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凛が学校に着くと、いつも以上に皆に見られている気がするのは、気の所為か・・・・
誰かに見られている、それは凛にとっては煩わしいものの、どうにもできない事でもあった。
意味ありげな視線を感じるものの、無視して教室に入ればいきなり「自称モテる男」工藤陵介が興奮したように駆け寄ってきた。
「凛!お前、手繋いで歩いてた、あの超可愛い美人誰だよ!!」
―――可愛い美人?言い得て妙だな。
先程まで一緒だった奏の温もりを思い出し、もう会いたくてたまらない。
「おい凛!まさか・・・彼女か?彼女なのか!?」
彼の言葉に教室がシンと静まり返る。そして凛は覚る。
あぁ、今朝の違和感はこれなのか・・・・と。
だから凛はあっさりと認めた。
「彼女だが、何か問題でもあるのか?」
凛の言葉に、一拍置いてからどよめきが走った。
「おい!マジかよ!あの綾瀬に恋人?」
「校門前にたむろってた女子達の表情が悲壮だったのは、その所為?」
「俺、彼女知ってるぜ。隣の大学の有名な一年生だろ?」
「有名な?」
「あぁ。入学当時は腰まで髪が長くて神秘的な美人で注目されてたんだけど、ある時バッサリ切ってきてさ。そしたら雰囲気が全然変わって可愛らしくなったって、注目の的だよ」
「あ、俺の兄貴もその大学なんだけど、言ってた。色んな奴から告られてるけど、秒殺だって」
「名前は・・・何度か聞いてたけど・・・思い出せないなぁ」
そんな彼等の話に耳をそばだてていると、陵介が絶叫した。
「なんだよ凛!あんな美人、どこで知り合ったんだよっ!お前、女に興味なかったんじゃねーのかよっ!!」
うぉぉぉ!と、意味不明な雄たけびを上げる陵介を無視し、先程までの彼等の話を反芻する。
あぁ、髪の長い奏もみたかった。きっと、綺麗だったんだろうな。今も綺麗だが。
それにしても、奏はかなり有名人なんだな。その能力では無く容姿の方で。
それはそれで、心配だ・・・・・
だが、名前を覚えられていないという事は、認識阻害に近い何かをしているのかもしれない。
それでも・・・・注目の的って事は・・・
先程別れたばかりの奏の事が心配になり、思わず携帯を操作する。
すぐに奏から『大丈夫だよ』と返信はきたが、不安は尽きない。
画面を見つめながら、今の偽らざる気持ちを簡潔に送る。
又すぐに奏からの返信。その言葉に、自然と凛の表情は和らぎ、口元に笑みを浮かべた。
先程まで真横で大騒ぎしていた陵介は、ほんの一瞬だけ見せた凛の優し気な表情に見惚れ、急に静かになる。
それは陵介と一緒に騒いでいたクラスメイト達も同じで、何故か顔を赤らめ凛を凝視してしまうほど。
同性だろうと異性だろうと関係なく、一度も見せた事のないその笑みは、見た者全てを虜にしてしまうほど魅惑的。
アスモデウスの力ではなく、凛そのものの魅力なのだが、長い間悩まされ続けていた凛にとってそんなモノは不要以外の何ものでもない。
既に凛の頭の中は奏の事だけで、正気に戻った彼等の追求など気にも留める事無く、携帯の待ち受けにしている奏の写真を眺めながら、早く帰りたいと溜息を吐くのだった。




