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いつか、いつか…  作者: うさぎさん⭐︎


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2/4

②動き出す恋心と、忍び寄る「靄(もや)」

 

  2

 

 学園を一歩離れれば、そこは賑わう普通の街。

 マヤとミーナについて歩くエリサは、さっきから辺りを見回してばかりだ。

 自分の知る雪の町とは違いすぎる。

 溢れる人。露出の高い服。若い人の多さ。平気で人前で抱き合うカップル……

「エリサ、エリサ?」

 気の強そうなマヤの眉が上がる。彼女はだいぶ後ろで固まっているエリサに足早に近づく。

「何してんのよ、早く……」

 エリサの視線を追い、マヤはにやけた。

「エリサのえっち」

「はぁ??」

「ちゅーしてるのジロジロ見ちゃって! もうほんとかわいー顔してスケベなんだから~」

「ち、ちち、ちが、違うぅぅ!」

 否定はしても……彼女だってお年頃。

 正直そういったことには興味がある。

 マヤは男性経験豊富らしい。

 ミーナは、自分と同じで男の人とつきあったことがないらしいが……ぶっちゃけ、自分よかずっとずっとかわいい。 

 この美人&かわいい二人といると、ときどきエリサはすごく泣きそうになる。

 ブティックのショーウィンドウに写る自分。

 ぽっちゃりしている。背が低い。足が太い。子供っぽい。垢抜けない。

「……はぁ」

「なにため息ついてんの?」

 マヤが首を傾げる。

「べ、別に」

 慌てて笑う。

 そう、仕方ない。

 自分は自分だ。


「エリサちゃん、ヒサカ先輩好きでしょ?」

 おっとりと、ミーナがパフェを食べながら言う。

「がぁぁ?」

 変な声を出して、エリサはむせた。

 メロンソーダが喉を襲う。危うく吐くところだった。

 休日のオープンカフェは、親子連れやカップルやなんかでごったがえしている。

「な、なに突然?」

 ヒサカの優しい微笑みが頭に浮かぶ。

 青い細い髪に、水色の瞳。薄緑をメインにした服をよく着ている。

 未だに話したことなど皆無。

 でも、目立つ人だから、よく噂は聞くし、イベントの時などにもよく見かける。この間も、何かの魔法試験に合格したらしい。

「だって、エリサちゃん~、この間も校庭で実技試験してたヒサカ先輩を、教室の窓からずぅっと見てたもの~」

 ヒサカの手のひらから現れた炎が、わらでできた動く魔法人形たちを包み込み、残らず灰と変えた。

 その様子はよく覚えている。

 人を癒す魔法を取得することを目的としたエリサと違い、ヒサカは攻撃的な魔法を好む。

 ちょっとした怪物退治だってやってのけるのだ。

 もし、もし仮にだ。散々読んだコミックスのように、なんだかの偶然でヒサカと言葉を交わせるようになったら……

 きっと、自分は嬉しいだろう。

 でも……

(タケト)

 忘れられない少年を思いだし、エリサは息をつく。

 きっとダメだ。たとえまた恋ができても。

 自分なんか……


「…………」

 帰り道。エリサはまた、ブティックの前で立ち止まる。

 適当な理由をつけて、マヤたちと別れる。

 入ってみる。

 おしゃれな服。やっぱり、都会は違う。

「かわいい……」

 ちょっと自分には大胆かもしれない。

 とまどいながら、エリサはそれをレジへ持っていった。

 

 翌日。

 エリサはきのう買った服を着て、登校した。

 マヤたちに冷やかされて、少々後悔する。席に座って、教材を用意する。

 後ろのほうの入り口から、騒がしい声が教室に入ってくる。

 それはエリサのそばにやってきた。

「なに、おまえ」

 金の髪が朝日とじゃれている。

 友だちと笑っていたカズハが、目を丸くする。

「かわいいじゃん」


  3


 周りに冷やかされて、その気になった。

 なんで、彼も自分のことを好きだなんて思ったんだろう。

 ……タケトが好きだったのは━━エリサの友だちのほうだったのに。


 そろそろ寒くなってきた。

 自然、故郷のことを思い出す。


「だ・か・ら! なんでそうなんの?こうだろ、こ・う!」

 カズハの指先に、光が灯る。精霊の力を借りた、ライトの魔法だ。

「え~、だってだって」

 エリサが同じことをすると、一瞬妙に明るい光が集まるが、すぐにそれは散り消えてしまう。

「まったく。なんで俺がおまえとチーム組まなきゃなんねぇの?」

 きょうは学年で水晶洞見学に来ている。

 滑りやすい地面に気をつけながら、エリサはカズハについていく。

 五人組で歩いているのだが、当然のようにカズハがリーダーだ。

「こんな、水晶見て、何がおもしろいっつの」

「……おもしろいじゃん」

 つい、憎まれ口を叩く。最近のエリサは、カズハと話すときなぜかいつもこんな感じだ。

「な・にが?」

「ここはね~、精霊の集まりやすい、つ・ま・り、あたしみたいなタレントのないやつでも、魔法の成功率がアーップする、と~~つてもすてきな場所なの!

 それに、魔法歴史と伝統のある場所なんだから」

「あっそ。そこでライトすらしくじるおまえはなに?」

「むかつく~」

 いったとたん、エリサの体がつんのめる。

「いったぁ~い」

 地に手はつけたが━━無様に転んでしまった。

「なにやってんだ、おまえはよ。……ほら」

 カズハがエリサに手を差し伸べる。

「あ、ありがと……」

 素直にその手を取って立ち上がる。

 カズハは口は悪いが、優しい。友だちもたくさんいるし、明るいし、魔法も上手だ。女の子にももてるらしい。

 他のみんなと笑い話をしながら進むカズハを、なんとなく眺めながら、エリサも微笑む。

 カズハには笑顔が似合う。

 彼と一緒にいると、みんな━━自分も、笑顔になってしまうのだ。

「ヒサカ先輩だけどさ、」

 ふいに誰かが言った。

「よく、ここに来るらしいよ」

「え、な、なんで?」

 思わず聞き返す。

「さ~、あの人何考えてんか、よくわかんねぇからなぁ」

 言ったのは、生徒会に所属する男子だった。

「ヒサカといえば、」

 カズハがからかうように笑う。

「おまえのこと、よく見てるよなぁ」

「え? あ、あたし?」

 声がうわずる。そんなこと、初めて聞いた。

「エリサのこと好きなんじゃない?」

 エリサの瞳がかげる。

「…………」

「案外お似合いなんじゃねぇの?」

「……やめてよ」

 低い声がれる。

 エリサはカズハを睨む。

「無責任にそういうこと言わないで!」

 カズハはとまどったように言った。

「なにおまえ、急に怒つてんの?」

「…………」

 唇を尖らせ、エリサは早足に行く。

「おい、待てよ、」

 カズハたちが追ってくる。

 エリサは次の角を曲がり、凍りついた。

「な、なに、あれ……?」

「何が??」

 カズハたちが追いつく。

 目の前の空間が歪んでいる。

 黒いもやのようなものが、宙に浮かんでいる。

 気持ち悪くなって、エッサはひたいを抑える。

「あ、あれ、何……?」

「何いってんだよ、別に何も……」

 カズハたちには、普通の空間にしか映らないようだ。

 エリサはふらつきながら、その靄に手を伸ばす。

《おやめなさい、あなたがあなたでありたいなら》

 急いで手を戻す。

「あれ……?」

 目の前の空間は、普通の━━ごく普通の、水晶洞でしかない。

「……あれ……?」

 安心したのか、足元がふらつく。

「誰……?」

 まぶたが目の前を覆ってしまう前に、エリサは誰かを見た気がした。

 その誰かは、悲しげに微笑んだ。


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