表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/41

第38話

整然と設置されたPCがその骨格を象るように鮮やかに彩りを放っている。


大会っちゅーのは不思議なもんや。

始まる前が一番静かで、始まった瞬間に全部が騒がしくなる。


まるで深海のアンコウみたいや。普段はじっとしとるくせに口を開けたら一瞬やからな。


「二人とも今日は頑張ろな!」

「はぁい~」

「はい!頑張りましょう!」


今日は大会本番。ワイらのチームは絶好調、スクリムでも連日一位や。

そうは言うても大会には魔物がおるからな。それはワイもようさん経験しとる。


背中を撫でるのは適度な緊張感、配信のコメントも熱を帯びてくる。


いよいよ試合が始まろうとしていた。


「ほな皆さん、いっちょ暴れましょか!」


そう言ってワイたちは摩天楼を目掛けて降下を開始した。


「ハマスとその強化パーツあったら教えてなぁ」


ゆら姉の緩い関西弁と一緒に、摩天楼の隅々まで全員で探索して物資を集める。


備えあれば憂いなしや。


「みんな回復と弾ちゃんと集まったか?」

「はい!」

「ようさん持ってますぅ」


そしてエリアを目指して移動を開始した。


森を抜け、少し開けた台地に出たところで、銃声が聞こえる。

誰かが戦いを起こしている合図や。


「GENさんどうします~?」

「様子見に行こか」


バトルロワイヤル形式のゲームは、1対1の戦いやない。誰かが戦ってるっちゅーことは、漁夫の利を得るチャンスや。


下り坂の先に、ポツンと置かれた一つの小屋が見える。

周囲は妙に開けていた。

森からも、台地からも、細い道が何本もそこへ収束している。


まるで水が低きに流れるように、自然と目に留まる場所や。


そして、そのうちの一本。

森の外れの道筋から、乾いた銃声が断続的に響いていた。

弾は一直線に小屋へ伸び、壁に当たって白い木片を弾き飛ばしている。


「攻めあぐねとんな」


小屋へ向かって射線は伸びているものの有効打は与えられていない。

小屋の中からはそれを挑発するような罵声が聞こえていた。


「オイオイどうしたぁ!?スクリムではあんなに元気だった癖に!味方に頼らないと何もできないコバンザメさんよぉ!!」


何とも小物臭いその声の主はすぐにわかった。


「イツカはんや…」


またあのムーブやってはんで…。

彼は窓から顔をちょこちょこ出しながら、口を開いては弾を浴びせ、相手のリソースを削っている。


するともう一方からは苛立った様子の甲高い声が聞こえていた。


「うるさい!ちょっと!あいつをどうにかできないの~!」


隣で声がする。


「あっちはシトラちゃんやねぇ」

「ゆら姉の知り合いでっか?」

「そんなとこですぅ」


不毛やで、ちょっかいかけられて物資を削られる側はたまったもんやない。せやけどあそこまでど真ん中やったら無視したくても難しい。

やるとなったら近づかなあかんけどそれやとワイらみたいな漁夫が怖いからなあ。一瞬でカタつけんとあかん。


それでお互いに消耗してくれたらワイらの出番やな。キルポイントは稼がせてもらうで


そう思っていると盤面が動いた。


しびれを切らしたんやろか、凄い勢いで小屋へ近づいていく三人の姿が見える。三手に分かれて正面と裏口、そして屋根の上を包囲しようとしていた。


「袋のネズミや。三方向、どっか明け渡したら一気に持ってかれるで」


ワイは小屋を睨みながら、三人の動きを追った。


正面に一人。

屋根にもう一人。

そして裏口にシトラちゃん。


逃げ道を塞ぎ、視線を分散させ、どこか一箇所に隙が生まれた瞬間に雪崩れ込む。

悪うない。

せやけど妙やった。


正面の奴は、銃を構えたままふらふらしとる。

屋根の上の奴も、小刻みに動きながらも、次の一歩を踏み出してない。


――進めへん。


まるで、見えへん線を踏み越えんようにしてるみたいや。


その一方で、裏口側だけが、静かに前へ進んでいた。

シトラちゃんや。


彼女は迷いなく距離を詰めていく。

銃を構え、足音を殺し、一直線に扉へ向かう。

まるで、そこだけが空白になっているみたいやった。


「……フリーパスやな」


思わず口から漏れる。

シトラちゃんの手が、扉にかかる。

躊躇はない。

扉が勢いよく開いた。次の瞬間


――カチッ。


乾いた、小さな音。

それは銃声よりも軽く、

しかしこの場では、何より重い音やった。


一拍遅れて、室内から、濁った噴出音が上がる。


ブシュッ――!


緑がかった煙が、息のように吐き出された。

床から、壁から、天井から

いくつものノズルが同時に目を覚ましたように。


「なによこれ!」


小屋の中が緑の煙に覆いつくされていく


ガストラップや。

対処法を知ってればそれほど脅威やない。


でも今それは、初心者殺しのリーサルウェポンとなって完璧なタイミングで起動した。

このバージョンのガストラップは厄介やで。一回起動してもうたら対処は難しい、起動させずに壊すのが対策やからな。


「シトラさん!一旦引きましょう!」


チームメイトの一人が冷静に撤退を呼びかける。

その声とは裏腹に、上機嫌な罵声が小屋の外まで漏れ聞こえていた。


「ざまあねえなあ柑咲シトラ!上手くやってたみたいだが、お前は所詮初心者レベル。」

「足手まといは、ちゃんと足手まといになってもらおうじゃねーか!!」


足手まといって酷いで。それを乗り越えるんがこの大会のおもろいとこやろ。

シトラちゃんも涙目になってもうてるわ。


「なんなのよ!もう!」


苛立ちを残したまま彼女達は引き返し始める。


イツカはん達やるなぁ。撃退してもうた。そしたらワイらが狙うべきは──

無防備な三人を眼下に捉え呟く


「ほんまゴメンけど、ワイらもいきまひょか~」


上から一歩を踏み出そうとしたその時、台地の向こう側から、透き通った声が風に乗って小さく聞こえた。


「なんや!?」


ワイは目を細めながらその方向を探る。


すると見つけた。豆粒のように小さく、こちらに銃口を向けている人物を。


──あんな遠く、さらに上やと!?


風と共に声は木霊して、はっきりとこちらの耳まで届いてきた。


「隊長!!発砲許可願います!!!」


小屋の中の人物は力強くその声に応えた。


「よく今まで隠れ通した!」


そして続ける


「許可ァ!!許可!する!!砂シコ許可ぁああああああああああああああああ!!!!」


それを合図にして、二つの銃口から不規則に、しかしとてつもない勢いで弾丸の雨が飛んでくる。


「凄いよてすりちゃん!狙い放題だ!!」

「マタギさんには気を付けてください、さっきN方向に見えましたから!」


死屍累々。この場はあの二人によって完全に制圧されており、ワイらはいつの間にか戦場と化していた小屋の近くへ追いやられていた。


「みんな!!この岩の陰に来るんや!!!」


ワイらの元居たポジションを見ると、そこに向かってすごすごと歩いている人物がいる。


イツカはんや…あそこを渡すとまずい。ここはワイだけでも。

身体を乗り出し、ガス缶を構えた彼に向かい弾を放つ。


「げ!GEN氏。まだいたのかよ」


こちらに気づいた相手はすぐさまこちらへと弾を打ち返して来る。

相手の弾がこちらの鎧を削り、金属片が目の前で飛び散る。そのエフェクトを全身に浴びながらも相手の姿を画面の中央に捉え続ける。


体力バーが削れ、相手の体が地面に突っ伏す。


──止めたで


そう思ったのも束の間、どこからともなく飛んできた銃弾に貫かれ、そのまま状況は大きく傾いていく。



一戦目。チャンピオンになったんは、イツカはん達のチームやった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「チャンピオン!すごいよ!私たちもやればできる!」


「本当に現実なんでしょうか…!」


「GEN氏に撃ち負けた時は危なかったが、ここまで綺麗に作戦がハマると気持ちいいな。」


一試合目が終わり、チームの通話は歓喜に溢れていた。誰もが心拍数の高いまま、それぞれに勝利の余韻を味わっている。


「やっぱり裏ヒドゥンが効いたんだよ!」

「そうですね。チャンピオンは取れませんでしたが、大会前に皆でランクマッチ楽しかったです」

「あの時と全く同じ安置パターンが出てくれて良かったな。」

「でもさ、スナイパーだけ拾って最速で中央に隠れろなんて無茶言うと思ったよ」

「隠密スキルはスクリムで上がってると思ったんだ。にしてもよくやった」


「さあ次もこの調子でいくぞー!」

「おー!」

「よし!」


小さく頷き、次の試合が始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ