ホワイトな業務
規則が決まり、引っ越し業者がダンボールを届けに来た。
ダンボールの中には5人の私物が詰め込まれていた。
ダンボールを家の中へ移し、荷解きで一日が終わった。
翌朝、全員が熟睡していた。
伏屋だけが早く起き、身支度をしていた。
階段をゆっくり降りてくる足音が聞こえた。
「おはよぉ~、伏屋君。」
「おはようございます、深海さん。眠そうですね。」
「荷解きで疲れちゃってさ~」
深海は目を擦りながら伏屋を見る。
「どっか出かけるの?」
伏屋は革製の鞄を携え、コートを羽織っていた。
「えぇ、仕事の関係で。」
伏屋はコートのボタンを閉じながら言葉を返す。
「明日には帰って来る予定ですので皆さんに伝えておいてください。」
伏屋はドアノブに手をかける。
「わかった!じゃあ、いってらっしゃい!」
伏屋が一瞬、言葉に詰まる。
「...はい、いってきます。」
(いってらっしゃい、か...
そんなこと初めてだな...)
伏屋は車を走らせる。
澄んだ朝の中、伏屋を乗せた車が静かに住宅街を抜ける。
今日は平日なのにわずかに車が多かった。
渋滞といったほどではないにしても東京では珍しいことだ。
少し進んだ先に信号が見えて来た。
だが信号は黒い。
(ここの信号修理されてないな...)
警察が手信号で対処していた。
伏屋はしばらく待ち、高速道路を横目に交差点を通過する。
何年か前に流行った商品の広告が色褪せている。
伏屋が向かったのは東京のビルの生き残りだった。
「国笠流通の伏屋蒼です。」
「関守さんとの会談ですね。18階の会議室でお待ち下さい。」
エントランスで受付を済ませ、エレベーターに乗る。
エレベーターがぐわんと上がる。
伏屋の心音は少しずつ高まっていた。
18階に到着し、会議室に踏み入る。
18階の会議室は静かだった。
壁は白。
机は黒。
余計な装飾は何一つなく、部屋にある窓からは夕陽に照らされた東京湾が見えていた。
「待たせてしまってすまないね伏屋君。」
「いえ、お疲れ様です。関守さん。」
関守は窓の外の海を眺めながら口を開く。
「彼らとの生活はうまくいきそうかな?」
「まぁ....今のところ大きな問題はありません。」
伏屋はそう答えた。
「それは良かった。」
関守は静かに笑う。
「君には申し訳ないと思っているよ。」
関守は小さく笑う。
「これから彼らに振り回されることが目に見えているからね。」
伏屋は黙っていた。
「伏屋君。」
関守は椅子へ深く腰掛ける。
「今回、君に与えた任務はいつもとは少し違う。」
「....」
「私達にはあの4人を消すこともできた。だが生かす選択をした。」
「それは何故です?」
「探られたくないのさ、国からしても。」
「国家の信用が不安定な今、恐れていることが起きたら...」
「日本は外と内の両方から終わる。」
伏屋は重く答えた。
関守は頷いた。
「その通りだ。」
「そして表社会の連中との取り決めがあったんだ。」
「表社会と...ですか。」
「だから君を動かすしかなかった。」
伏屋は固唾を呑む。
「そして今日来てもらったのは別の依頼についてなんだ。頼めるよね?」
「えぇ。」
伏屋は少し考えた後、
「残業は無しでお願いします。」
と答えた。
関守はくすっと笑っていた。




