第41話
三試合目が終わり、四試合目に差し掛かろうとしていた頃。俺はポケットからスマホを取り出し、本配信をふと眺めていた。
そこでは、華やかなイラストがスライドショー形式で画面を流れ、空間を彩っていた。
銃の手入れを終え、満足げな表情を浮かべる薙又レイ達のイラスト。舞台の上で仲良くポーズを取るGEN氏達。
一枚のイラストに込められた背景が、大会のドラマへと観るものを誘う。
画面が切り替わると、二人の少女が現れる。少女たちは寛ぎながら両手で恵方巻を頬張っていた。
お、俺達のチームのイラストだ。だが何で俺がいねーんだ。
目を凝らして見てみると、四角い画面いっぱいに広がるイラストの端の方で背を向けた男が描かれている。
「俺小さすぎだろ!だが妙に解像度高いのがムカつく。…まあ、良いイラストだ」
あまりに小さかったので思わず突っ込んでしまったが、お陰で緊張がほぐれた。
「さぁ!絶対に逃げ切るぞ!!」
「はい!!」
「根性で頑張ろう!」
元気のいい返事がVCに残ったまま、四試合目の時刻となった。
準備完了のボタンを押し、俺達は船に乗り込む。
目指すは辺境の名もなき町、ほとんど何もないので田舎と呼んでいる町だ。
町の中にある家は本当に小さく、二人で一緒に入ろうものならまともにアイテムも集められない。その為俺達は分かれてアイテムを集めることにしていた。
指示通り、俺の脇にピタリとくっ付いていた二つの影が分離して、小さな町へと放たれる。
「さあ、俺はあそこに降りようか」
悠々自適に目的地を見下ろしていると、ふと視界の端に映る影に目が泳いだ。
…3…4、5。
いや?
1,2…3
そこでは飛行機雲のようにそれぞれの軌道が目まぐるしく交差しながら、錆びれた田舎の上空を賑わせていた。
「田舎にこんなに人が居るわけねーだろうがぁああ!!」
初動被せだ。想像していた空の旅とは程遠い地獄の争いである。俺は思わず悪態をつく。
「クソがぁ!!」
すると、俺の真上にピタリと着いてくる人影があった。
「堪忍やで~イツカはん。」
「GEN氏ィ‟!!分かっててやってんだろうなぁ!」
「分かってるも何も、ルール無用のタイマンやがな。正々堂々行きましょうや」
「何が正々堂々だ。俺達のがリスクでけーんだよ!」
GEN氏チームとの仁義なき1v1が始まってしまった。
「ハマスあったで!」
「あわわわわわわわあわ」
「やばい!どうしよう!武器!武器!」
「こっちでええんかなあ」
「状況が分かんねえよ!!!!」
狂騒、混濁、不揃いな報告が爆音となってVCという名のホールに響く。
「ヤバい!!ヤバいかも!!」
「男の人~!!」
「…えっと、ふええー!」
「ちょっとまって!」
「先輩ーー!!」
「駄目だ!うるせえ!!!」
訳も分からないまま、同じ建物を挟みこむように俺とGEN氏は着地する。
俺はベランダから侵入し、ガサゴソと二階のアイテムを漁る。一階からは足音。そして同じようにガサゴソと音がしていた。
お互いほとんど場所は分かっている。
俺はバルコニーから顔を出す。すると階段の隙間からGEN氏と揺舞せんらの姿が見えた。二人は何やら話をしているようだ。
敵が近くにいることは分かっているのに随分と呑気なことだ。俺は機会を伺い、奇襲の時を待つ。
「ほら、ゆら姉!ハマスあげるで!ひなたそのとこいってき!」
「でもGENさんハンドガンだけですやんか」
「大丈夫!それよりジャイアントキリング、任せたで」
ちょうど俺と反対方向に揺舞せんらは走り出す。
それと同時に俺は階段の隙間に対して銃口を向けた。照準の先にあるのはGEN氏の姿。まるで揺舞せんらの盾になっているみたいだ。
ズドドドドド、ガチャン。
「うお!まずいなあ」
ダメージを受けたGEN氏は咄嗟に身体を切り返すと、こちらのリロードの合間にバルコニーの真下へと潜り込む。
それを追うように、スライディングで階段を飛び越え下へ向かう。
ダン!ダン!ダン!ダン!
俺が飛び出したのと同時に、GEN氏も飛び出しながら銃を放ち、こちらの胴体を貫く。
衝撃に一瞬画面が止まる。
こちらの体は飛び出した勢いのまま床を滑り、相手に照準を合わせ続ける。
途切れることの無い弾丸はまるでカッターのように、狭い室内を切り裂いていく。
対してGEN氏も身体を低く滑らせながら、一瞬だけ銃口がこちらを向く。
合わせて三発、空気を断ち切る短い衝撃が差し込む。
視界が反転し、天井が見える。
遅れて、自分が床に倒れたのだと理解した。
「っしゃあ!」
勝利を確信した声がして、GEN氏はそのまま近くのアイテムを漁り始めた。
消えゆく視界の中、少しでも時間を稼ごうと俺は声を発した。
「揺舞せんらの所に行かなくていいのかよ」
「あ、うんええで。あっちは任せとんねん──」
飄々とした声が段々と遠くなっていき、俺のキャラは消滅、そしてチームメイトの視点へと画面が切り替わった。
「ひなた先輩、武器は拾いましたか?」
「うん、拾ったよ!」
屋外のアイテムボックス前にて、二人の少女が向かい合っていた。
乾いた風が、田舎町の土埃をゆっくりと巻き上げる。
崩れかけた木柵。
放置されたドラム缶。
誰も居ない通り。
まるで西部劇の決闘前だった。
互いに距離を空けたまま、動かない。
どうして動かない。初心者である揺舞せんらと経験者の暁野ひなたであれば後者の方が有利だ。
頼む、俺の分までポイントを稼いでくれ。
すると揺舞せんらが静かに口を開く。
「ひなた先輩」
「なにかな?」
「ウチ、今日は負ける気しまへんのよ」
「奇遇だね。私もだよ」
そう言いながらも、暁野ひなたの声はほんの少しだけ上擦っていた。
数秒。
いや、体感ではもっと長かっただろうか。
先に動いたのは揺舞せんらだ
三点バーストの銃を取り出し、一気に構える。
迷いが無い。
だが、それと同時に。
「えいっ!!」
暁野ひなたもまた勢いよく武器を取り出す。
その瞬間。
揺舞せんらの目が丸くなった。
「……なんで竹槍?」
俺の目も丸くなった。彼女の手に握られていたのは、銃でもショットガンでもなく、先端だけ無駄に鋭い竹槍だった。
文明レベルが急に後退している。
「だってこれしか無かったんだもん!!」
「嘘やわ!?」
叫びながらも、揺舞せんらの指は止まらない。
三点バーストの短く区切られた銃声が乾いた町へ響き渡る。
対する暁野ひなたは。
真正面から突っ込んでいた。
「うおおおおおおおおお!!!」
竹槍を構えたまま。
猪だった。
いや、猪の方がもう少し遮蔽物を使う。
弾丸が一直線に身体へ吸い込まれていく。
それでも数歩進み、
「せんらちゃああああああん!!」
叫びながら槍を突き出し──
届く前に、身体が力を失い床に倒れた。
「…せんらちゃん、強くなったね。」
「先輩、おおきにです。」
少しして、GEN氏が合流してくる。
「ナイス!ゆら姉!」
「やったでー!初キル!しかもひなた先輩、嬉しいわぁ」
「ほらな!ハマス最強!ゆら姉最強や!どんどんいったれー!」
「ごめんね…」
対岸の声は賑やかだが、こちらのVCはそんな雰囲気ではない。
やられた。運が無かったが、下剋上が一番起こり得るのがこの初動だ。勝てるはずの対面を落としてしまったのである。
最後はてすり氏か…
そしてまた画面が切り替わった。
「あわわわわわわわわわ…」
彼女はこの惨状を茫然とした様子で受け止めていた。
こんな状況では無理もない
てすり氏に出来ることは限られているがせめて指示を飛ばさなければ。謝罪は後だ
そうして口を開こうとした瞬間、
「皆さん、ごめんなさいぃぃ」
てすり氏は敵に背を向け、全力で駆けだした。
振り返らず、ただ真っ直ぐに逃げる。
嘘のように迷いが無い。
いや、多分、考える余裕が無い。
「てすりちゃん逃げたぁ!?」
逃げていい、俺の指示もそれだった。俺の想像の数秒先、ほんの少しではあるが状況は好転した。
希望を託すようにてすり氏に声をかける。
「いいぞ!そのまま走れ!」
「こ、これでいいんでしょうかぁぁぁ!」
「ああいいぞ!信じて走れ!迷うな!!」
「はいいぃ」
半泣きの返事と共に、小さな背中が荒野へ飛び出した。
敵が追ってきているのかもわからない。
「私たちの分まで頑張ってー!」
「はいぃぃ!」
逃げる逃げる。
本能のまま逃げ続けるその背中は、さながら小動物のように、
しかし無情にも、その背中は一筋の弾丸によって貫かれた。
ー部隊全滅ー
killed by 薙又レイ
キルログによって俺達は状況を理解する。
「あっ、マタギさんにやられてしまいました…」
「あー!レイ君たちかぁ」
「ごめんなさい…私、逃げることしか出来ませんでした」
しょぼくれたようにてすり氏は言う。
「反省か」
「はい…私も一緒に戦うべきでした…」
てすり氏から出てきたのは反省の言葉だった。だが俺はそうは思わない。
「俺は逃げて正解だと思うけどな。てかあの時てすり氏は自分で逃げる判断をしたんだろ?あれは何でだ?怖かったから逃げたのか?」
「いや言い方!」
「あの時は、少しでも生き残ろうと思って…」
その言葉で確信する。やはり彼女は最後まで希望を捨てずに戦っていたのだ。
「生き残る、いい判断じゃねーか。俺はてすり氏の考えを尊重する。反省するのは勝手だが、一応それだけは言わせてもらうぞ。」
「そうだねー。私は正直楽になりたいと思って突っ込んじゃったところがあるから、てすりちゃんは偉いと思う」
「その通りだ。ひなたつ~は反省しろ」
「そのお天気キャスターみたいな呼び方は何!?というか尊重は?どこ行ったの?」
「お二人とも…ありがとうございます!私、頑張ります!」
「うんうん!」
先ほどは背中を向けて逃げていたのに、今度は背中合わせに声を掛け合っているような、そんな不思議な感覚だった。少なくともさっきよりは前を向けているらしい。
「そもそも初動被せはマナー違反だろ!マナー違反!」
「いや絶対に私たちが言えた義理じゃないと思う」
「でもかなりポイントを詰められちゃいましたね。」
公式では既にポイント状況は伏せられているが、計算上GEN氏チームとは同じくらい、そのすぐ下にも何チームか着けている。最早どこが優勝してもおかしくない。
ここまで来たからには優勝しか見えていない
そうして運命の最終戦が始まった。
エリアは既に収縮を始めている。
俺達三人は、焼けた草原と岩場の隙間を縫うように走っていた。
「右、右!そっち遮蔽ある!」
「は、はいっ!」
「待ってぇ!置いてかないでぇ!」
後ろでは銃声が途切れない。
五試合目ともなれば、皆もう必死だ。
全員が何かに追われるように銃を撃っている。
その中を、俺達はひたすら逃げ回っていた。
「なんか追われてねーか俺達!」
「キミがヘイト高いんじゃないかな!」
「嬉しくねぇ!」
岩陰へ滑り込み、一瞬だけ息を吐く。
だが、その瞬間だった。
「――あ。」
目の前の茂みから、檸檬色の髪をした少女が現れる。
「こんシトラ~」
「うわ出たぁ!!」
柑咲シトラチームだった。
互いに「あっ」っと顔を合わせ、お行儀よく笑みを交わす。
しかし、彼女の目が本気の目に変わった。
「ようやく見つけたわよ!憂生イツカ!!シトラをコケにしたこと、許さないんだから!」
どうやら穏便に済ませる気は無いらしい。
「あちゃ~、これはまずい感じ?」
「どうしましょうか…」
チームメイトの二人も何かを察していた。
俺は後ずさりを止め、全力で叫ぶ。
「散れぇぇぇぇぇ!!!」
その瞬間、俺達三人は全員が別方向へ走り出した。
「アハハ!私たちはやっぱりこうなるよね~」
「ヒドゥンってこんなゲームでしたっけぇ?」
小動物が爆竹を投げ込まれたみたいに、四方八方へ弾け飛ぶ。
当然こんな作戦が上手くいくはずもなく──
ー 部隊全滅 ー
最後の逃避行はあっさりと幕を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「マナー違反…マナー違反…あの初動被せが無ければ…」
「まだブツブツ言ってるよー」
「あれが無ければもうちょっとポイント稼げてただろぉ」
結局俺達は入賞すらせず、GEN氏のチームが優勝した。
本配信では、三人で楽しそうトロフィーを掲げている。
「あ!ほら見て見て二人とも!竹槍、ひなプンテ、二つもトレンド入ってるよ」
「なんだよひなプンテって」
「凄いよね!てすりちゃん!」
「はい!凄いです…本当に…何が起こるか分からない大会で…お二人のお陰で凄く楽しい大会でした。ありがとうございました。」
噛み締めるように彼女は言う
「えへ~どういたしまして~私も楽しかったなー。キミにも声かけて良かったよ、ありがとね!」
「ああ、ただ優勝は出来なかったがな」
「まあ仕方ないよ!…賭けには勝ったみたいなものだし?」
ボソッと呟いた彼女の言葉を俺は聞き逃さなかった。
「おい、賭けってなんだ!もしかして賭博してたのか!俺も混ぜろ!」
「いやいやそんな物騒なことじゃないから!私からしたらキミを誘うの自体が結構な賭けだったんだよ!」
確かにそうかもしれない。
「だが俺に賭けるのはおかしい。結果を見てから言うのはずるいが、もし俺が賭けるとしたらGEN氏は軸にするだろ、ヘッジでマタギ野郎にも賭けていいな。大穴狙いだったら他のチームも──」
「何か始まっちゃいましたね…」
「いいよ…放っておこう。それよりてすりちゃん!今度私にもコスプレ教えてもらえないかな?」
「えー!ひなたさんのコスプレ!見た過ぎます!ぜひ是非、いつでも聞いてください!何だったら今からでも──」
二人がトークに花を咲かせている間に閉会式は終わり、大会も終わりを告げようとしていた。
俺達は配信を閉じ、解散へと向かう。
「お二人ともお疲れさまでした!貴重な体験でした、本当にありがとうございます!」
「てすりちゃん!お疲れ様!」
「おう、ありがとな。お疲れ」
「…」
「…」
静かになった通話の空気がひんやりと耳を通して伝わってくる。
「…」
「…」
「…キミはまだ抜けないのかな?」
もう用は無いはずの通話サーバーから声が聞こえてきた。
「俺は一応IGLだったからな。最後まで残るのが当たり前だ」
「何そのこだわり…ちょっと引いちゃうかな」
「そっちこそなんでまだいるんだよ」
「私は最後までこの大会を楽しもうと思ったんだよ!」
「お前も大分癖強いじゃねーか!」
「キミと一緒にされるのはちょっと困るかなー」
「だったら私も残ります!」
意地の張り合いに、居なくなったはずのてすり氏まで乱入してきた。
我ながらこの時間は本当に訳が分からない。
──思えば最初から訳も分からず始まった大会だった。
与えられた役割をこなす気のない三人の集まりが、思い通りに演じ続け、狂った劇を作り上げる。
結果を求めるならば、もっと綺麗に演じるべきなのだろう。
だがそれは恐らく無理なのだ。
何故なら自身がこの結果を以て、最大にして幸福を感じてしまっているからである。
PCの横にある照明は、ずっと満足げに部屋を照らしている。
「期待値は越えれたんじゃねーか…?」
結局俺は最後まで二人のアイコンが消えるのを眺めていたのだった。
という訳で、これにて第三章は終わりです
読んでくださった方、本当にありがとうございます。
途中で挟まった回想パートでは追放系を取り入れようと書いてみました。ざまぁの予定は今の所ありませんが、出来ればそちらも入れたいですね。
そしてあの過去がこの作品の本筋として最初に考えていたのですが原型はありません笑
テーマもめちゃくちゃです笑
なので次の章では主人公の過去の因縁についてきちんと書こうと思います。一応脱線しないのが目標です。
改めましてここまでお読み下さり、ありがとうございました。それでは失礼いたします。




