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第三十三話 風になれ

「リコ!おい、リコ!!」


 リングに倒れたリコの傍らに膝を着き、テルは必死に呼び掛ける。


「ハハ……ごめんな、テル……決勝で戦う約束は守れなかった」


 リコは目元を覆う覆面を外し、素顔を晒す。そして、マスクマンにとって命とも言えるそれをテルに握らせた。


「ヒカルは強いぞ……勝てよ、アミーゴ」


 そう言い残すと、リコの体は光に包まれた。


「リコ……」


 テルが呼び掛けた先にいたのは、小さなヒヨコが一羽。


「おうおう、それもプロレス流の演出かぁ?」


 テルの背後からヒカルは言う。


「甘っちょろい友情ごっこなんかしてんじゃねえぞ?弱い奴が負けて強い者が勝つ!それだけだろうが」


 テルは立ち上がり、ヒカルの方を向き直ると、右手に掴んでいたリコのマスクを握りしめながらヒカルを睨む。


「お待ち!」


 テルとヒカルの間に一振りの扇子が割って入る。 それは巳国女王ロダーク・イルコ82世の手に握られたものだった。


「子国の干支乱勢よ、この仕合は巳国と酉国の戦いじゃ。そなたがリングに上がるべき時はまだ先。ヒカルとの決勝じゃろう」


 そして女王はリングサイドにいる酉国の鳥人達に視線を移す。


「そして酉国の!さっさと負けた干支乱勢を下がらせぬか!!早ようせぬと、そのヒヨコともども喰ろうてやるぞ!?」


 鋭い歯の並んだ大きな口を開けて吠えると、酉国の大統領ササミと国務大臣ボンジーリは慌ててリングへ上がり、ヒヨコとなったリコを連れて行く。


「相変わらず荒々しいのう、イルコ女王よ」


 そう言いながらリングへ上がったのは子国長老ウスマ。


「誰かと思えば未だに大武繪を制した事の無い唯一の国、子の長老ではないか。汝らが決勝に残っただけでも奇跡じゃろう。決勝で無様を晒す前に棄権を申し出に来たかえ?」


 女王イルコは邪悪な笑みを浮かべながら言うが、

ウスマは毅然と返す。


「逆じゃよ。優勝するのはテルじゃ。そして次期パントドンの覇者となるは我々子国である!それを前もって宣言しに来たんじゃわい!!」


「妾は笑えぬ冗談は好かんぞ?ネズミの!」


 イルコとウスマ、ヒカルとテルは睨み合う。


『はーい4人ともそこまでー!』


『干支乱勢大武繪決勝戦は、これより1時間後に行います!選手達はそれぞれ別室へ。観客の皆様は試合開始まで休憩を取られてください!』





─子国控室


「テルよ」


「何だ?じじい」


 決勝を控え、ストレッチをしながら精神統一するテルにウスマは話し掛ける。


「ワシら子の民はな、それはもう弱い存在なんじゃ。モンスターにも、他国の獣人達にも怯え、逃げながら暮らしてきた」


「だろうな。俺のいた世界でもネズミやリスは小さくて弱い生き物だったよ。……だけど、アンタは

さっきリングの上でワニババアに対して怯まず喧嘩を売れたじゃねえか」


「それはな、お前さんの闘いぶりに勇気をもらったんじゃよ」


「勇気……か」


 テルはふと、在りし日の記憶を思い出した。アメリカで悪役レスラー、ケンドー・ホシノとしてインディー団体を巡る日々の中、一人の少年に声を掛けられた時の事を。

 あまり英語の得意ではない星野だったが、7、8歳ほどのひ弱そうな白人の少年はこう言ったのだ。


「ボクは異国の地で独り戦うケンドー・ホシノのファイトに勇気をもらったんだ。あなたみたいに強くなって、いじめっ子達を見返してやりたいんだ。だからサインをおくれよ!」


 星野は彼の着ていたTシャツにサインをしたためた。


「あー、ボーイ、ワッチャネイム?」


「I'm Johnathan!!」


「ジョナサンか……よし、じゃあジョニーだな!」


 この時、星野にサインと勇気をもらった少年こそが、後に星野の弟子となるジョニー・オズマその人である事を当時の星野はまだ知らなかった。


「じじい、俺のいた世界には“窮鼠猫を噛む”って諺がある。 ネズミは決して弱いだけじゃねえ。時には猫にも蛇にも勝てるってところを見せてやろうぜ!!」

「うむ!」


 テルとウスマは互いの手を握る。


「長老様、テルさん、そろそろ時間ですよ」


 長老の側近モルモが二人に声を掛ける。


「よっしゃ! いっちょ優勝してくるか!!!」


 テル、ウスマ、モルモの三人は控え室を出ると、決勝の舞台へと向かった。


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