第24話 秋、学園祭――恋が動き出す
夏休みが終わった。
大学二年生、後期。
久しぶりのキャンパスには、夏とは違う空気が流れていた。
「やっと大学始まったー!」
颯太が大きく伸びをする。
「お前、夏休み中も大学来てただろ」
直人が呆れる。
「それとこれとは別!」
「何が別なんだよ……」
俺は二人のやり取りを見ながら笑う。
「藤堂!」
陸が後ろから肩を叩く。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「元気そうでよかった」
そんな話をしていると。
「藤堂くん!」
聞き慣れた声。
莉奈がこちらへ走ってくる。
「おはよう!」
「おはよう、桜井」
「夏休み終わっちゃったね」
「ああ」
「でも!」
莉奈が笑顔になる。
「秋は学園祭があるよ!」
「そうだったな」
「今年は大学全体でかなり力を入れるらしいよ!」
俺たちの大学は、学園祭や体育祭などの行事にかなり力を入れている。
去年も大規模だったが。
今年はさらに規模を拡大するらしい。
「楽しみだな」
陸が笑う。
「俺たちも手伝うことになってるし」
「そうなんですか?」
「実行委員の手伝い」
直人が説明する。
「学生数が多いから、毎年かなりの人数が必要なんだ」
「なるほど」
「藤堂くんも参加する?」
莉奈が聞いてくる。
「俺?」
「うん!」
少し考える。
「……参加するよ」
「やった!」
莉奈が嬉しそうに笑った。
その日の放課後。
学園祭実行委員の説明会が行われた。
大きな講堂。
ステージには実行委員長が立っている。
「今年の学園祭は、三日間開催!」
会場がざわめく。
「去年以上の規模で開催します!」
拍手が起こる。
「各学部・サークルによる出店!」
「ステージイベント!」
「スポーツ大会!」
「そして最終日には――」
スクリーンに大きく表示される。
『キャンパス全体を使ったスタンプラリー』
「今年の目玉企画です!」
「すごいな……」
俺が呟く。
「面白そう!」
颯太が身を乗り出す。
「お前は絶対途中で迷うだろ」
直人がツッコむ。
「俺を何だと思ってんだ!」
「騒がしい人」
「ひでぇ!」
俺たちが笑っていると。
「藤堂くん」
莉奈が小声で話しかけてくる。
「ん?」
「今年の学園祭」
「うん」
「絶対、一緒に回ろうね」
「……ああ」
莉奈は嬉しそうに笑った。
説明会が終わる。
「藤堂先輩」
心春がやってきた。
「どうした?」
「私も実行委員のお手伝いすることになりました!」
「そうなのか」
「はい!」
心春は嬉しそうだ。
「先輩と一緒に活動できますね!」
「そうだな」
「……」
心春が俺の袖を軽く引く。
「だから」
「ん?」
「学園祭の日も、少しだけ二人で過ごしたいです」
「もちろん」
「約束ですよ?」
「ああ」
心春が満足そうに笑う。
その後。
「藤堂くん」
花音が近づいてくる。
「花音も実行委員?」
「はい~」
「意外だな」
「私もちゃんと働けますよ~?」
「もちろん」
「でも」
花音が少し笑う。
「先輩と一緒の係だったら、もっと頑張れそうです」
「そうか」
「はい~」
「藤堂」
今度は葵。
「はい」
「私も実行委員に入ったわ」
「そうなんですね」
「あなたと同じ担当になった」
「本当ですか?」
「ええ」
「それなら助かります」
「……」
葵が少し笑う。
「私も」
「?」
「嬉しいわ」
「藤堂くん」
結衣先輩も来る。
「先輩も?」
「うん」
「実行委員ですか?」
「そう」
結衣先輩は優しく笑う。
「今年は後輩たちに負けないように頑張らないとね」
「一緒に頑張りましょう」
「うん」
最後に。
「藤堂先輩」
凛がやってきた。
「凛も?」
「はい」
「みんな参加するんだな」
「そうですね」
凛は周囲を見る。
「先輩」
「ん?」
「学園祭」
「うん」
「楽しみですね」
「ああ」
凛は少しだけ笑った。
「私も」
それから数週間。
学園祭の準備が始まった。
大学中が忙しくなる。
教室。
中庭。
体育館。
講堂。
それぞれの場所で準備が進んでいく。
「藤堂!」
「はい!」
陸と一緒にステージ用の機材を運ぶ。
「こっちは俺が持つ」
「大丈夫です」
「無理するな」
「ありがとうございます」
そこへ。
「藤堂くん!」
莉奈。
「これ、どこに運ぶ?」
「そっちです」
「分かった!」
「私も手伝います!」
心春もやってくる。
「じゃあ三人で運ぶか」
「はい!」
少し離れたところでは。
「藤堂くん~」
花音が手を振っている。
「こっちもお願いします~!」
「今行く!」
「忙しいですね」
凛が呟く。
「でも」
結衣が笑う。
「楽しそう」
「はい」
葵も頷く。
「こういう時間も悪くないわね」
そして。
学園祭前日。
夜まで準備が続いた。
「……疲れた」
直人が椅子に座り込む。
「お疲れ」
俺が飲み物を渡す。
「ありがとう」
「藤堂!」
颯太が走ってくる。
「ちょっと手伝ってくれ!」
「まだあるのか?」
「あと少し!」
「分かった」
二人で作業を続ける。
しばらくしてようやく終わった。
「終わった……」
俺が伸びをする。
「お疲れさん」
颯太が笑う。
「明日楽しみだな!」
「ああ」
夜。
大学を出る。
外はすっかり暗い。
「藤堂くん」
莉奈が待っていた。
「桜井?」
「一緒に帰ろう?」
「ああ」
二人で歩く。
「明日」
莉奈が言う。
「楽しみだね」
「そうだな」
「……」
しばらく歩いて。
「ねえ」
「ん?」
「明日」
「うん」
「私、藤堂くんに見せたいものがあるの」
「何?」
「秘密!」
「またか」
「ふふ」
莉奈は笑った。
翌日。
学園祭初日。
大学は朝から大勢の人で賑わっていた。
「すごい人だな」
「今年は特に多いね!」
莉奈が笑う。
「藤堂くん!」
「ん?」
「これ!」
莉奈が小さな腕章を渡す。
「実行委員?」
「そう!」
「ありがとう」
「似合ってるよ!」
「そう?」
「うん!」
莉奈は満足そうに笑った。
午前中。
俺たちはそれぞれ担当の仕事をこなす。
来場者の案内。
ステージの準備。
出店の手伝い。
忙しいが楽しい。
「藤堂先輩!」
心春が走ってくる。
「こっち、お願いします!」
「分かった」
「ありがとうございます!」
心春が笑う。
「終わったら少しだけ一緒に回りましょうね!」
「ああ」
昼過ぎ。
仕事が一段落する。
「藤堂くん」
莉奈がやってくる。
「今、少し時間ある?」
「ああ」
「じゃあ、一緒に回ろう!」
「分かった」
二人で歩く。
「ここ!」
莉奈が連れてきたのは、中庭のステージ。
大学の音楽サークルが演奏している。
「楽しそうだな」
「うん!」
莉奈は嬉しそうに音楽を聴いている。
「藤堂くん」
「ん?」
「私ね」
「うん」
「今年の学園祭、すごく楽しみにしてた」
「どうして?」
「……」
莉奈が少しだけ俺を見る。
「藤堂くんと一緒に過ごせるから」
「……」
「夏休みとは違って」
「うん」
「今度は、大学での思い出を一緒に作れるから」
莉奈は笑った。
「それだけ」
「……そっか」
「うん」
そのとき。
「藤堂くん!」
後ろから声。
「結衣先輩?」
「少しお願いがあるんだけど」
「はい」
結衣先輩がこちらを見る。
「……」
そして莉奈を見る。
「ごめんね」
「大丈夫です!」
莉奈は笑う。
「藤堂くん、行ってきて」
「桜井?」
「私は友達と回るから!」
「……」
莉奈は笑っていた。
でも俺には、その笑顔が少しだけ無理をしているように見えた。
結衣先輩と一緒に移動する。
「先輩、何かありました?」
「実は――」
その瞬間。
結衣先輩が立ち止まる。
「……」
「先輩?」
「ごめんね」
「何がですか?」
「さっき」
「はい」
「桜井さんとの時間を邪魔してしまった」
「大丈夫ですよ」
「……」
結衣先輩は少し笑う。
「そう言ってくれると思った」
一方。
中庭に残った莉奈。
「……」
笑顔が消える。
そこへ。
「莉奈」
心春がやってくる。
「どうしたんですか?」
「……なんでもない」
「でも」
「本当に大丈夫」
莉奈は笑う。
「ただ」
「……」
「ちょっとだけ」
莉奈は自分の胸元に手を置く。
「嫌だった」
「え?」
「藤堂くんが、他の女の子と楽しそうにしてるの」
心春は黙る。
「私」
莉奈は小さく呟いた。
「こんなに嫉妬するんだ……」
その頃。
俺は結衣先輩と仕事を終えていた。
「ありがとうございました」
「ううん」
先輩が微笑む。
「藤堂くん」
「はい?」
「明日」
「はい」
「少しだけ二人で話したい」
「分かりました」
「約束ね」
「はい」
そのとき。
遠くから。
「藤堂先輩!」
心春が手を振っている。
「先輩、次は私です!」
「……?」
心春は笑顔。
しかしその少し後ろには。
莉奈。
葵。
花音。
凛。
全員がいた。
「……」
俺は思わず苦笑する。
「どうやら」
結衣先輩が言った。
「大変なことになりそうね」
「……はい」
学園祭はまだ初日。
そして。
俺たちの恋は、これからが本番だった。




