第16話 夏休み、みんなで海へ
夏休み初日。
大学の試験も無事に終わり、俺たちはそれぞれ自由な時間を過ごせるようになった。
そして――。
「海!」
朝から颯太の声が響いていた。
「海だぞ、藤堂!」
「分かったから静かにしろ」
「テンション上がるだろ!」
「朝から元気すぎる……」
直人が呆れた顔をする。
俺たちは駅前に集合していた。
今日の目的地は、少し離れた海辺の町。
メンバーは――。
俺。
颯太。
直人。
莉奈。
花音。
葵先輩。
結衣先輩。
心春。
凛。
の九人。
「お待たせー!」
莉奈がやってくる。
「おはようございます~」
花音。
「おはようございます!」
心春。
「おはようございます」
凛。
「おはよう」
葵先輩。
「おはようございます」
結衣先輩。
「全員揃ったな!」
颯太が手を叩く。
「それじゃあ、行こうぜ!」
「……」
俺はみんなを見る。
大学の外で、こうして全員で遊びに行くのは初めてだった。
なんとなく。
胸が高鳴る。
電車の中。
座席は自然と男女に分かれた。
俺は颯太と直人と並んで座る。
向かい側には、莉奈たち。
「なあ、藤堂」
颯太が小声で言う。
「今日、誰の隣に座りたい?」
「急に何だよ」
「いやいや」
颯太がニヤニヤする。
「お前、最近モテすぎだろ」
「……」
「俺なら迷うね」
「お前には聞いてない」
「冷たい!」
直人がため息をつく。
「藤堂、気にするな」
「ああ」
「ただ」
「?」
「実際、かなり好かれてると思う」
「……」
俺は窓の外を見る。
否定できない。
海に到着。
「うわぁ!」
莉奈が走り出す。
「海だ!」
「桜井、走るなよ」
「早く来て!」
「はいはい」
海は青かった。
夏の日差し。
潮風。
遠くから聞こえる波の音。
「最高ですね~」
花音が嬉しそうに笑う。
「来てよかったです!」
心春も笑顔。
凛は静かに海を見る。
「……綺麗」
葵先輩は帽子を押さえながら言った。
「思ったより人が多いわね」
「夏ですから」
結衣先輩が笑う。
「でも、みんなで来ると楽しいね」
「ああ」
俺も笑った。
荷物を置いて。
海へ。
「藤堂!」
颯太が肩を叩く。
「泳ぐぞ!」
「分かった」
「直人も!」
「俺は少し休んでから――」
「行くぞ!」
「おい!」
二人に引っ張られていく直人。
「男って元気ですね~」
花音が笑う。
「本当に」
結衣先輩も笑う。
「藤堂くん!」
莉奈が呼ぶ。
「こっち!」
俺が近づくと。
「水、冷たいよ!」
「そうだな」
「入らないの?」
「入るよ」
「じゃあ!」
莉奈が波打ち際まで走る。
「一緒に行こう!」
「ああ」
二人で海に入る。
「冷たっ!」
「言ったでしょ!」
「確かに」
莉奈が笑う。
「楽しいね」
「うん」
その笑顔を見て。
俺も自然に笑った。
少し離れた場所。
「……」
葵は二人を見ていた。
「小鳥遊先輩」
凛が隣に立つ。
「何?」
「見ていますね」
「……そうね」
「気になりますか?」
「ええ」
葵は素直に答えた。
「少しだけ」
「私もです」
二人は顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして。
「負けたくありませんね」
「そうね」
二人とも小さく笑った。
昼。
みんなで海の家へ。
「何食べる?」
颯太がメニューを見る。
「俺、ラーメン!」
「暑いのに?」
直人が呆れる。
「海で食べるラーメンは別格なんだよ!」
「じゃあ俺は焼きそば」
「私はカレー!」
莉奈。
「私はかき氷です~」
花音。
「私は冷やしうどん」
凛。
「私は普通に定食」
結衣先輩。
「私は……」
心春がメニューを見る。
「先輩と同じものがいいです!」
「俺?」
「はい!」
「じゃあ俺も冷やしうどんで」
「やった!」
心春が嬉しそうに笑う。
その様子を見て。
「……」
莉奈が少しだけ頬を膨らませる。
「桜井?」
「なんでもない!」
花音が楽しそうに笑う。
「ふふ~」
「花音、何笑ってるの?」
「なんでもないですよ~」
午後。
「ビーチバレーやろうぜ!」
颯太が提案した。
「男女混合で!」
「いいね!」
莉奈が賛成する。
「私は運動苦手です~」
花音。
「私も……」
心春。
「大丈夫ですよ」
凛が言う。
「じゃあ」
颯太がチーム分けをする。
そして――。
「藤堂は?」
「俺は?」
「審判!」
「……」
「なんで俺だけ?」
「公平な審判が必要だろ!」
「お前がやれよ」
「俺は選手!」
「……」
仕方なく審判をする。
試合が始まる。
「颯太!」
「任せろ!」
颯太が強烈なサーブ。
「きゃっ!」
花音が慌てて受ける。
「ごめんなさい~!」
「大丈夫!」
俺がボールを拾う。
「惜しかったな」
「ありがとうございます~」
次。
莉奈がボールを打つ。
「えいっ!」
「凛!」
「任せてください」
凛が綺麗に返す。
そして。
心春が飛び出す。
「私が!」
ボールを返す。
「ナイス!」
俺が思わず声を上げる。
「……!」
心春が嬉しそうに振り返る。
「先輩に褒められました!」
「いや、今のは本当に上手かった」
「もっと頑張ります!」
その様子を莉奈が見ていた。
葵も。
結衣も。
それぞれ何かを考えているようだった。
夕方。
海辺。
みんなが帰り支度をしている中、俺は少し離れた場所にいた。
「藤堂くん」
莉奈が来る。
「桜井?」
「少し歩かない?」
「ああ」
二人で海岸を歩く。
「今日、楽しかったね」
「うん」
「また来たい」
「そうだな」
「……」
莉奈が少し黙る。
「ねえ」
「ん?」
「大学祭の日に言ったこと」
「……」
「本気だからね」
「分かってる」
「じゃあ」
莉奈は海を見る。
「夏休みの間に」
「うん」
「もっと藤堂くんのこと知りたい」
「俺も」
「……」
「桜井のこと、もっと知りたい」
莉奈が振り返る。
「本当?」
「ああ」
莉奈は嬉しそうに笑った。
「じゃあ」
「うん」
「夏休み、いっぱい遊ぼうね」
「ああ」
その瞬間。
後ろから声がした。
「藤堂くん!」
振り返る。
心春だった。
「……」
心春は俺と莉奈を見る。
「あ……」
「天野?」
「すみません!」
心春は慌てて頭を下げる。
「邪魔しちゃいました!」
「いや、別に――」
心春は走って戻ってしまった。
「……」
莉奈が少し困った顔をする。
「追いかけなくていいの?」
「え?」
「心春ちゃん」
「……」
俺は少し迷う。
「行ってあげたら?」
「でも」
「大丈夫」
莉奈は笑う。
「私は逃げないから」
「……」
「ほら」
「分かった」
俺は心春を追いかけた。
「天野!」
心春は少し先で立ち止まった。
「……先輩」
「どうした?」
「……」
心春は俯いている。
「ごめんなさい」
「何が?」
「せっかく二人でいたのに」
「気にしてないよ」
「でも……」
心春は少し寂しそうに笑う。
「私も先輩と二人で歩きたかったなって」
「……」
「今日ずっと、みんなと一緒だったから」
「……」
「わがままですよね」
「いや」
俺は首を横に振る。
「俺も天野と二人で話したい」
「……え?」
「今度、一緒に出かけよう」
「本当ですか?」
「ああ」
心春の顔が明るくなる。
「約束ですよ!」
「約束」
「絶対ですよ?」
「分かった」
「……えへへ」
心春は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て俺も嬉しくなった。
帰りの電車。
みんな疲れて眠っている。
颯太は直人の肩にもたれ。
花音は窓の外を眺め。
凛は静かに本を読んでいる。
結衣先輩は眠っていた。
葵先輩はスマホを見ている。
そして。
莉奈と心春は少し離れた席に座っていた。
俺は窓の外を見る。
今日一日、本当に楽しかった。
でも。
同時に。
俺はますます分からなくなっていた。
莉奈。
葵先輩。
心春。
凛。
そして花音と結衣先輩。
それぞれと過ごす時間がそれぞれ違う形で大切になっている。
「……」
俺は目を閉じる。
この夏休み。
俺はきっと。
誰か一人を選ぶことになる。
いや。
選ばなければならない。
でも。
まだ、その答えは見えなかった。
電車が夕暮れの街を走っていく。
そしてスマホを見ると。
三件の新しいメッセージが届いていた。
【桜井莉奈】
『今日はありがとう! また遊ぼうね!』
【天野心春】
『今度のお出かけ、楽しみにしてます!』
【小鳥遊葵】
『今日は楽しかったわ。また明日、大学で』
「……」
三つのメッセージを見つめる。
俺は小さく息を吐いた。
「……今年の夏、忙しくなりそうだな」
けれど。
その顔には。
少しだけ嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。




