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忍び寄る影、反伊達連合軍③

 ●二本松城周辺●


「参ったわねぇ、こりゃ……」


 小十郎の説明通り。言葉そのままに、周辺は酷い濃霧に覆われていた。

 視界が確保出来るのは良くて数メートル。それ以上離れてしまうと対象物は濃い霧の中に飲み込まれていく。


 巨大な二本松城は濃霧のせいで外観すらも確認出来ない。

 これ以上の進軍は危険と判断したのか、小十郎から待機の指示が全部隊へ入った。


「確かに片倉殿が申す通り、面白い地にございますな。私もここまで濃い霧の掛かる土地は初めてです」

「ホントね。ただ、この濃霧がいつまでも晴れないなら別の意味でガチの激ヤバスポットだけどね」


「と言いますと?」

「乾燥はお肌の大敵だからね。ここにいれば常に保湿されそうだから、女子にとっては天国みたいな場所よ」


「ハハハ、面白い事を申しますな。では、ここを落としたのちは観光地として利用するのもアリですね。姫様が宣伝をすれば各地から人が集まりましょう」


 それはいくら何でも買い被り過ぎだが、観光地として利用するのは悪くないアイデアだ。

 特に、女子向けの観光地にすればバズる事間違いないと思う。あんまり言いたくないけど、この時代の女子は結構冷遇されてるからね。


 観光地なら大きなお風呂も欲しいよね。掘れないかなぁ温泉。

 掘れれば〝二本松温泉〟って名前でイイ感じなんだけど。


 でも、最悪阿武隈川から水を引っぱって、それを温めるのもアリかも。

 温泉じゃないけど……、まぁ何とかなるっしょ。


 宣伝はずんにやってもらおう。

 スマホがあればエスエヌエスでいくらでも宣伝出来るんだけど、この時代にはそれがないから兎に角口コミに限る。ずんが引き連れてる忍び衆なら数日もあればあっという間だろう。


 浴衣は勿論私がデザインした物を使ってもらって。

 そうすれば、ジャンクデビルの知名度も一気にウナギ登りに――。


「姫様、悪い顔をしていますぞ」


 私の妄想を断ち切ったのは左月だ。


「姫様がそのような顔をする時は、何か悪だくみを考えている時にござる。いったい何を考えていたのやら」

「し、失礼ね! 愛姫隊を今後どう拡大していったらいいか考えてただけよ!」


「……それなら良いのですが」


 嘘は言っていない。

 愛姫隊の給料は私のポケットマネーから払っている。部隊を拡大したいなら、それに比例して財布も拡大しないといけないのは事実。それを現実にするのは、私の作った商品をもっと売るしか手はないのだ。


 だけど、その前にまずは二本松城を陥落させ、大殿の敵を取る事が先だ。中にいるヤツラにも必ず同じ苦しみを味合わせてやる。


「だけどよ姉御、本当にあの天海って奴は信用出来るか?」


 左月の横から話しかけてきたのは豚丸だ。

 どうやら、新しく仲間になった天海を警戒しているようだ。


「どうして?」

「いや……理由が上手く出てこないんだが、なんかヤツからは独特な空気を感じるんだ。なんつーか冷たいんだ。まるで周りを凍り付かせるような、人間が放っちゃいけねぇ空気をあの坊主からは感じるんだよ」


 豚丸も天海の異様さを感じ取っているようだ。

 最初天海を見た時感じたあの悪寒。暖かそうな顔の奥に潜んだ冷徹な何かを私も感じた。


 あの顔のキズが物語っているように、天海は私達には言えない深い闇を抱えている。

 それが本能寺の変で起きた悲劇によるものだったのなら理由になるが、私はそう思えない。


 もっと深く、根深い感情に思える。

 何故なら。天海から伝わる冷たさはどこか〝私〟に似ている所があるからだ。


「少なくともアンタよりは信用出来るんじゃない? 僧とチンピラじゃ月とスッポンでしょ」

「う……」


「冗談よ。わかってる、仮に使えないなら途中で抜けてもらう予定よ。和尚には悪いけどね」

「姉御がそのつもりなら、俺からは文句ねーよ」


「でも、もしも天海が悪魔だったとしても使えるなら使うわ。それで愛姫隊が強くなるなら、私は悪魔の力でも借りるつもりよ」

「悪魔も可哀そうだな。姉御に目を付けられちゃ返ってくるモノも返してくれなそうだ」


 当然だ。貰って良かったモノを返すなんて、私の辞書には書いていないからね。そもそも貰ったのに返す義理もないけど。

 そんな話をしていると、私達が話している間に周りを調べていた天海が戻ってきた。


 そして、私達の前に両手を広げた。


「……何これ?」

「何だと思いますか?」


「土……でしょ」

「はい、土にございます」


 土がなんだっていうんだ。

 そう思っていると、左月が天海の持って来た土に反応する。


「天海殿、このふたつの土がどうかしたのですかな」

「ふたつの土? 土は土でしょ?」


 天海の両手に持っているモノは土だ。それは誰が見ても、絶対的に覆らない事実だ。

 砂じゃない。茶色い土だ。


 しかし、左月はふたつの土とあえて分けるように呼んだ。


「失礼ですが、左月殿は農民の出に?」

「いや……そうではないが。儂は土いじり趣味での、山から野草などを詰んでは自分の屋敷内に移植しては楽しんでおるのよ。自分の屋敷で育てればわざわざ取りに行かなくてよくなるからのう」


「なるほど。それ故でしたか」


 どういう事だろう。

 私はふたりに説明を求めた。


「肥えた土と痩せた土?」

「はい。こっちが肥えた方。そして、こっちが痩せた方です」


「……ぜ、全然わかんない」


 私にはどっちも同じ土にしか見えない。

 強いて言えば、片方の土は黒に近い茶色の土って事ぐらいだ。


「良い着眼点です。次は両方の土を触ってみてください」


 私は土に触れた事で、このふたつの土が全くの別物だとようやく気付かされる事となる。

 ひとつは弾力があり、とても固い。砕くにも結構力を入れないとダメだった。


 それに比べ、もうひとつの土はとてもサラサラしている。

 砂ってほどではないが、団粒になっていて固まっている部分も少しの力で崩れてしまった。


「へー、触らないとわからない事もあるのね」

「どちらが肥えた土であるか、姫様にはもう理解出来たと思います」


 これは、例えるならマットレスだ。

 ゴワゴワのカッチカチ。安物のマットレスは痩せた土のように固い。


 それに対し、この柔らかい土は高級マットレス。

 反発性の素材が優しく身体を包んでくれる。こんな柔らかい土なら寝そべっても気持ち良さそうだ。


 ……で?

 だから何? って感じだ。


 この世には大量の土がある。私達が立っている場所も下に草はあるが、その下は土なのだ。

 柔らかい土もあれば、固い土もあるのは当たり前。それが何だっていうんだろう。


「豚丸殿、足元に生えている草を抜いてみてくれませんか?」

「お、俺か?」


 豚丸は足元に生えている草を引っこ抜いた。

 抜いた草の根本からはボロボロと土が崩れ、白く細い根っこが剥き出しになっている。


「おお!」


 これに驚きの反応をしたのは左月だった。

 左月は豚丸の引っこ抜いた草から落ちた土を念入り触り、何かを確認するかのように指で擦り合わせた。


「ば、ばかな……」


 見た感じ、草から落ちた土は柔らかい方の土のようだ。

 そのため、天海の持って来た土のひとつはここの土という事になる。


「爺、何をそんなに驚いてんのよ」

「これを見て驚かないでいられますか!」

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