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第1節:生きた薬品工場――5種の光る薬用植物

 そしてAGB PharmaTechとなった後も、創設時から続いてきた麻薬研究は失われなかった。むしろ研究対象は植物学へも広がっていった。

 AI管理された人工栽培室では、自然界には存在しない発光性薬用植物が育てられていた。温度、湿度、照明、大気成分、土壌状態はすべて人工知能によって二十四時間監視され、植物そのものが特殊な神経作用物質や再生物質を生成する「生きた薬品工場」として研究されていた。

 最初に完成したのがアルティマブルームだった。昼間には淡く、夜になると青白い光を強める巨大な花で、その花弁や花芯から得られる成分は、癌性疼痛を抑える鎮痛補助薬、手術後の神経過敏を和らげる治療薬、過剰な神経興奮を抑える神経安定化薬へ利用されるようになった。

 続いて開発されたエンパシアは淡いピンク色の花を持ち、花芯の周囲には光の粒が漂っているように見えた。感情や共感に関係する神経活動を研究するために生み出された植物で、その成分は極度の不安や過覚醒、強い対人緊張などによって情動調整が困難になった患者の治療を補助する情動安定化薬へ応用された。

 ニューロリーフは銀緑色の葉を持ち、その表面には電子回路を思わせる模様が走り、葉脈が青く発光していた。神経伝達と認知機能の研究を目的として作られ、そこから得られる成分は注意機能や覚醒状態を調整する薬、神経疾患後の認知リハビリテーション補助薬、脳損傷後の神経機能回復支援へ利用された。ADHDを含む注意・覚醒調整治療にも応用され、ASDについては自閉特性そのものを消すのではなく、強い感覚過敏や不安、睡眠・覚醒の乱れなど、本人の生活を困難にする症状を軽減する研究へ用いられていた。

 シナプスフラワーは青から紫、白へ色を変える細長い花弁を持ち、花芯から伸びる光の筋が神経細胞のネットワークのように見える植物だった。神経ネットワークと神経同期を研究するために作られ、その成分は損傷した神経接続の回復を補助する治療や、神経刺激装置と組み合わせて脳と身体の信号を再同期させる神経リハビリテーションへ応用された。

 ヴィータヴァインは人工栽培室の壁や支柱を這うように成長する巨大なツル植物で、葉脈が蛍光ブルーに輝いていた。強い再生性を持つことから、そこから得られた成分は重度外傷や手術後の組織修復、難治性創傷、皮膚や筋組織の再生を補助する医薬品へ利用され、さらに人工臓器と人体の接合部、高度義肢と神経の接続部、埋め込みポート周辺の組織維持など、生体と機械を融合させる医療にも使われるようになった。

 これら五種類の植物には共通点があった。すべてが光ることである。しかし、その発光は装飾ではなかった。植物内部で特殊な生体物質が生成されると、その代謝状態に連動して発光の強さや色、周期が変化するよう設計されていた。研究者たちはAIによってその光を解析し、薬効成分がどの程度生成されているのかを判断していた。

 そして、ここでもマックの思想は止まらなかった。アルティマブルームで痛みを抑えられるなら、人間から苦痛そのものをどこまで取り除けるのか。エンパシアで情動を安定させられるなら、社会全体から恐怖や怒りを減らせないのか。ニューロリーフで注意と認知を調整できるなら、人類全体の認知能力をより安定した水準へ引き上げられないのか。シナプスフラワーで神経を再接続できるなら、人間と機械を最初から一つの神経系として設計できないのか。そしてヴィータヴァインで身体組織を再生できるなら、人間という身体そのものを、もっと壊れにくい存在へ作り替えられないのか。マックの中では、治療、維持、強化、同期、改良、そして進化は、決して別々のものではなかった。

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