第40話
二試合目が終わり、ゲームのロビーに戻る。
画面には、参加者達の名前が表示されていた。
だが、よく見ると全員の先頭に同じ形式の文字が付いている。
それはチームタグと呼ばれ、大会側が各チームに割り振った識別子だ。
LIL_憂生イツカ
LIL_暁野ひなた
LIL_てすりです。
俺たちにも、例外なくそれはある。
ロビー画面にはチームタグと名前がずらりと並ぶ。
NGH_
JH_
ORG_
点呼を待つ兵士の列のように、同じ形式の名前が規則正しく並び続けている。
その無機質な文字列が妙な緊迫感を生み出していた。
そんな雰囲気とは対照的に、チームVCには暁野ひなたの浮かれた声が響く。
「色々あったけど2位だよ!そして全体では現在首位!これはもう優勝まで走るしかないよね!優勝!はい!優勝………優勝!」
はしゃぐ声が遠くなっている。どんだけ浮かれてんだ。
「優勝…本当にいけるんじゃないでしょうか…それで──」
「次はどんな作戦でいくんですか?」
期待の籠ったてすり氏の言葉に俺は答える。
「次の作戦はもう無い。」
「ええっ!?もう無いってどういうこと!?諦めちゃったの!?」
「まさか、落下しすぎて見限られてしまったんじゃ…」
実際に無いから仕方ねえ。だが諦めたわけではない。
「違ーよ。単純に奇策があれしか思いつかなかっただけだ。そしてあれはもう使えない。」
「じゃあもう無理なのかな?」
にこやかな声色で彼女は問いかける。
「いや勝機はある。俺達にはポイントの貯金があるんだ。今のポイントを整理するぞ。」
「試合は全5試合、現在2試合が消化済みだ。俺達は1,2戦ともポイントを稼いで33ポイントだ。そして2位はマタギ野郎のチームで16ポイント。GEN氏のチームは同率3位で14ポイントだ。追い上げてくると考えられる筆頭はこいつらだ。
残り三試合で2位との差は17ポイント。つまり一試合当たり6ポイント差を詰めなきゃならねえ。
チャンピオンで15ポイントと仮定すると俺達は毎試合9ポイント取れば逆転されねえ。」
「それなら何とか逃げ切れる。」
「つまり、隠れて順位ポイントを稼ぐという訳だ!」
「そういうことだ」
獲得ポイントは相手をキルしたときに得られるキルポイントと順位に応じた順位ポイントで決まるのだが、順位ポイントだけだと9ポイントを得ようとすると上位に入らなければならない。
三試合で平均9ポイントは正直厳しい気もするが、相手も毎回同じチームがチャンピオンになるとも限らない。
「ふっふー!私たちの鍛えたハイド能力、見せてあげよう!」
そしてこの馬鹿みたいな自信がどこから来るのかも気になるしな。終わったら聞いてやろう。
そうして三試合目の降下を開始する。
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アイテム収集を終え、俺達は茂みに身を隠していた。
「この場面、一番警戒すべきことはなんだ?」
「それは、マタギさん達…だと思います。」
「ああ、俺もそう思う。」
「確かに。レイ君はまだ見えてないよね」
「ジャスティスハンターズ」Vtuber薙又レイのチームだ。
俺達と同じくスナイパーを主軸とした戦略で、スクリムでは散々やられてきた。
ちなみにあいつはキャリー枠ではなく経験者枠である。俺達に対するあの強さはどう考えても詐欺だろ。
「先に場所が分かればいいんだがな。」
「あの人たちは何故かこちらの位置を先に見つけてきますよね」
そうだ、あの謎の嗅覚はスピリチュアルとしか形容しようのないものであった。
「なあ。俺達もスピリチュアルをやってみようぜ。」
「それってどういう?」
「得体のしれないものには得体のしれないものをぶつけるってことだよ。例えばてすり氏はこの前、恵方巻作ってたよな。」
「はい!でもそれが何か関係あるんでしょうか?」
「今年の方角ってあるだろ?あれで位置を割り出せるかもしれねえ。」
「いやでも…」
てすり氏は困惑している。
俺も自分が何を言っているのか分からないが、もうそういうところまで来ている。根拠が無いより何かしら根拠があったほうがマシだ。
「今年の方角は北北東です。」
「分かった。ありがとな。」
「それじゃあ、暁野ひなた。」
「待ってました!キミ!私もそういうの結構好きだよ!」
「今日のめざまし占いは見てたか?」
「もちろん!女の子はそういうのが大好きなんだよ!」
「射手座は何位だった?」
「えーっと確か、あー、最下位だった気がする。」
「そうか…」
「どうして射手座なんですか?」
「ああ…俺の星座だ」
「いや聞きたかっただけだよね!?その割に最下位でテンション落としてるし!切り替えてこ?」
「ちなみにお前は何位だった?」
「え?私?私はなんと、一位でした!!!」
「おめでとう。それじゃあ、北北東に見えるあの茂みに向かって全員でスナイパーの決め打ちだ。」
「それじゃあって何!?場所を割り出すのにめざまし占いは何も関係ないよね!?やっぱり聞きたかっただけだよね!?」
「ひなたつ~いいから撃つぞ」
「それは別の番組だから!!!」
そうして俺達は一斉に銃を構える。
「じゃあせーので撃つぞ。せーの。」
引き金を引き、茂みに向かって斜めに弾が飛んでいく。
──ポシュ
手ごたえが無い。俺の撃った弾は茂みの向こうへと消えてしまった。
それと同時にキルログが流れる
- 薙又レイ down -
- unknown down -
「2ダウンです!!」
「おい嘘だろ!だが走れ!詰めるぞ!」
暁野ひなた、さらにてすり氏の放った弾丸がまさか薙又レイを含む二人に命中したのだ。
暁野ひなたが得意げに話しかけてくる。
「やあ最下位君。キミはやっぱり最下位なんだ。」
シンプルにウザい。
「ひなたさん、私達ついてますね!」
「うん!てすりちゃんってもしかして水がめ座だったりする?」
「はい!もしかしてひなたさんもですか?」
「そうだよ!えー!運命感じちゃうなー!」
「わー、本当ですか!凄いです!」
「おい聞いてるか?トークはその辺にしてとっとと詰めるぞ!」
俺達が向かった先に見えたのは、床に倒れ込んだ薙又レイをチームメイトが必死に治療している姿だった。
首を回し、土の付いた顔をこちらに向けると、その顔が一気に青ざめる。
「貴方たちは、どうしてここが分かったのですか…」
「さあな、たまたま同じ方向を向いちまってたみてーだな!」
手向けの言葉を置いておき、有難くキルポイントを頂戴したのだった。
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三試合目終了時点、俺達のチームは42ポイントで依然一位、二位はGEN氏のチームで28ポイントだった。
「惜しかったねー、ドンマイドンマイ!」
「まあしゃーねえ」
先ほどの試合は、エリア移動の際に他のチームに狩られてしまい俺達は上位に入れずに終わった。
ただ二位であるマタギ野郎を落とせたのとキルポイント分で流れは悪くない。
しかし気になるのはGEN氏のチームだ。やはり一気に追い上げてきている。
「だがな、最後に生き残ったやつが勝者なんだよ」
画面の前で呟いたその言葉に煽られるかの如く、GEN率いるチーム「なんばグランドハマス」のVCでもその存在が槍玉に上がっていた。
「イツカはんのチーム大分頑張ってるなー」
「もっかいひなた先輩にリベンジしに行きませんか?ウチに作戦があるんやけど──」
その内容を聞き男は笑う。
「んははっ、そうか、ゆら姉はそら知らんわな!すまん!言うの忘れとったわ!」
「それな、アカンことは無いんやけど、暗黙の了解でアカンいうことになってんねん。破ったらリスナーに何言われるか。怖いで~。」
「あらホンマぁ。」
彼女は少しだけ間を置き、話し始める。
「やけど不思議やねえ、暗黙の了解って皆が善意で守るから成り立つもんやと思うんやけどなぁ。ウチの地域ではそうやったよ」
「どういうことでっか?」
「あのなぁ」
彼女は言葉を選びながら前の試合を振り返る。
「さっきイツカいう人をGENさんは倒せたやろ?けどウチの為に見逃してくれた。」
その言葉に彼は相変わらず飄々と返す。
「なんやーゆら姉けったいなこと言うて、そんなことありまへんよー」
「いやええよぉ」
軽く首を振り、答える。
「背に腹は代えられんって言うてくれたんはホンマに嬉しかったさかい」
「けどウチからしたら、えらい向こうに都合よく見えてなぁ。」
「だってそうでっしゃろ?自分が助かりたい時だけ、ルール守れ言われてるみたいで」
「向こうが都合ようルール作るんやったら、こっちに守る義理は無いやんか。」
そして男は手を叩きながら笑う。
「アハハ、ホンマや!ホンマやなぁ!」
「そういう屁理屈、ワイは好きやで。ワイも乗らせてもらってええですか。」
にっこりと目を細めながら彼女は首を傾ける。
「もちろん。なんかあったら責任は取りますさかい。」
「ホンマみんな、ええ性格してるで!」
背もたれに体重を深く掛け、ポヨンと反動で起き上がる。
一人の男から生まれた秩序が静かに揺らぎ始めていたのだった。




