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忍び寄る影、反伊達連合軍⑤

 ●前田沢城内●


 天正十三年(一五八五年) 十一月十五日。


 愛姫達が二本松城攻略に苦戦している中。中里の地から撤退した相馬義胤は自身の相馬領にある小高城へ帰還すると、補給をしたのち、再び次の戦場に向けて出発した。

 向かった地は愛姫達のいる中里……ではなく、その南。雪の降る中での行軍となったが、相馬軍は田村領を迂回して目的地である蘆名の前田沢城に到着した。


 到着したのは相馬だけではなかった。

 政宗の強引なやり方に危機感を覚えた南陸奥(むつ)の豪族である岩城(いわき)・石川・白河・二階堂家の当主も相馬義胤同様に前田沢城へ集結していたのである。


「やはり蘆名からは金上(かながみ)殿と猪苗代(いなわしろ)殿か」


 義胤は前田沢城の軍議部屋に入るや否や、集まっている各お家の諸将達を確認した。


 ――金上盛備(もりはる)

 金上家十五代目当主であり、蘆名四天のひとり。

 その卓越した政治手腕から『蘆名の執権』と呼ばれており、幼き蘆名の当主 亀王丸に代わり蘆名の家宰(かさい)(当主に変わって家を管理する人)を務めている人物。


 ――猪苗代盛国(もりくに)

 猪苗代家十二代目当主であり、同じく蘆名四天のひとり。

 蘆名家からは軍事面で大きく関わってきたが、蘆名盛隆(もりたか)が家臣に暗殺されてからは家宰気取りの金上盛備との仲はあまり良くない。今年に家督を嫡男の盛備(もりはる)に譲ったばかり。


「それに岩城殿、石川殿、白河殿、二階堂殿も。南陸奥の面々は皆呼ばれたわけじゃな」


 ――岩城常隆(つねたか)

 岩城家十七代目当主。

 と言ってもあくまで形上の当主であり、その実権は母親の実家である佐竹家が握っている。常隆の父である十六代目当主 岩城親隆(ちかたか)は家督を譲って以降、病のせいで影響力をほぼ失っていた。ちなみに、 岩城親隆の父親は伊達晴宗であるため、政宗とは従弟の関係。


 ――石川昭光(あきみつ)

 石川家二十五代目当主。

 実は、この漢も伊達晴宗の子供であり、 伊達輝宗や岩城親隆とは兄弟仲。そのため、政宗は甥っ子にあたる。


 ――白河義広(よしひろ)

 白河家十三代目当主。

 佐竹家現当主 佐竹義重(よししげ)の次男であり、天正七年(一五七九年)に白河義親(よしちか)の養子になった事から家督を継いだ経緯がある。父である義重から期待されているが、当の本人はめちゃくちゃビビっている。


 ――二階堂行親(ゆきちか)

 二階堂家八代目当主。

 兄である二階堂盛隆(もりたか)が蘆名の養子に行ってしまったため、当主不在の二階堂家を継いだ。兄の盛隆は一年前の天正十二年(一五八四年)に家臣によって暗殺されている。


「相馬義胤殿! 此度は父の急な無理難題をお聞きいただき感謝いたします!」

「ああ、気にするな。……それで、肝心な佐竹殿の姿が見えぬが」


「父はもうすぐ到着するかと」


 相馬軍が二本松城攻めから撤退した理由。

 それは政宗の指揮に従えなかった事もあるが、それ以前に佐竹家当主から招集がかかった事だった。


 義胤は二本松城攻めの最中、佐竹の使者よりとある書状を受け取っていたのだ。


「そうか。それと軍議の場で義重殿を〝父〟と呼ぶのは控えるのだぞ。また殴られる」

「ヒィ!」


 その言葉に白河義広は一瞬身体をビクつかせた。

 それは殴られる恐怖……からではなく、とある漢の登場を予感させたからであった。


「おーおー皆の衆早いではないか! デララララ、結構結構!」


 その野太く独特な笑い声に、部屋にいる七人は皆息を飲んだ。

 部屋に入って来たのは黒漆に染まった甲冑を着て、毛虫を模した前立を被った大男。一息吐く度に口から漏れる白い吐息は、どこか獲物に飢えた虎のような風格を魅せた。


「佐竹……義重……」


 ――佐竹義重。

 佐竹家十八代目当主であり、白河義広の父親であり、常陸国(ひたちのくに)を納める戦国大名。

 愛刀『八文字長義(はちもんじちょうぎ)』と呼ばれる大(なた)のような武器を使用する事から、戦場では〝黒鬼〟の異名が付けられるほど恐れられていた。


 また資金力や軍事力も豊富で領内に金山を所有している事から、関東一の鉄砲隊を所持しているとも言われている。

 更に家庭関係も特殊で、正妻は伊達晴宗の娘。つまりは伊達輝宗の妹ということであり、政宗とは甥と叔父の関係になる。


「殿のひと声は鶴のひと声。皆、我先にと集まった次第でございましょう」

「お前は……小野崎(おのざき)か」


 ――小野崎義昌(よしまさ)

 佐竹家の重臣。

 佐竹家十六代目当主 佐竹義篤(よしあつ)の子供であるため、義重の叔父にあたる存在。知性に長けており、義重にとって幼い時からの学問の師匠でもある。


「相馬殿、いたずらに呼びつけてしまい申し訳なかった。じゃが、その英断に殿はお喜びにござるぞ」

「いや、英断などとそんな大層な事ではない。どちらにせよ、今の伊達に二本松城は落とせぬとわかっていた。早かれ遅かれ退くつもりだった」


「伊達とは同盟の間柄では?」

「そんなもの一時的な和睦にすぎん。共に戦うのは構わんが、共に死ぬのはまっぴら御免ぞ」


「ハハハ、流石は相馬家の当主殿じゃ。時流を良く読んでおられる」


 この時、義胤は下唇を噛んだ。

 何が時流を読んでいるだ。義胤は小野崎義昌の誉め言葉に心底イラついていた。


 佐竹から義胤宛に送られてきた書状。

 そこには〝伊達の若造に灸を据える故、相馬も連合軍に加わってほしい〟と書かれていた。


 正面から見れば「伊達を倒すために手を貸してくれ」とお願いしているようにも見てとれる。

 だが、裏を返せば、加わらないなら相馬ごと滅ぼす。と、言っているようなもの。ひと言で言えば『脅し』だった。


 更に言えば、これは集団リンチ。いわば『イジメ』だった。

 政宗という伊達家の若芽をみんなで無理矢理もぎ取ってしまおう。と、言っているのだ。


 上向きな花芽(はなめ)は大きくなれば手が付けられなくなるため、巨大となる前に刈り取ってしまわなければならない。

 これは戦国の世では決して珍しい事ではなかった。おそらく、どの時代でもそうだろう。


 しかし、この相馬義胤という漢はそれが大嫌いだった。

 枝が大きくなるのであれば、自分も大きくなれば良い。覆いつくすように。そんな不器用で、ある意味で非効率的な漢だった。


 従妹の愛姫がいるとか、そんな人らしい思考ではない。

 単純に自分の獲物を。自分のテリトリーへ勝手に入って来たよそ者(佐竹)がウザったいだけ。獣のような思考だったのだ。


「デラララララ! 二本松城ごときも落とせんのでは、政宗の力量もたかがしれているがな!」

「……チッ」


 小野崎義昌との会話に義重が割り込んだ。

 政宗なんて大した事ない。と、名指しで言っているが、そこには「相馬も大した事ない」とメッセージが隠れていた。


 そのため、義胤は反射的に舌打ちが出てしまった。


「ひい、ふう、みい……。よーし、皆揃っておるな」


 義重は部屋にいる各諸将を数え、人数に納得すると、岩を落とすかのようにその巨体を床に降ろした。


「そんじゃ始めるかのう! 反伊達連合軍による伊達家殲滅作戦、別名『雪崩(なだれ)崩し』を!」

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