↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
映画『Type-Σ Life Support Unit -マック・アダソン定期総合生命維持施術-』  作者: マック アダソン
第6章:現在 ——レマン湖畔の本社とマックの生命維持統括室
PR
17/26

第2節:BMLST(生体機械生命維持管理技師)と出撃の準備

そのころ生命維持統括室の外にある管制室には、八人の専門技術者が集まっていた。

 表向き、彼女たちが所属しているのは、AGB PharmaTechが世界に誇る最高峰の救命救助機構「国際総合新鋭救命救助部隊(IALRT / アイアラート)」である。 重篤な患者の生体管理や世界中の病院の集中治療室(ICU)運営にとどまらず、AGB PharmaTechが展開する国際支援事業において、南極観測基地や永久凍土に覆われた極寒の雪原、吹雪吹き荒れる極地環境での救助活動、戦争地域での銃撃・爆発による外傷治療、テロや事故現場における不発弾・IED(即席爆発装置)の危険が残る中での救出活動、化学プラント事故や危険物・有害物質流出区域での化学災害対応、高濃度放射能汚染地域での被ばく者救護、致死性の高い感染症が蔓延する隔離地域での封じ込め医療、大地震・大津波・火山噴火による壊滅的な被災地でのトリアージと救命、高水圧がかかる深海の海底プラント事故、さらには月面都市の閉ざされた居住ドームや宇宙環境での生命維持システムの保守など、通常の人間が生存できないあらゆる死地へ赴き、被災者や傷病者の命を支えるために制度化された専門資格および部隊だった。

 アイアラートの隊員(IALRT)は、単なる医療従事者や機械技術者、危険区域作業員ではない。人体、生理、呼吸、循環、医療機器工学、集中治療、外傷救急、薬理・輸液管理、感染管理、バイオハザード、極限環境作業、防護服、安全管理に加え、爆発物・危険物に関する基礎知識、化学物質の物理的・化学的特性、危険物処理班との連携手順、さらには極低温物理学や極寒地における生体凍結防止・機材凍結対策のすべてを横断して扱わなければならない。 そのため資格取得は難関を極め、AGB PharmaTechの教育事業の一環として世界各地に専用の養成学校や認定大学課程が設置されていたが、その入学試験からして極めて高い倍率を誇り、選ばれた者しか門をくぐることはできなかった。入学後も、教官の容赦ない怒号が飛び交う訓練室で、極限のプレッシャーと過酷な課題に追い詰められる毎日は、精神的にも肉体的にも耐え抜く者がごく一部しかいないほどあまりに厳しすぎるものだった。

 そして、その過酷な養成学校をどうにか生き抜いた学生たちが、正式なアイアラートの資格を手にするために受ける最終試験が待ち受けている。 筆記試験では人体・生体医学、医療機器工学、災害救急医学、極限環境生命維持学、薬理・輸液管理、感染管理、AGB Biohazard Maintenance Suit、安全管理、法規と倫理、ヒューマンファクターに加え、極低温環境における生命維持と機材運用、南極基地や極寒地帯でのサバイバル医療と装備管理、戦争地域における防護下でのトリアージ戦術、爆発物・危険物処理に関する安全法規と識別知識、化学物質・有害廃棄物の漏洩時対応、放射能・化学汚染地域での除染と被ばく医療、感染症流行地でのバイオセーフティ手順、大地震・津波・火山噴火等の大規模災害時におけるライフライン途絶状態でのサバイバル医療、深海や月面環境などの特殊圧力・重力下における生命維持システム運用までが幅広い領域から出題される。

 その後にはシミュレーション試験がある。南極の猛吹雪による通信途絶と極寒地での電源喪失、氷点下の屋外での野戦医療とバッテリー凍結への対応、戦争地域での砲撃による電源・通信喪失と多重外傷者の同時発生、救助現場に仕掛けられた爆発物の存在や危険物容器の破損警報、引火性ガスが充満するプラント内での負傷者搬送、放射能汚染区域での防護服破損と被ばく警告、感染症隔離エリアでの化学物質漏洩、火山噴火による降灰と有毒ガス流入の中での人工呼吸器異常などが複数同時に発生し、受験者がパニックに陥ることなく、何を優先し、誰へ報告し、極限状態にある被災者や傷病者をどう搬送し、チームの仕事をどう分担するかまで厳しく見られる。

 実技試験では、AGB Biohazard Maintenance Suitを補助なしで正しい順序で着脱し、気密試験、各種救命医療機器の操作、警報対応まで行わなければならない。とりわけスーツ着用試験では、試験監督が受験者の習熟度を試すため、突然の気密低下アラームや酸素供給系統の異常といった危機対応プログラムを意図的に作動させ、極限の緊張下での冷静なトラブルシューティング能力が厳しく審査された。 さらに極限環境模擬室では、不整地や暗所、あるいは南極の氷原や極寒のブリザードを模した超低温区画での歩行・作業、崩壊した建物の瓦礫、火山ガスや放射線を模した危険区域を安全に移動し、残留爆発物や危険物のトラップを回避しながら、負傷した被災者を安全に救出し、厚い防護グローブで精密な救命器具を扱い、人工心肺や生命維持ポンプの交換試験では、患者への供給を一瞬も途切れさせず、予備系へ切り替えてから主系を交換する高度な手技が求められる。

 最後が面接だった。なぜアイアラートになりたいのか。自分のミスを発見したらどうするのか。上司が誤った判断をしていたらどうするのか。長時間作業で手先の精度が落ちたとき、それでも続けるのか。 知識だけではない。挨拶、時間厳守、報告、連絡、相談、復唱、守秘義務、失敗を隠さない姿勢、他人の指摘を受け入れる能力まで厳しく見られる。生命維持現場では、社会人としての小さな問題がそのまま生命事故へつながるからだった。

 こうして難関の正式資格試験を突破したアイアラートの隊員(IALRT)たちは、世界各地の総合病院での集中治療管理をはじめ、極寒地域や戦場の野戦病院、爆発物・化学災害対策班、感染症隔離病棟、国際救助隊、さらには月面都市や深海プラントなどへ配属されていく。配属や階級によって基本給に手当が幾重にも上乗せされ、年収は数千万円からそれ以上へと跳ね上がる実力主義の世界でもあった。


 しかし――表向きに公表されている「アイアラート」の華々しい組織構造の最深部には、会社の上層部しか存在を知らない完全極秘の部署が潜んでいた。

 それが、「BMLST(生体機械生命維持管理技師 / Bio-Mechanical Life Support Technician)」である。

 世間や一般社員に対しては「BMLST」という部署や資格の存在自体が完全に隠蔽されていた。彼らはアイアラートの最高峰技術者という表の肩書を持ちながら、裏ではただ一人の人物――PROTO-TYPE 0であるマック・アダソン専用の生命維持統括管理を担うためだけに集められた、AGB PharmaTech最高暗部の特殊生体維持班だった。

 マックの生殺与奪を握る彼らの極秘業務は、過酷という言葉すら生ぬるい絶望的な極限作業の連続であった。 マックの脳や生体組織の熱暴走を防ぐ冷却システムは、一秒たりとも停止させることが許されない。そのためBMLSTの技術者たちは、室温マイナス十五度の極寒、壁や天井から叩きつけられる風速30メートルの荒々しい冷却暴風、そして室内を舞い散る激しい霜や氷晶(ダイヤモンドダスト)の只中に直接身を投じ、その吹雪と暴風を一切止めることのないまま作業を行わなければならなかった。

 ぶ厚い専用防護服(AGB Biohazard Maintenance Suit)の表面を凍りつかせる暴風に耐えながら、暴走する代謝熱の冷却管理、高濃度のアルティメットウイルスや猛毒化学物質の循環ライン制御、特殊薬液の恒温精製、そして二週間に一度訪れる過酷なCryo-Gel全身交換施術。それだけにとどまらず、風速30メートルの暴風のなかでマックの身体深部へ埋め込まれた無数のワイヤーやチューブの微小な劣化チェック、車椅子周囲に密集する各種カートリッジや生命維持装置の精密点検、絶えず回転し続ける大小数え切れない冷却ファン群の稼働メンテナンス、さらにはマックの顔面を守る透明な『Cryo-Mask Σ』の高圧バルブや、瞳に埋め込まれた『Cryo-Vision Σ』の防凍バイオポリマー・解氷グリッドの維持管理に至るまで――。一瞬のミスや遅れが即座にマックの死と猛毒ウイルスの全館漏洩へと直結する緊張感のなか、すべての命がけの保守作業が彼らBMLSTの手によってミリ単位の精度で執り行われていたのである。

 そして、この極秘部署BMLSTの八人を率いる中心人物こそが、主任BMLSTの東崎南であった。

 東崎だけは、アイアラートの通常の養成学校を卒業していなかった。なぜなら彼女は、AGBがディスカバリー社と統合してAGB PharmaTechへと発展し、アイアラートの制度が確立されるはるか以前――ロンドンでの小さなAGB研究所時代から、マックの最も近くにいた人物だったからである。 かつてのロンドン研究所時代、東崎は幹部研究員5人とマックが執筆する論文記録の編集・整理を一手に引き受け、研究室全体の管理を行っていた。そればかりか、マックや5人の研究員たちが自らの肉体を実験台にして危険な劇薬や試作品を投与する「被験者」となった際には、その命を繋ぎ止めるための前準備、生体モニタリング、そして命がけの医療サポートのすべてを現場で仕切っていたのである。

 マックの暴走する異常な代謝熱、アルティメットウイルスの特性、劇薬投与による代謝変化、自由を失った彼の生命を繋ぐ特殊な生体機械の構造を、世界で最も深く知り尽くし、長年にわたり現場で支え続けてきた実績と経験。それゆえに、会社設立に伴うBMLST制度の創設時、東崎は養成学校の全課程を特別免除される対象となった。

 だが、免除されたのは学校のカリキュラムだけだった。筆記試験も、実技も、防護服の危機対応プログラム試験も、極低温試験も、シミュレーションも、そして面接も免除されることはなかった。東崎はそのすべての過酷な試験を完璧な成績で突破した。その後、さらに最高度セキュリティであるType-Σ認証を取得し、マック専属極秘部署「BMLST」の初代最高責任者(主任)へと就任したのである。 会社の最暗部であり、CEOであるマックの直接の命を預かるトップであるだけに、彼女の待遇は文字通り桁違いだった。会社から支給される報酬は億を超えるとも噂される、とんでもない超高額年収に達していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。