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忍び寄る影、反伊達連合軍④

 左月は声を荒げた。

 表情もとても驚いている感じ。まるで、あってはならないモノがそこにある感じだ。


「あ、ありえん! こんな奇跡のような地があるのか!」

「ねぇ、わかるように教えてよ。何でそんなに驚いてんの?」


 申し訳ありません、と我に返った左月が何で驚いていたのか。その理由を話してくれた。

 さっきも触れたが、この地球には大量の土が存在する。その中には肥えた柔らかい土もあれば、痩せた固い土もある。柔らかい土は栄養も豊富で、草花がとても育ちやすい環境とも言える。固い土はその逆だ。


 だが、柔らかい土というのはそれだけ外的要因があって肥えた土になったという事。

 こんな草ばかり生えた、誰も手入れをしていない所でこのような上質な土になるのは不可能だ。と、左月は説明した。


「この土質は百姓が長年掛けてやっと出来る程度のモノ。これが自然に存在する事に左月は驚いておるのです」


 そうなのか。

 私にはいまいちピンと来ないが、土をいじった事のある左月だからこそわかるのだろう。


「てっきり儂は天海殿が畑から持って来た土かと」

「私も驚きました。これだけ寒い中、どうしてここだけはこんなに雑草が元気なのか気になりまして。この辺りが特別そうなのかと思い、麓の土を採取してきたのですが、どうやらこの城の周りだけがこういう土質のようです」


 言われてみれば道中の草はほとんどが枯れていたのに、ここの雑草だけは青々として元気だ。

 それだけ、ここの土には栄養が沢山あるって事なんだろうけど……。


 だから何だ。って感じだ。

 この濃霧と土が特別肥えていると、何の関係があるのだろうか。


「あくまで予想にすぎませんが、この城の周辺には――――」


 と、天海が何かを言いかけたその時。

 伊達本陣から大きな法螺貝の音が鳴った。


 これは伊達本陣から発せられた〝総攻め〟の合図だ。他の取り囲んでいる伊達軍はその合図に従う形で弓を引き、先頭の長槍隊は微かに見える山城に向かって突っ込んで行く。


「姉御、そろそろ俺達も」

「わかってる!」


 私も愛姫隊に出陣の号令を出す。


「愛姫隊行くわよ‼ これは大殿弔い合戦だッ‼ 霧なんて気合で吹っ飛ばせ‼」


 ――――――――――


 私が伊達本隊と合流して数日経過した 十一月上旬。

 未だ城門すら突破できない伊達軍に悲報が訪れる。


「フン、やめじゃやめじゃ! こんな強引な戦い方ではいくら刻をかけようと二本松城は落とせんわ!」


 イライラした口調で立ち上がったのは相馬義胤だ。

 私達はどうやったら城門を突破するための軍議を開いていた。


 とはいえ、何度目の軍議だろうか。

 あれもダメ。これもダメ。色々な作戦を実行したが、私達は堅牢な二本松城を全く攻略出来ないでいたのだ。


 これには流石の小十郎も頭を悩ませた。

 それもそのはず。いっこうに晴れない濃霧の奥から弓矢や石が飛んで来るのだ。これじゃあ先鋒隊は闇雲に敵の攻撃を浴びに行くようなもので、士気はどんどん下がる一方だった。


 遠くから闇雲に城を攻撃していても当たっているのかすらわからない。

 かといって、近づくと弓矢と投石の餌食となる。


 いつまで経っても落とせない状況に、相馬義胤は限界を迎えていたのだ。


「どこへ行く気じゃ⁉」

「悪いが、儂等は国へ帰らせてもらう」


「なあ⁉」


 ただでさえ二本松城の攻略に苦戦しているのに、ここで相馬軍が撤退したらそれこそ年内での攻略は難しくなるだろう。

 そう思った私は、本陣から出ようとする相馬義胤の前に壁を作った。


「何の真似じゃ?」

「待ってよ! アンタ、同盟組んでるから助けに来たんでしょ! こんなところで抜けるなんて武士として恥ずかしくないわけ!」


「ハン、恥ずかしくなんてないのう」


 相馬義胤は足を止め、私を見降ろしながらそう言った。


「愛姫。お前の隊の死者はどれ位だ?」

「え……?」


「当主の無鉄砲な命令で何人の死者が出たかと聞いておる」

「…………。……三人」


「怪我人は?」

「二十人ちょっと……」


 二本松城攻めは時間だけを消費したわけではなかった。

 愛姫隊は基本後詰めとして待機していたが、敵の流れ弾や奇襲によって死者を出してしまっていた。


 だけど、こんなのまだ生っちょろい方で。

 先鋒を務めている伊達成実隊、白石隊、鬼庭綱元隊、相馬隊はもっと被害が出ていた。


 この原因は政宗の命令による力攻めの影響が大きかったのだが、それ以前に敵の士気が段違いに高い事も響いていた。

 それもそのはず。畠山は二本松城を失えば消滅してしまう。そのため、最後の城に残った家臣や兵士達は超必死なのだ。


 それに比べ、伊達軍は年間通して戦ばっかりしていたので士気が思ったより上がっていなかった。

 それに追い打ちをかけるように、ここ最近は風が一段と冷たい。この感じだと今年の雪の季節は早そうだ。


「何度話し合っても、ヤツは自分の考えを曲げん。儂の生涯の好敵手と思っておったが、中身は己を律せぬただのガキ。少しでも期待した儂が馬鹿じゃったわ」


 たしかに、今回の政宗の采配はかなり強引だった。

 何とか雪が降る前に決着を付けようと焦っているのだ。その気持ちはわかる。私だって大殿を殺した畠山は死ぬほど憎い。


 だけど、あまりにもワンパターンだ。

 小十郎の考えた策がことごとく失敗していた事も影響しているだ。政宗自身もその不甲斐なさにイライラしているのだろう。


「じゃあな。無事に帰れれば良いのう」


 義胤は私にそう言い残すと、伊達本陣から去って行った。

 その後は相馬隊の抜けた穴を再編成で補い、再度の力攻めが行われたが、二本松城を落とす事は出来なかった。

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