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完結済【彼女の教室】:最後の回答―あの席に座っていたのは誰か。―後ろの席から、誰かが手を挙げた。その瞬間、とうとう十年の沈黙が破られる。―  作者: Taku
第二章(続編・同窓会) 『――同窓会の夜、まだ決まっていないこと』

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第4話 「席替えの、そのあと」【拓視点】

同窓会翌日の昼。雨は上がったが空は曇ったまま。教室の窓は曇り、外の景色がぼやける。


六人は、まだそこにいた。誰も帰ろうとしなかった。それぞれが自分の席に座っている。十年前と同じ配置。でも、一つだけ空席がある。


「なんかずっとここにいるね」


瞳。彼女は後ろの席を気にしている。時々、振り返る。


「同窓会昨日で終わったのに」


沙織の苦笑。彼女はスケッチブックを開いたまま、何も描いていない。


「でも帰れない」


拓が曇りガラスの向こうを見る。何かが動いた気がした。人の形。でも、二度見すると何もない。気のせいか。


「ねえ、あの頃に戻ってみない?」


沙織。


「どういうこと?」


「席替え。当時の席に座ってみよう」


一瞬の沈黙の後、康介がうなずく。彼は一番最初に立ち上がった。


「いいね」


それぞれが写真を見ながら席を探す。拓は窓側の前から二番目。瞳はその後ろ。康介は廊下側の真ん中。沙織は窓側の一番後ろから二つ前。Eは拓の隣。純は一番後ろの一つ前。


そしてその隣――誰も座っていない席が一つ。そこだけ、机の表面が違う。新しい。使われていない。誰も座ったことがない。


「あそこ、誰の席だった?」


拓の問いに六人の視線が空席に集まる。その席だけ、日が当たっていない。影の中にある。


沙織が首をかしげる。彼女はスケッチブックを開き、その空席を描き始めた。


「……ずっと空席じゃなかった?」


「違う」


瞳の声が硬い。彼女は立ち上がったまま、その席を見つめている。


「誰か座ってた気がする」


「誰?」


康介。彼は腕を組んで、考え込むように。


「……思い出せない」


Eの声が小さい。彼女は本を開いていたが、閉じた。


「でもいるはず。あそこに」


「とりあえず空けておこう」


拓。


六人が座る。教室には六人の生徒と一つだけの空席。その空席だけ、空気の色が違う。ほんの少しだけ、青白い。


「あの頃みたい」


沙織。


「うん。でも誰か足りない」


Eの言葉と同時に、空席の机のノートが風もなく開く。ページがめくれる音が、やけに大きく響いた。


『まだ、決まっていない』


全員が読んだ。拓のコーヒーカップが微かに傾く。中身がこぼれそうになって、彼は慌ててテーブルに置いた。


「……見た?」


瞳の声。全員がうなずく。うなずかずにはいられなかった。


「誰が書いた」


康介の低い声。彼は立ち上がりかけて、また座った。


「わからない」


拓。彼はもう一度窓の外を見た。誰かが立っている。でも、それは自分の影だった。


沙織が無意識に空席を描き始める。線を引き、影をつける。鉛筆の動きが速い。でも――


「描けない」

沙織の声が震える。彼女は鉛筆を握り直した。

「輪郭は見えるのに……中が、空白なんだ。鉛筆が、拒否してるみたい」


拓が立ち上がり空席に近づく。自分の席から空席まで、五歩。その距離がやけに長い。ノートを手に取る。重い。こんなに重かったか。ページをめくる。


『席替え、楽しかったね』


新しい文字。まだインクが乾いていない。書いたばかりだ。


「さっきまでなかった」


拓の声が震える。彼はノートを机の上に置いた。手が離せない。くっついているようだ。


その時、純のスマホが震える。グループLINE。沙織から写真。でも沙織は目の前にいてスマホを触っていない。彼女のスマホはスケッチブックの横に置きっぱなしだ。


写真には六人ではなく七人が写っている。後ろの席に誰かが座っている。姿はぼやけ、服の端っこだけがかろうじて見える。その色は、昨日のコートと同じ。でも、もっと暗い。もっと深い。


「これ……」


純がスマホを向ける。全員の表情が凍る。沙織の手からスケッチブックが落ちた。


「誰だ」


康介。


「わからない。でも――」


E。彼女は写真を拡大した。ぼやけた部分が、少しだけ鮮明になる。


「あの日、非常階段にいた四人目かも」


その瞬間、教室の空気が震えた。窓が軋む。黒板のチョークがひとりでに転がる。床に落ちて、乾いた音を立てた。


そして――後ろの席に誰かが座っているのが見えた。一瞬だけ。顔は見えない。でも確かにそこに「いる」。こちらを見ている。視線の重さを感じた。その視線は、暖かかった。でも、どこか寂しげだった。


沙織のスケッチブックから鉛筆が落ちる音。芯が折れた。


「……見えた?」


沙織のかすれた声。全員がうなずく。うなずかずにはいられなかった。


「誰だった?」


「わからない。でも――」


拓。彼は空席を見つめたまま。


「あいつだ。ずっと見てたあいつ」


次の瞬間には誰もいない。空席だけ。ノートは閉じられている。閉じられた瞬間、風が吹いた。窓が開いていた。誰が開けたのか。


『またね』


その文字が、曇った窓ガラスに書かれていた。指で書かれた。でも、その指紋は誰のものかわからない。


その夜、純はホテルで写真を見返す。七人目の姿はぼやけている。でも服の端っこははっきり写っていた。昨日のコートと同じ色。そしてその柄はあの喫茶店のマスターの背中に似ている。いや、違う。もっと古い。もっと懐かしい。


純はスクリーンショットした。今度は消えなかった。でも、写真を見るたびに、ぼやけた部分が少しずつ変わっている気がする。誰かに編集されている。でも、そんなはずはない。

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