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第2節:制度改革の挫折とアダソン夫妻の暗殺

しかし、完成しなかった。

 制度がまだ設計途中だったその時期に、小規模子会社の社長であったエリック・サーティーンが、アダソン夫妻を暗殺したのである。

その瞬間、サイバーサイジング社は経営者を二人失っただけではなかった。これまで会社を支えてきた旧来の仕組みと、これから会社を支えるはずだった新しい仕組みを、同時に失った。

夫妻という「人」を中心に動いていた旧体制は、二人の死によって突然消滅した。一方、その人間依存から脱却するために準備されていた新しい企業統治制度は、まだ完成していなかった。

 マックとジェイムズは、その空白の真ん中へ取り残された。両親から正式にすべてを引き継ぐ日は、まだ来ていなかった。兄弟を支え、同時に兄弟の暴走を止めるはずだった新制度も存在しない。世界百二十五か国に散らばる支社や資産、政府契約、軍事・金融・医療・通信システムを、誰がどの権限によって統括するのかさえ曖昧になった。

人による経営は、アダソン夫妻の死によって終わった。しかし、制度による経営はまだ始まっていなかった。

そのわずかな空白へ、百二十五か国分の混乱が一気に流れ込んだのである。

そして皮肉にも、この崩壊を引き起こしたエリックは、自分が何を壊したのかを正しく理解していなかった。米軍出身の彼にとって、明確な指揮系統や制度によらず、一組の夫妻への信頼によって世界規模の企業が動いている姿は異常に見えていた。社員たちが夫妻を信頼し、各国の責任者が二人の判断へ従い、政府や軍、大企業までもがその言葉へ耳を傾ける光景を、彼は次第に「企業」ではなく「個人崇拝」として見るようになった。

 そしてついには、サイバーサイジング社をアダソン夫妻という象徴を崇拝する宗教組織だと思い込み、「象徴である二人さえ消せば、世界は目を覚ます」という歪んだ結論へ到達してしまった。

 だが実際には、アダソン夫妻自身こそ、自分たちへの依存を終わらせようとしていた。エリックが否定した制度は、まさに彼が問題視していた個人依存を解消するためのものだったのである。

そして彼は、その制度が完成する直前に夫妻を殺した。結果としてエリックは、サイバーサイジング社を個人依存から救ったのではない。個人依存から制度統治へ移るための橋を、渡り切る直前で破壊してしまったのである。

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