話 学園祭二日目――初めての嫉妬

 学園祭二日目。

 朝から大学は昨日以上の賑わいを見せていた。


 正門には大きな看板。

 中庭では音楽サークルの演奏。

 各学部の出店からは、美味しそうな匂いが漂っている。


「藤堂!」


 颯太が走ってくる。


「今日の目玉、スタンプラリーだぞ!」

「ああ」

「俺たちも参加するんだろ?」

「実行委員だからな」

「よっしゃ!」


 颯太が拳を握る。


「絶対優勝するぞ!」

「遊びじゃないんだから、ほどほどにな」


 直人が呆れながら言う。


「分かってるって!」

「本当に分かってるのか……」


 そんな二人を見ていると。


「藤堂くん」


 莉奈が近づいてきた。


「おはよう」

「おはよう、桜井」

「昨日、ちゃんと眠れた?」

「ああ」

「私は楽しみすぎて、ちょっと寝不足!」

「子供みたいだな」

「ひどい!」


 莉奈が頬を膨らませる。


「でも……」

「ん?」

「今日は絶対、藤堂くんと一緒に回るからね」

「分かった」


 莉奈は嬉しそうに笑った。


 午前十時。

 学園祭の目玉企画。


『キャンパス横断スタンプラリー』


 開始の合図とともに、多くの学生が一斉に動き始める。


「それではペアを発表します!」


 実行委員長が読み上げる。


「第一ペア!」


 会場がざわつく。


「藤堂晃!」

「……」

「そして――」


 俺は隣を見る。


「桜井莉奈!」

「やった!」


 莉奈が両手を上げる。


「よろしくね、藤堂くん!」

「ああ」

「絶対優勝しよう!」

「頑張ろう」


 その様子を少し離れた場所から。


「……」


 心春が見ていた。


「先輩と桜井先輩……」

「まあ、企画だからね」


 花音が慰める。


「でも……」


 心春は少し寂しそうだった。


「最初のポイントは図書館!」

「行こう!」


 莉奈が俺の腕を引く。


「走らなくても間に合うぞ」

「でも、勝ちたい!」

「はいはい」


 二人で図書館へ向かう。

 途中。


「藤堂くん!」

「ん?」

「こっち!」

「そっちは――」

「え?」

「……行き止まり」

「……」


 莉奈が固まる。


「……ごめん」

「大丈夫」

「また迷った……」

「花音みたいだな」

「それ、花音ちゃんに失礼だよ!」

「そうだな」


 二人で笑う。


 図書館のスタンプを押す。


「一個目!」

「順調だな」

「次は体育館!」


 再び走り出す。

 体育館。

 中にはミニゲームが用意されていた。


「このゲームをクリアするとスタンプです!」


 係の学生が説明する。


「やります!」


 莉奈が元気よく答える。


「俺も?」

「当然!」

「分かった」


 二人でゲームに挑戦する。

 結果。


「クリア!」

「やったー!」


 莉奈が俺の手を握る。


「藤堂くん、すごい!」

「桜井も頑張ってたよ」

「えへへ」


 莉奈は嬉しそうに笑う。

 そのまま握った手を離さない。


「……」

「……」


 二人とも気づいて。

 莉奈が慌てて手を離す。


「ご、ごめん!」

「いや」

「つい……」

「大丈夫」


 莉奈の顔が赤くなる。


 次のポイントへ向かっている途中。


「藤堂くん」

「ん?」

「昨日のこと」

「昨日?」

「結衣先輩と一緒にいたとき」

「……」


 莉奈が少し俯く。


「私」

「うん」

「ちょっと嫌だった」

「……」

「藤堂くんが他の女の子と一緒にいるの」


 莉奈が足を止める。


「私、今までこんなこと思わなかったのに」

「……」

「みんなと仲良くしてるのは嬉しい」

「うん」

「でも」


 莉奈は胸元に手を置く。


「他の人と二人でいると……嫌」

「莉奈」

「ごめん」

「謝らなくていいよ」

「……」

「そう思ってくれること自体は、嫌じゃない」

「本当?」

「ああ」


 莉奈が顔を上げる。


「……よかった」


 少しだけ笑った。


 その後。

 スタンプラリーを進める。

 最後のポイント。


「これで全部だな」

「うん!」


 莉奈がスタンプカードを掲げる。


「全部集めた!」

「頑張ったな」

「二人で頑張ったからね」

「そうだな」


 ゴール地点へ向かう。

 その途中。


「藤堂くん」

「ん?」

「私ね」

「うん」

「今日、ずっと楽しかった」

「俺も」

「だから」


 莉奈が少し恥ずかしそうに笑う。


「また二人で遊びたい」

「ああ」

「約束ね」

「約束」


 午後。

 スタンプラリーの結果発表。


「優勝ペアは――」


 会場が静まる。


「藤堂晃さん、桜井莉奈さん!」

「やったー!」


 莉奈が飛び跳ねる。


「優勝!」


 颯太が拍手する。


「おめでとう!」


 直人も笑う。


「二人とも頑張ったな」


 陸も拍手。


「藤堂先輩、おめでとうございます!」


 心春も笑顔。


「莉奈ちゃん、すごいです~!」


 花音も拍手する。


「おめでとう」


 葵も微笑む。


「よかったね」


 結衣先輩も笑う。


 凛も。


「……おめでとうございます」


 そう言った。

 だが。


「……」


 凛の目は。

 少しだけ寂しそうだった。


 夕方。

 学園祭二日目のイベントが終わる。

 俺が片付けをしていると。


「藤堂くん」


 結衣先輩がやってきた。


「先輩」

「昨日、約束したでしょう?」

「ああ」

「少しだけ、話さない?」

「もちろん」


 二人で人の少ない校舎裏へ向かう。


「今日は大変だったね」

「そうですね」

「でも、楽しそうだった」

「はい」

「莉奈ちゃんと」

「……」

「優勝、おめでとう」

「ありがとうございます」


 結衣先輩は笑う。


「藤堂くん」

「はい」

「昨日の話」

「……」

「覚えてる?」

「もちろん」


 先輩が少し緊張した表情をする。


「私ね」

「はい」

「ずっと考えてた」

「……」

「先輩としてじゃなく」

「……」

「一人の女の子として」


 結衣先輩が俺を見る。


「藤堂くんのことが好き」

「……」


 俺は言葉を失う。


「急に答えを求めるつもりはないよ」

「先輩……」

「ただ」


 結衣先輩は微笑む。


「私もちゃんと伝えておきたかった」

「……ありがとうございます」

「うん」

「俺も」

「……?」

「先輩のことを大切に思っています」


 結衣先輩が目を見開く。


「……それだけでも、今は嬉しい」


 そう言って笑った。


 校舎の角。


「……」


 そこには。

 莉奈がいた。

 偶然通りかかっただけ。

 そう思いたかった。


 でも。


 聞こえてしまった。


「私もちゃんと伝えておきたかった」

「俺も先輩のことを大切に思っています」

「……」


 莉奈は立ち尽くす。


「……そっか」


 胸が苦しくなる。

 今まで自分だけが少し特別なんだと思っていた。


 でも。


 違った。


「……」


 莉奈は拳を握る。


「私」


 小さく呟く。


「負けたくない」


 その日の夜。

 莉奈は一人で帰っていた。


「……」


 スマホを開く。

 晃とのトーク画面。


『今日は楽しかったね!』


 送ろうとして。


 やめる。


「……」


 代わりに。


『藤堂くん』


 とだけ入力する。


 しばらく悩んで。


『明日、二人で話したい』


 送信。


 既読。


 そして。


『分かった』


 返信が来る。


「……」


 莉奈はスマホを胸に抱える。


「絶対に」


 涙をこらえるように。

 それでも前を向いて。


「私の気持ち、ちゃんと伝える」


 翌朝。

 大学の中庭。

 晃がやってくる。


「桜井」

「……藤堂くん」


 莉奈はいつものように笑おうとする。


 でも。


 今日は違った。


「今日はね」

「うん」

「ちゃんと話したいことがあるの」

「……分かった」


 莉奈は一度深呼吸する。


「私――」


 その瞬間。


「藤堂先輩!」


 後ろから心春の声。


「先輩!」

「……」


 さらに。


「藤堂くん」


 結衣。


「先輩、少しよろしいですか?」


 凛。


「藤堂くん~」


 花音。


「藤堂」


 葵。


 全員が集まってしまった。


「……」


 莉奈は目を閉じる。

 そして。


「……もう」


 小さく笑った。


「みんな、同じこと考えてるんだね」


 六人の視線が交差する。

 空気が変わった。

 今まで曖昧だったものが。


 初めて。


 はっきりと形になった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。