帰らなければいけない家がある
伏屋が依頼を許諾すると関守は持ってきたアタッシュケースを取り出し、机上に置いた。
関守がアタッシュケースを開けると中には白い粉が入った袋があった。。
「これは我が社が輸入を制限している薬だ。」
「最近海外で作られたものでしたっけ?」
「そう。それが今、私達の許可無く市場に出回っている。」
伏屋と関守が目をあわせる。
「伏屋君に頼みたいのは市場への流出を止めることだ。」
「残業にならなそうかな?」
関守は伏屋に笑って聞く。
「えぇ。」
関守が優しく微笑む。
「助かるよ。」
「捜査役が情報を集めているから協力してくれ。」
「承知しました。」
伏屋が返答すると関守は満足そうに頷いた。
「頼んだよ。」
関守がそう言い残し、会議室を出る。
伏屋は深く頭を下げていた。
扉が閉まり、数秒たってから、
コンコンコン...とノックが響いた。
「失礼しまーす。」
そう言ってドアを開けたのは伏屋のいつものバディだった。
「縄渡か...」
「リアクションが薄いな、お前は。」
「数ヶ月ぶりの共同依頼だぞ?もっと喜べよ。」
「...喜ばなくていい。」
「はぁぁぁ?バディに対してそんな態度はないだろ。」
「いいから早く終わらせるぞ。」
「はぁ...わかったよ。」
「恐らく今回の流出経路は今までこの会社で入手してきたルートとは違う。」
「どうやって調べる?」
伏屋が尋ねる。
「お前がいるんだから取引現場の奴らを捕まえてしまえばいい。」
伏屋が頭を押さえて俯く。
「面倒な作業押し付けやがって...」
「いいだろそれくらい。それに一応次の取引場所の予測はできてる。」
「へぇ....」
「東京湾沿いの再開発地区、今夜中にだ。」
「それ以上は分からん。」
縄渡は少しため息をついた。
「そこまで分かるなら大丈夫だ。」
「ちょっと待て、」
縄渡が伏屋を引き止める。
「とりあえずこの眼鏡を持っていけ。」
そこには男二人がいた。
「海外から取り寄せた薬だ。」
男が小袋を見せる。
「これが国笠が独占しているやつか...」
「金は持ってきたな?」
「あぁ....」
コツ....
コツ....
コツ....
二人が取引をしている路地裏にゆっくりと足音が響き始める。
眼鏡をかけ、黒いコートを羽織った男が迫っていた。
「誰だお前」
男はその声に答えること無く、二人の間を真っ直ぐに横切る。
「失礼します。」
とだけ言い、その場を通り過ぎた。
「おい、待て...」
ポタッと水滴が落ちる音がした。
黒いコートを羽織った男の右手にはナイフが握られていた。
キラリと光るその刃に血がついていた。
ドサッ
ドサッ
ナイフに付着した血を布で拭き取り、伏屋は黒いコートを脱ぐ。
(良かった...汚れてないな)
黒いコートを再び着る。
「終わりましたよ。」
眼鏡の縁を指で軽く叩きながら話す。
「それ、殺してないよな?」
眼鏡から縄渡の声が聞こえる。
「えぇ、太い血管は全て避けました。」
「ならいいか。」
「後は二人を回収するだけなのでよろしくお願いします。」
「そこは丸投げかよ...」
伏屋は連絡を終わらせ路地裏を去る。
伏屋は依頼をこなした後、シェアハウスへ直行して疲れていた。
(今日は何も考えず寝よう。)
伏屋は心の中でそう決めていた。
東の空が白み始め、徹夜明けの街がゆっくり目を覚ましてゆく。
巡回ドローンが空から消えてゆく。
早朝のランナーが住宅街を横切る。
シェアハウスへ到着する頃には朝日が住宅街を照らしていた。
鳥の鳴き声が聞こえる静かな朝だった。
伏屋は車を降り、玄関の鍵を開ける。
カチッ。
「ただいま戻りました。」
ドアを開ける。
そして伏屋は衝撃で言葉が出なかった。
視界を覆い尽くす惨状に沈黙するしかなかったのだ。
廊下が見えないほど床がゴミで埋まっていた。
空のペットボトルやテイクアウトしたであろうファストフードのゴミ。
その上、カップ麺の容器もあれば栄養補給食のゴミもある。
そしてくしゃくしゃに丸められた紙が無数に捨てられていた。
伏屋はしばらく立ち尽くした。
「......。」
ゆっくりとドアを閉める。
カチッ。
再び開ける。
景色は変わらない。
「......。」
伏屋は人生で初めて本気で現実逃避を試みた。




