↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪文は日本語。IT社員の俺、コード魔法で異世界の壊れた仕組みを全部直します  作者: ノーコードLab


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/112

第83話 帝国の取引

毎日20時、更新予定です!

■1.白旗を、掲げた敵


遺跡から、戻った、その日の、夕刻。


宿の、扉が、叩かれた。ミナが、警戒しながら、開けると、そこに、立っていたのは、クルト・ヴァーゲンだった。だが、その姿は、前とは、違った。剣を、外し、両手を、開いて、見せていた。武装を、解いた、証だった。


「対話を、望みます」クルトは、静かに、言った。「一人で、来ました。武器も、置いてきた。——鍵殿。あなたと、取引が、したい」


鍵は、しばらく、その、目を、見ていた。罠かもしれない。だが、罠を、張るなら、こんな、あからさまな、丸腰では、来ない。この男は、本当に、何かを、必要としている。それも、剣では、手に入らない、何かを。


「入ってください」鍵は、言った。「ただし、話すのは、私たちが、選んだ、範囲だけです」


「結構」クルトは、頷いた。「私も、同じです」


卓を、挟んで、二人が、座った。アリアが、鍵の、隣に、着いた。ヴェンツェルは、あえて、席を、外した。かつての、同胞と、顔を、突き合わせれば、話が、進まない。それを、皆が、分かっていた。クルトは、外套の、砂を、払い、静かに、切り出した。


「単刀直入に、言います」クルトは、言った。「技術の塔は——いえ、帝国は。この、砂の街の、異変に、気づいて、私を、送りました。二百年、正確だった、水の記録が、近年、微妙に、揺らいでいる。誰かが、この街を、通じて、何かを、企んでいる。それを、調べに、来ました。そして、あなた方も、同じ、ものを、追っている。違いますか」


鍵は、答えなかった。だが、その、沈黙は、否定では、なかった。クルトは、それを、正しく、読んだ。


■2.帝国が、恐れるもの


「なぜ、帝国が、こんな、辺境の、水一つに」アリアが、鋭く、聞いた。「あなた方は、力を、集めることしか、考えていないと、思っていたわ。眠れる管理者を、掘り起こして、兵器に、するために」


「以前は、そうでした」クルトは、否定しなかった。「技術の塔は、古代の、管理者を、力の、源泉と、見ていた。掘り起こし、起動し、支配する。それが、我らの、悲願だった。——ですが」


クルトは、そこで、声を、落とした。


「半年前」クルトは、言った。「帝国の、宮廷で、異変が、起きました。何人もの、高官が、同じ、夢を、見るように、なった。夜ごと、声が、囁くのです。『われに、従え。さすれば、力を、与えよう』と。従った者は——変わりました。目つきが、変わり、言葉が、変わり、まるで、別人の、傀儡のように、なった。皇帝陛下は、それを、恐れておられる。自らの、宮廷が、内側から、見知らぬ、意志に、侵食されていくのを」


鍵は、身を、乗り出した。ダルスーの、証言と、妹の、言葉が、繋がった。北の、寒いところから、声だけを、送り、人間を、夢の中から、操る、管理者。それが、今、辺境の、水守だけでは、なく、帝国の、中枢にまで、手を、伸ばしていた。


「その、傀儡に、なった、高官たちは」アリアが、聞いた。「何を、しているの。声に、操られて」


「それが」クルトの声が、重くなった。「一見、何も、変わらないのです。政務を、こなし、書類に、目を、通し、いつも通りに、振る舞う。ですが、少しずつ。帝国の、政策が、傾いていく。古代の、遺跡へ、より多くの、兵を。より多くの、資金を。眠れる管理者を、掘り起こす方向へ。まるで——誰かが、帝国そのものを、道具にして、大陸中の、管理者を、目覚めさせようと、しているかのように」


鍵は、息を、呑んだ。全体像の、一端が、見えた。北の、あれは、ただ、辺境で、水を、盗ませていた、だけでは、ない。帝国という、大陸最大の、力を、内側から、乗っ取り、その手で、他の、六体の、眠れる姉妹を、掘り起こそうと、していた。目覚めさせて、どうするのか。従えるのか。取り込むのか。——考えるだけで、寒気が、した。


「その、声の、主は」鍵は、静かに、言った。「眠らなかった、管理者。七体のうちの、一体。北にいる」


クルトの、目が、見開かれた。「……そこまで、掴んでいましたか」


「取引と、言いましたね」鍵は、言った。「なら、こちらも、一つ、出しましょう。私たちは、そいつが、北の、寒い土地から、水路を、伝って、この街を、操っていた、証拠を、掴んでいます。あなた方は、宮廷の、内側から、その、手口を、見ている。——私たちが、持っているのは、外からの、視点。あなた方が、持っているのは、内からの、視点。合わせれば、敵の、全体像が、見える」


「その、通りです」クルトは、頷いた。「だから、私は、丸腰で、来た。剣で、あなたを、脅しても、この、情報は、手に入らない。私は、あなたを、必要としている。認めます」


■3.敵の、敵は


「一つ、確かめさせて」アリアが、腕を、組んだ。「これが、済んだら?共通の、敵を、倒した、その後は。帝国は、また、私たちを、追うんでしょう。眠れる管理者を、独占するために。ヴェンツェルを、裏切り者として、狩るために。——一時の、握手の、後で、背中を、刺すつもりなら、お断りよ」


クルトは、しばらく、黙った。それから、正直に、答えた。


「刺すか、刺さないかは」クルトは、言った。「私の、決めることでは、ありません。私は、一調査官に、過ぎない。皇帝陛下の、御心を、代弁は、できない。——ですが、これだけは、言えます。今、この瞬間。帝国にとって、最大の、脅威は、あなた方では、ない。北の、あれです。宮廷を、内側から、喰い破ろうとしている、あの、声です。その、脅威が、去るまで。少なくとも、それまでは。私は、あなた方を、敵とは、みなさない。約束します」


「一時の、休戦、ね」アリアは、目を、細めた。


「ええ」クルトは、言った。「その、先は——分かりません。ですが、鍵殿。あなたは、以前、遺跡の、封印で、我が塔の部隊を、殺さずに、退けたと、聞きました。力で、ねじ伏せるのでは、なく。仕組みで、退路を、作った、と。それが、本当なら」


クルトは、まっすぐ、鍵を、見た。


「あなたと、なら」クルトは、言った。「刺し合わずに、終われる、道も、あるのかも、しれない。私は、それに、賭けてみたい。剣で、しか、物を、言えぬ、塔の、やり方に。私も、少し、疲れました」


鍵は、その、言葉を、静かに、聞いていた。ヴェンツェルの、顔が、浮かんだ。かつて、同じ塔にいて、間違いに、気づいて、離れた男。そして今、目の前の、クルトも、その、縁に、立っている。人は、変われる。仕組みが、変われば。鍵は、そう、信じていた。


「一つ、確かめたい」鍵は、静かに、聞いた。「あなた自身は、その、夢を、見ましたか。北の、声の、夢を」


クルトの、表情が、一瞬、凍った。それから、正直に、答えた。


「……一度だけ」クルトは、言った。「北へ、向かう、任務を、受けた、その夜。夢の中で、声が、囁きました。『よく来た。お前も、われに、従え』と。私は——目が、覚めて、寝汗で、濡れていた。恐ろしかった。あの、囁きに、頷いてしまえば、どれほど、楽だろうと、思う、自分が、いたことが。だから、私は、この街で、あなたを、見て、確信した。あの、声に、抗える、人間が、いるのだと。私は、あなたに、その、抗い方を、学びに、来たのかも、しれない」


鍵は、その、告白の、重さを、受け止めた。この男は、すでに、敵に、囁かれている。だが、まだ、頷いていない。その、瀬戸際で、鍵に、手を、伸ばしてきた。——味方に、するには、危うすぎる。だが、見捨てるには、惜しすぎる、一人だった。


■4.決断


鍵は、立ち上がり、窓辺に、寄った。砂漠の、夕陽が、都市を、赤く、染めていた。背後で、アリアと、クルトが、答えを、待っていた。


「クロード」鍵は、小声で、聞いた。「どう、思う」


「危険です」クロードの光が、鍵の、肩口で、囁いた。「クルトは、正直です。ですが、正直さと、味方であることは、違います。彼は、皇帝の、意志には、逆らえない。休戦は、いつでも、破られうる。——ですが、鍵。もう一つ、確かなことが、あります。今、私たち、だけでは。北の、あれを、突き止めるのは、あまりに、遠い。帝国が、内側で、見ているものは、私たちには、絶対に、見えない。この、情報は、他では、手に入りません」


「同感だ」鍵は、頷いた。そして、振り返った。


「クルトさん」鍵は、言った。「取引に、応じます。ただし、条件が、三つ」


クルトが、姿勢を、正した。


「一つ」鍵は、指を、立てた。「情報は、対等に。あなたが、宮廷で、見たものを、隠さず、話す。私たちも、この街で、掴んだことを、話す。片方だけが、得をする、取引は、しない。——二つ。ヴェンツェルさんには、手を、出さない。休戦の、間、彼は、私の、仲間だ。過去が、どうであれ。三つ」


鍵は、一拍、置いた。


「もし、北の、あれを、倒せたとして」鍵は、静かに、言った。「その、力を、あなた方が、また、独占しようとするなら。そのときは、私は、あなたの、敵に、戻る。今度は、はっきりと。——それでも、いいですか」


クルトは、しばらく、鍵を、見つめた。それから、ゆっくりと、頷いた。


「結構です」クルトは、言った。「あなたは、嘘を、言わない人だ。それが、分かる。——では。取引成立、と、いうことで」


二人は、握手を、交わした。敵の、手だった。いつ、離れて、剣に、変わるか、分からない、手だった。だが、今は、確かに、同じ、脅威に、向かって、握り合った、手だった。


「一つ、聞かせて、ください」クルトが、去り際に、言った。「あなたは、なぜ、殺さない。塔の、部隊も。ダルスーという、罪人も。殺せば、早いものを」


鍵は、少し、考えて、答えた。


「殺したら」鍵は、言った。「そいつが、何を、知っていたか、永遠に、聞けなくなる。それに——人は、仕組みが、変われば、変われる。ヴェンツェルさんが、そうだった。あなたも、今、変わろうとしている。殺すのは、その、可能性を、殺すことだ。私は、可能性の、ほうに、賭けたい。効率は、悪いですけどね」


クルトは、はじめて、微かに、笑った。「……なるほど。あなたが、塔に、勝ち続ける、理由が、分かった、気が、します」


夕陽が、沈んだ。敵と、味方の、境界が、一日だけ、溶けた、砂の街の、夜が、来た。


『(第84話へつづく)』

面白いと思ったらブックマーク・評価をいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。