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忍び寄る影、反伊達連合軍②

「フフフ」


 皆が肝を冷やしている中、ひとり笑っているのは天海だった。


「……あん?」


 小十郎の制止を振り払い、政宗は天海に近づいた。


「伊達の本陣とは随分と賑やかな所なのですね」

「……キサマ何者じゃ?」


「失礼。私の名は天海。此度の戦から愛姫隊の参謀の任を頂いた、ただの坊主です」

「坊主……じゃと」


 政宗は更に天海に近づいた。

 距離なんてものは最早ない。ゼロ距離。それぐらい、政宗と天海の位置は近い。


「坊主とは元来(がんらい)頭を丸めるもんじゃろ」

「たしかに多くの僧は剃髪(ていはつ)が基本となっております。剃髪とは煩悩を取り払う儀式のひとつ。ですが、私にはその必要がありません」


「何を言うかと思えば。フッ、笑わすでない。髪の生えた坊主なんぞ見た事がないわ」

浄土真宗(じょうどしんしゅう)の僧は髪を剃らなくても良いのですよ、政宗様」


「ほう。では、お前は浄土真宗の僧なんじゃな?」

「いえ、違いますが」


「なあ⁉」


 あの政宗が遊ばれている。

 天海ってば中々やるじゃん。


「ふざけおって!」


 政宗は怒りに任せて天海の胸ぐらを掴んだ。

 またアイツ先に手を出して……。天海ヤッちゃえ。その馬鹿殴り返しちゃえ。


「ふざけてはおりません。私の名は天海、名前の通り仏と人の架け橋を務める僧であれば」

「か、架け橋じゃと……?」


「はい。私の名の天海でありますが、天とは仏の事であり――――」


 胸ぐらを掴まれた状態にも関わらず、天海は自分の名前に込められた意味をいちから政宗に説明している。

 政宗の顔が段々と引きつってきた。流石に限界だったのか、政宗は掴んでいた胸ぐらを放し、天海を遠ざけた。


「ご理解いただけたのでしょうや?」

「フン。僧の小言なんぞ聞き飽きておるのよ。資福寺でもあるまいし、嫌な事を思い出させるな!」


「一応私は虎哉和尚の推薦でもあります」

「な、何じゃと⁉」


 天海の言っている事が本当なのか、政宗は私に返答を求めた。

 そこは「まあね」の一言で済ませておく。


「和尚め、余計な事を……。愛も愛じゃ、何故そんなヤツを参謀に許可した? まずは儂を通すのが筋であろう」

「私だって半強制だったのよ。それに何でアンタの許可が必要なのよ。愛姫隊は私の隊、誰を入隊させようが私の勝手でしょ。給料だって私のポケットマネーから出してんだから文句言われる筋合いないわ」


「お前……愛姫隊に武具を提供しているのは儂だという事を忘れておるな。儂はな、どこぞの馬の骨かもわからんヤツを『勝手に入隊させるな』と言っとるんじゃ。もし、その坊主が敵の間者だった場合どうするんじゃ」

「敵のスパイだってわかったら、馬の骨どころか粉々の軟骨にしてやるわよ。そんでアンタの飯にこっそり混ぜといてあげる。嬉しいでしょ? 手料理、アンタ前食べたいって言ってたもんね。証拠も消せて一石二鳥じゃん、ニヒヒ」


「ちょこちょこ異国語を混ぜるな、阿呆が。誰がキサマの手料理なんぞ。どうせ出るのは悪臭漂う汚物であろう。まぁせっかく作るなら有効活用はしてやる。外に置いといてやろう。そうすれば夏に湧き出る害虫も寄り付かんて」


「んだとコラ!」

「何じゃヤル気か!」


 人の料理を蚊取り線香みたいに言いやがって。食った事もないくせに、コイツ許せねぇ。


「だーかーらー、やめいと言っとるじゃろ」


 またしても相馬義胤が私を止めた。

 政宗も小十郎に引っ張られ、奥の椅子に無理矢理座らせられた。


「片倉小十郎、さっさと軍議を始めよ。これではいつまで経っても話が進まんわ」

「そうですね」


 私と政宗がお互い睨み合っている中、二本松城攻略の軍議が始まった。

 まずは、小十郎による現在の二本松城周辺の絵図と部隊の配置が説明され、ここ数日間の戦況が報告された。


 現状はこうだ。

 二本松城を取り囲んだ伊達軍は畠山義継の遺児 国王丸に降伏するよう使者を送った。


 しかし、国王丸の籠る二本松城内の畠山家臣達はそれを拒否した。

 そのため、二本松城を取り囲んで二日目の朝から城攻めが始まったのだが……。


「霧?」


 伊達軍は二本松城を取り囲んでいるのにも関わらず、未だに城門すら突破出来ないのには理由があった。

 その原因は霧だ。二本松城は別名 霞ヶ城(かすみがじょう)と呼ばれるだけあって、周りでは濃霧がよく発生していた。

 

 それだけだったら濃霧が晴れ次第攻略すれば問題はない。

 だが、二本松城が奥羽の中でも鉄壁の要塞と呼ばれているには、その霧がとても厄介な存在となっていた。


「晴れない霧? どゆこと?」

「儂の方が聞きたいところじゃ。晴れない霧なんぞ聞いた事もないのう」


 本来であれば霧は温度の上がる午前中には消えて無くなるのが一般的だ。

 だが、二本松城を取り囲む濃霧は別物。午後になってもその濃霧は晴れる事がない、と小十郎は説明した。


 強引に進めば城から放たれる矢と鉄砲の餌食になる。

 そのため、伊達軍はうかつに城攻めをする事が出来ず、ここ数日足踏みが続いていた。


「きっとここは霧の晴れぬ特殊な地なのじゃろ。じゃから儂は兵糧攻めに切り替えるべきと申しておるんじゃが、お前んとこの大将は頑固でのう。力攻め力攻めってうるさいんじゃ」

「コラ義胤! 誰がうるさいじゃ、誰が!」


 なるほど、晴れない霧ねぇ。

 私も聞いた事がないけど、そんな事実際にありえるのだろうか。


 私は隣にいる天海へ聞いてみる事にした。


「私も初耳です。何かカラクリがあるのか。それとも忍びによる幻術なのか。一度現場に行ってみとうございます」


 その日の軍議では現状報告などがほとんどで、特に目立った事は説明されなかった。

 私達愛姫隊は本陣で補給を済ませると、次の日の早朝に後詰め部隊として二本松城へ向け出発した。

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