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第三十四話 SAMURAI

※ここから数話、ヒカルの過去編となります。

–1990年代、ブラジル・パラナ州


「いいかヒカルド、殺すなよ?」


「他に言うことは?」


「ねえよ!どうせ勝つんだろオマエは」


 地下の非合法な格闘場、リングもロープも金網(ケージ)も無い質素な試合場で闘う男が二人。片や黒人の中年男性、片や黄色人種の少年。少年の名はヒカルド・マエダ・シウバ。後に巳の干支乱勢・ヒカルとなる男である。


「ほらよ、オマエの取り分だ」


 闘技場の支配人は、くしゃくしゃの紙幣を裸のままヒカルドの座る席のテーブルに置いた。


「……少ねえな。分割払いってやつか?」


「アホ!それで全額だ。オマエが強すぎてもう賭けが成立しなくなってきてんだよ。文句があるなら八百長(フェイク)でもするんだな」


「それだけは死んでも嫌だね。俺ァ馬鹿で貧乏でも、自分の強さにだけは嘘をつきたくねえんだ」


 彼の家は、戦後まもなく日本からブラジルに移民した曾祖父の代から貧しいままだった。爺さんからは、マエダ家は前田利家だか利久だか立派なサムライの流れを汲む血筋だのと聞かされてきたが、日本ジャパオなんて国には行ったこともない自分にはどうでもいい話でしかなかった。


「もうギャングか金荒らし(ガリンペイロ) でもやるしかねえのかな……」


 金も、学も、地位も無い日系人のガキであるヒカルドが唯一持っていたのは、喧嘩の才能だけだった。爺さんから習った古流柔術と、見様見真似で覚えた我流のカポエイラ。それだけでバーリ・トゥード(何でもあり)の賭け試合で最強にまで上り詰めたのも彼が格闘の天才であったからに他ならない。


「おいヒカルド、大変だ!」


 部屋に飛び込んできたのは悪友のペドロ。


「どうしたペドロ。金なら貸さねえぞ。何なら俺も持ってねえからな」


  と、先ほど貰った雀の涙ほどのファイトマネーをポケットに仕舞うヒカルド。


「オマエこの間、街で喧嘩売ってきた白人をボコボコにしただろ?あいつ、実は……」


「何だ? ギャングのドンの息子が何かだったか?」


 すると、ペドロの後ろから身なりのいい坊主頭の男が現れた。


「いや違う。君がボコボコにしたのは、私の弟子だ」


「あ、あんたは…セニョール・ニクソン!?」


 男の名はニクソン・プレマシー。ブラジリアン柔術の名門プレマシー一族最強の男にして、600戦無敗の神話を持つ格闘家であった。



–サンパウロ・プレマシーJiu-Jitsuアカデミー


 ニクソンの弟・ロイスが米国の格闘技トーナメントを制して以来、ブラジリアン柔術とプレマシー一族の名は世界中に轟き、ここサンパウロの道場(アカデミー) も門を叩く者が殺到する有様となっていた。


「ヒカルド君、どうだね我がアカデミーは」


 ニクソンに通された館長室からは、練習場が一望出来た。マットの上で寝技の練習をする者、金網の中で試合さながらのスパーリングをする者、最新のマシンで筋トレに励む者、その数は100人以上、全てプレマシー柔術アカデミーの門下生である。


「セニョール、何でオレをここへ?」


 ニクソンはヒカルドの問いに対し、ニコリと微笑むとアイスコーヒーを差し出す。


「……オブリガート」


 ヒカルドは受け取ったコーヒーを一口啜る。安物のコーヒーなどとは比べものにならないほど芳醇で美味い。


「君に喧嘩をふっかけて返り討ちにされた男は、当アカデミー門下生でも指折りの実力者でね。私から黒帯を認可された数少ない男だ。彼の実力は私が保証する……つまり、彼に勝った君の実力も認めねばならない」


 ニクソンの手には白い柔術帯が、いつの間にか握られていた。


「ヒカルド、我々は強い者を欲している。強ければ、国籍も人種も出自も学歴も問わない。我が元で柔術を学ぶ気は無いかね?」


 要するに、ニクソンはヒカルドの強さを見込み、スカウトしようというのだ。 アカデミーに住み込みで働きながら、通常ならクソ高い会費を取られる柔術の稽古もニクソン自ら付けてくれるというのだとか。


「お引き受けします、セニョール・プレマシー」


 ヒカルドは差し出された帯を掴む。


「“セニョール”じゃないだろ?」


「Si.師匠メストレ!」


「よろしい。君が私の教えを受け、その帯が黒になった時、きっと格闘技界の景色は変わっているだろう!」

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