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魔法がダメなら魔力を使え




「……今、なんて言った?」


「君は魔法を使うことができない」


「……」


 それは、ラグナがウィズの弟子になった翌日のこと。魔法について教わっている最中の出来事だ。


 ――ラグナは魔法を使うことができない。


 いきなり、なんでもないことかのようにあっさりと残酷な事実を告げられ、ラグナは唖然とするしかない。


「属性については先ほど説明したから理解している前提で話すが、魔法にも魔力と同様に属性が存在する。魔法を使うにはそれに対応した属性の魔力を消費する必要があるんだが、君の魔力には属性というものが存在しない。そこら辺の空気中に漂っている魔力と全く同じ、属性を持たない魔力なんだ。属性のない魔法は存在しない、ゆえに君は魔法を使えない」


「……なんで、そんなことがわかるんだよ」


「瀕死の君を治したときにな、こっそり調べさせてもらった」


「で、でも、俺はちゃんと、魔道具の魔法を使えたぞ?」


「魔道具で使える魔法は、正確には『魔術』と呼ばれるものだ。魔法のようで魔法ではない」


「魔術……?」


 聞き覚えのない言葉だ。ラグナが魔道具を奪った三人組も、会話の中では魔法と言っていた。魔術という言葉は一切出ていない。


「知らなくて当然だ。魔術は魔法の誕生により衰退し、今では使う者はほとんどいないからな。そのため、必然的に魔道具を作る者もいなくなり、魔道具は希少な存在に成り果てた」


「……その魔術ってやつは俺にも使えるのか?」


「使い方を覚えることができればもちろん使える」


「なら――」


「だが、おすすめしない」


「……なんでだ?」


「覚えることが多い上に、実戦では使い物にならないからだ」


 見ていろ、とウィズは結界の外にある木に手のひらを向け、


「〈ウインドカッター〉」


 そこから風の刃が放たれ、木を横に一刀両断した。


「今使ったのは〈ウインドカッター〉という風の魔法だ、本来は名称を言わずとも発動できる。そして、これと同様のものを今から魔術で行う」


 そして再び、手のひらを木へと向け、


「『風よ、切り裂く力を我が手に。〈ウインドカッター〉』


 綺麗な断面で真っ二つに切り裂かれ、先ほどと同様の結果をもたらした。


「――と、このように、魔法は頭で想像するだけでいいのに対し、魔術には『詠唱』というものが必要になる。詠唱とそれに必要な魔力さえ持っていれば、魔力の属性に関係なく魔術は誰にでも使用可能だが、魔獣や人と戦っている時にこんなに呑気に詠唱なんてしていたらその隙にお陀仏だ。今の魔術は低級魔術だったから短く済んだが、もっと強力なものを使おうとすれば短くても数分はかかる。中には詠唱文が長すぎて数日かかるものもあるぞ」


「そ、そんなに!?」


「ああ。まあ、その分強力だがな。……これでわかったろう? 私が魔術をおすすめしないワケが」


「わかったけど……俺が魔道具を使ったときは詠唱? なんてしてないぞ」


「魔道具とは魔術を使用する際の詠唱という工程を短縮するために作られたものでな。魔道具には魔術に必要な詠唱文が文字で刻まれていて、それに魔力を流せば詠唱の必要なく魔術が発動するようになっている」


「それならずっと魔道具を持ち歩いていれば……」


「と、思うだろう? だが、一つの物に複数の詠唱文を刻み込むことはできないため、魔道具で魔術をいくつも使おうとすれば、その分持ち歩く魔道具の数が増え、管理が面倒になるんだ。そして、魔道具は基本的に何度か使用すれば壊れる消耗品であるため、壊れたらその都度新しく作らなければならない」


 言われてみれば確かに、ラグナを森に転移させた魔道具も一度使っただけで破損していた。


「魔術って面倒くさいんだな……」


「そう、面倒くさいんだ。だがまあ、魔力の属性に関係なく誰にでも使えるという大きな利点があるからあまり馬鹿にもできないがな」


「それでも魔術ってのはおすすめできないんだろ? ……俺は魔法を使えないし、魔術もダメ。なら、あんたは何で俺を弟子にしようと思ったんだ?」


 ウィズは自らを『世界最強の魔法使い』と名乗った。ならば普通、魔法を使える人間を弟子にするものなのではないだろうか。


「……一度言ったと思うが、弟子には私を超えてほしいんだ。だが、魔法使いという一点においては、今後私を超える者は現れないだろう」


 自信満々に言い切ったウィズ。ラグナはあきれたような視線を送るが、ウィズはそれをものともせずに話を続ける。


「だからこその君だ、私より魔力量が多い君ならば、私を超えられるのではないかと思ったんだ」


「……でも、魔力が多くても魔法が使えないなら意味ないんじゃ……」


「そうでもないぞ、見ていろ」


 そう言うと、ウィズは少し離れた場所に魔法で岩の壁を生成。そこに向けた手のひらから白い球状のオーラが飛び出し、たちどころに岩の壁を粉砕した。


「このように、ただの魔力の塊でも岩を破壊することくらい造作もない。ほかにも、魔力を身に纏えば鎧にもなるし、空を飛ぶことだってできる」


「す、すげぇ……。もうほとんど魔法みたいなもんじゃねぇか」


「ただの魔力も使いよう、ということだ」


「でも、そんなもんであんたを超えられるのか……?」


「正直に言うと、わからない」


「はぁ?」


「過去に魔力の操作のみを極めようとした人は誰一人としていないんだ、だから、わからない。だが逆に考えてみろ、わからないからこそ可能性は無限大だとな」


「可能性は無限大……」


「それに、根拠もある。魔法や魔術は使いこなせれば確かに強力、しかしそのどちらも発動するのに最も必要なものは魔力だ。だから、魔力を使いこなせるようになれば、魔法や魔術にも劣らない力になるのが道理だろう」


「……そう言われれば、確かに」


「だから、君には魔力の操作を極めてもらう。そしていつかは私を超えて、『世界最強の魔力使い』になってくれ」


「……まあ、やれるだけやってみるよ」


「ラグナにならできると信じているぞ」


「信頼が重い……」


 そうして、ウィズと離れ離れになるまでの五年間、ラグナはただひたすらに魔力の操作を磨き続けた。




    ##  ##  ##




「魔法が使えないってお前さん……」


「悪いな、あんたの要望に応えられなくて」


「……いや、こっちが無理を言ってる自覚があるからそれは別に構わないが……」


 予想外といった面持ちのギルドマスター。

 世界最強の魔法使いの弟子(未確定)が魔法を使えないなど、夢にも思わなかったのだろう。


「……魔法が使えないって、あの子供……『頂の魔法使い』の弟子を語った偽物なんじゃねぇか?」

「だが……ただの魔力だけでギルドマスターに善戦するあの技量は確かなものだ」

「わからない……どっちなんだ?」


 ラグナが魔法を使えないと知り、観客から疑いの声が上がる。

 完全にラグナを偽物だと思っている者と、どちらかわからないといった者が半々。


「……ま、そりゃ疑うよな。ウィズの弟子が魔法を使えないなんて、普通は考えつかないことだろうし」


「……言わない方がよかったんじゃないか?」


「言わなくてもそのうち気付くだろ。これは俺がウィズの弟子であることを証明するための試合、一番の証明材料である魔法を俺が使わない理由なんてないんだからな」


「それはそうだが……」


「だからまあ……当初の予定通り実力で示させてもらう」


「――ッッ!?」


 瞬間、ギルドマスターを取り囲む形で、複数の〈魔力弾〉を同時生成。

 弾と弾の間には子供が通り抜けられるほどの隙間もない。


「いつの間にこんなものを……!」


「さっきあんたを〈魔力弾〉で追い回している間にこっそりな、俺の射程範囲内を魔力で満たしておいた。それをあんたの周りに集中させただけだ」


「いやいや、だけって……簡単そうに言ってくれるが、体外に出した魔力を操れる距離は普通一メートルもねぇぞ……。それを、十メートル以上も離れた俺の周囲にこんな精密に……。さっきの追尾弾といい、とんでもねぇな」


 もちろん、ラグナも初めからこんなことができたわけではない。ギルドマスターの言う通り、ラグナの射程範囲も初めは一メートル未満だった。

 それが、魔力の操作を必死になって磨いているうちに意図せずどんどん伸びていき、今に至る。

 五年間、魔力の操作に特化して鍛えた結果の副作用。それがこのラグナの異常な射程範囲の正体だ。


「俺は今から一分間、あんたに向けて全方位から秒間百発の〈魔力弾〉を撃ち込む。……果たして、あんたの〈身体強化〉で捌ききれるかな?」


「……おもしろい、受けて立と――」


「いやいや……ストップ! ストーップ!」


「「……あ?」」


 突如、二人の間に割って入る影が一つ。受付嬢のオカリナだ。


「おいおいなんだ、これからって時に」


「なんだじゃないですよ! 何普通に受けて立とうとしてるんですか! そんなの食らったらいくらギルマスでも死にますよ!? この試合はギルマスの負けです! 降参! 審判の私がそう決定したのでこれは決定です!」


「待て待て、勝手に決めるな――」


「うるさい!」


「うるさい!?」


「ギルマスが倒れた時、誰が代わりにその仕事をすると思っているんですか!」


「そ、それは……」


 受付嬢の勢いに押され、ギルドマスターは意気消沈。それを見たラグナは試合の終わりを悟り、〈魔力弾〉を収めた。


「それに……右手の義手、さっきから不調ですよね?」


「……なんだ、バレてたか」


「無茶はしないようにと言ったはずですよ」


「悪かったよ……」


「わかればいいです」


 シュンと縮こまるギルドマスター。背は受付嬢よりも高いはずだが、心なしか小さく見える。まるで、親に叱られる子供のようだ。


「……そういうわけでラグナさん、この試合はあなたの勝ちです。すみません、こんな茶番に付き合わせてしまって」


「……茶番?」


「はい。ラグナさんのことはウィズさんからよく聞いていますから、あなたがラグナさんだということは初めから疑っていません。ギルマスは強い人と会ったら戦いたくなってしまう病気なので、難癖をつけてあなたに戦いを挑んだんですよ」


「ええ……」


「病気て……」


 本当に茶番じゃねぇか……と、ラグナは一気に気が抜ける。

 ウィズ以外の人間との戦闘は経験できたためまったくの無駄というわけではなかったが、なんだか釈然としない。





「……まあ、冒険者になれるならなんでもいいか」

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