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いつか、いつか…  作者: うさぎさん⭐︎


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1/4

①落ちこぼれの少女と、「陽射し」の先輩



 ずっと考えてた。いつもいつも。

 あたしに何ができるんだろう……って。


  1


 瞳を輝かせ、少女はステージで静かに祝辞を述べる青年を見つめている。

 周りでは、彼女と同じ年頃の少年少女たちが、幾分緊張した面もちで、やはり彼を見つめている。

「……本当に、入学おめでとう。君たちの未来に、どうか溢れる陽射しのあらんことを」

 落ち着いた、優しい声音でそう締めくくり、彼はステージから降りる。 

 ━━生徒総代。

「……ヒサカせんぱい」

 どこか夢見心地に、エリサは呟く。

 あんなふうになれたらいい。あんなふうに、自をもって、前を向いて……。

 初めて見た彼が、まだよく知らないみんなが、この空間が━━……

 エリサにはとてもすてきに思えた。

 そう。彼の言葉じゃないけど、

 まるで……

 陽射し。


「……で、エリサはどう思う?」

 全寮制のこの学園で、どういう巡り合わせか同室になったマヤ。

「ヒサカ先輩は、絶対に彼女いると思うなぁ」

 そして、ミーナ。

 二人に突然そう聞かれ、エリサは正直困った。

 ヒサカとは一度も口を利いたことさえない。そんな自分に(もちろんマヤたちも)、そんなプライベートなことが解るはずもない。

「さ、さぁ? どうなんだろう」

 曖昧に微笑むと、再び畑に向き直る。

「大きくなあれ。大きくなあれ!」

 持ち前のシュガーボイスで、懸命にそう唱える。

「大地と水の精霊よ。我が声に耳を傾けたまえ。

 願わくは、この小さな生命に、空の夢を」

 普段はおっとりしているミーナが、厳しい声で地面に手を伸ばし、呪文を唱える。

 土の中で眠っていた種が、目を醒まし、空に向けて茎を葉を伸ばす。

 見る間に彼女の目の前に、立派な薬草が育ち現れた。

「さすがミーナ」

「そういうマヤちゃんだって」

 マヤも同様に薬草を育てることに成功している。

 二人だけではない。クラスメートたちはみな━━エリサを除き、そのステップをクリアした。

「だ、だいちとみずと……あ、あとなんだっけ??

 とにかぁく! 大きくなぁぁって!」

 興奮したエリサの声が虚しく響く。

「せ、せんせぇ、できません……·」

 半泣きで、エリサは教師に向き直る。

「……またですか」

 諦めたように教師━━セラはため息をつく。

 職業として魔法使いを目指す生徒たちが在籍するこの学園に来て、はや一ヶ月。

 エリサの落ちこぼれぶりはズバぬけていた。

「エリサ。あなたの一生懸命さとか、前向きなところは先生も買っているんですよ。ただ━━」

 気遣われるとよけい涙が出てくる。

 エリサは必死に笑おうとした。

「おまえさぁ、やる気あんの?」

 そんな彼女の胸をえぐるように、厳しい声が飛んできた。

 大柄で金髪の少年が、自分を睨んでいる。

「いつもいつもそうじゃん。そんなんでマジでプロになる気あんの?

 そんな簡単なもんじゃないだろ。お遊びなんだったら、退学になる前にとっととママんとこ帰れば?」

 エリサの大きな瞳が瞬間見開かれ━━

 もうだめだった。

 エリサはその場に棒立ちになったまま、後から後から涙を溢れさせた。


『遊びだったら、とっとと帰れば?』

 昼間言われた言葉が、何度も何度も心を襲う。

 ……カズハ。

 エリサと同じ年で、もちろん同じ時期に入学したのに……。彼は自分と正反対だった。

 何をやってもうまくいく。最初に課題をクリアするのは、大抵カズハだ。

「……遊びじゃない」

 自分は一生懸命やっている。こんな知らない土地で━━家族や友だちに会えなくて。さみしくてさみしくて。

 だけど━━一生懸命がんばってる……!

 カズハには遊びに見えても。エリサはいつだって真剣だ。

 ……なのに結果が出ない。

 自分は物覚えが悪い。ドジだ。失敗する。学習能力がない。体力がない。才能がない。自分は……

 一人じゃ何もできない。

 部屋に帰れば、マヤとミーナがいる。本当はベッドで泣きたかった。

 だけど、彼女たちの前でそんなことできるはずがない。

 味のよく分からない学食を取ると、エリサはそっと……寮を抜け出した。

 暗い校庭の、暗い薬草畑。そこに佇む。

 伸びない芽。

 昼間から土の中に放置されたままの、自分に託された種。土の上から撫でてみる。

「おまえは空が見たい? それとも、土の中で━━温かさの中に眠っていたい?」

 ……おねえちゃん。おかあさん。

 ……タケト。

 心で名を唱える。

 ふるさとはきょうもきっと雪……。

 エリサの瞳から、一筋涙が伝う。

「……大地と水の精霊よ。我が声に耳を傾けたまえ。

 願わくは……こんなあたしでもよかったら━━空の夢を見せてください……っ!」

 地を見つめる。

 ずっと、ずっと……見つめる。

「…………」

どれだけ経ったか……エリサはため息をついた。

「……ゃっぱり、ダメなんだ」

 大それた夢だった。こんな自分が魔法を覚えて。誰かの役に立てたら……

 なんて。

 自分すら助けることができないくらいなのに。

「……ごめんね」

 誰にとなく呟いた。変わらぬ地面を見つめ、エリサは儚く笑った。

 かかとを返す。畑から離れる。

 一度だけ、空を見上げた。

 星月夜。

 吸い込まれそうになる。

 それからまた歩き出した。

 ……彼女のいなくなった畑。


 翌朝。 

 重い足を引きずって、エリサは教室に向かった。

 瞳は足元ばかりに向き、ろくに顔も上げられない。

 教室に入ろうとした。

「エリサ!」

 興奮した声。

 始めてきょう、まともに顔を上げたエリサの目に飛び込んで来たのは━━

 カズハの笑顔。

「来いよ!」

 腕を捕まれる。

「痛! な、なに……?」

 強引に連れ出される。

 校舎の外は快晴━━

「見ろよ、」

 転びそうになりながら、エリサは見つけた。

 青い青い━━

 空に向かう、

 小さなイノチ


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