第1節:ディスカバリー社の買収と、世界を覆う巨大企業への変貌
その一方で、AGBそのものも単なる研究所という枠を超えていく。
大きな転機となったのがディスカバリー社だった。ディスカバリー社は、軍事と医薬品の両方を扱う巨大グローバル企業で、武器、防衛装備、軍事研究、医療装備、医薬品、軍事医学などを世界規模で展開していた。かつてサイバーサイジング社が健在だった時代には、ディスカバリー社はサイバーサイジング社からITシステムや通信管理設備を購入する顧客企業の一つだった。
しかし、時代は逆転した。サイバーサイジング社が崩壊した一方、その後に生まれたAGBは小さな研究所から研究組織へ、さらに世界的な科学機関へ成長していった。そして最終的には、AGB側がかつての顧客企業であったディスカバリー社を買収するまでになった。
買収後もディスカバリー社を単純な子会社として残したわけではなく、同社が保有していた軍事研究、武器開発、防衛拠点、製薬技術、医療設備と、AGBの神経科学、薬学、生体機械工学、AI、生命維持技術を一つへ統合した。そこへAIIBSOの世界情報網と、旧サイバーサイジング社から残されたIT資産や世界規模の施設網まで加えられた。
こうしてAmerican Gang Boy Neurochemical Laboratoryは研究所としての歴史を終え、AGB PharmaTechへ生まれ変わった。もはや製薬会社だけでも軍需企業だけでもIT企業だけでもなく、医療、軍事、IT、教育、都市開発、災害支援、人工知能、生体工学を同じ組織の中に抱える巨大総合科学企業となったのである。
AGB PharmaTechとなった後も、組織の中心にあったのは医療と医薬品だった。
American Gang Boy Neurochemical Laboratory時代から続いてきた麻薬学、神経薬理学、疼痛医学、依存症治療、精神医学、神経発達研究、生命維持技術などは、より大規模な臨床医療へ移されていった。
その象徴となったのが、世界各地に設置された**American Gang Boy精神ファミリークリニック**だった。
そこでは一般の精神・神経診療だけではなく、疼痛治療、依存症治療、睡眠医療、心理相談、家族相談、小児精神・神経医療、長期入院、リハビリテーションなどが行われ、世界中から患者が治療を受けに訪れた。
医師や看護師、心理士、薬剤師、技術者たちは実際に患者を治療し、長年痛みに苦しんでいた人が生活を取り戻し、依存症から回復した人が家族のもとへ戻り、不安や感覚過敏に苦しんでいた子どもが少しずつ自分の生活を取り戻していった。その医療は偽物ではなかった。
しかし、クリニックの奥深くでは、American Gang Boy Neurochemical Laboratory時代から続く別の研究も受け継がれていた。
ULTIMATE。
Ultimate Virus。
神経同期。
長時間生命維持。
そしてPost-Humanity。
患者の病気を治療する医療と、人間そのものを別の段階へ変えようとする研究が、同じ組織の中に共存していた。
マックにとって、その二つは矛盾していなかった。
痛みに苦しむ人を救うことも、不安や恐怖を安定させることも、人間の神経状態をより安定したものへ変えることも、その先で人間そのものをPost-Humanityへ進化させることも、すべて「苦しむ人間を科学によって救う」という一本の線の上に存在していたからである。




