収容施設のご案内
伏屋は車のトランクに全員の荷物を乗せて東京へ向かう。
旅館を出発して一時間ほど経ったが窓の外を流れる景色は山ばかりで5人とも退屈だった。
カーナビの機械音声とだけが一定の間隔で響いていた。
後部座席からは誰も話さない。
あまりにも静かで耳を澄まさなくても車のエンジン音が聞こえてくる。
伏屋はバックミラーを見る。
深海は窓に顔をくっつけて外を眺めている。
鯖木はスマートフォンをいじっている。
熊面はノートに何かを書いていた。
一柱は腕を組んだまま目を閉じている。
全員が全員、好き勝手だった。
(共同生活、大丈夫なんだろうか...)
不安だけが募る。
そして伏屋が車を走らせながら口を開く。
「...旅館までは全然会話しなかったので改めて自己紹介しませんか?」
鯖木が
「さんせーっす。」
と言い、話を続ける。
「俺、鯖木正善でーす。元?現役?警察官っす。
相手をぶん殴って厚生させんのが好きなんだよ。」
(やってることチンピラと変わらないのでは?)
伏屋はそう思った。
深海が目を輝かせながら話す。
「警察官?!カッコいいね!
私、深海朱莉!好きなものは....んー...好きな人!後は愛かな!」
全員がぽかーんとした。
熊面が咳払いをして、話を仕切り直す。
「私は熊面真言と申します~。一応作家でして、ミステリーやサスペンスを書いていて...」
一柱が話をバッサリと遮る。
「その割には聞いたことない名前だな。」
熊面真言は弁明しようとするが話を続けられあえなく撃沈する。
「私は一柱梨果だ。大学で毎日のように研究して論文を書いていた。実験が好きでね。」
全員が伏屋を見る。
伏屋はミラー越しに全員と目があい自己紹介をする。
「...私は伏屋蒼です。私に与えられた仕事はあなた達との共同生活です。」
無言の間が続き伏屋は不安になってくる。
(この人達、自分が何したのか分かっているんだろうか...)
「共同生活ということでシェアハウスが用意されてます。しっかり規則を守ってもらいますからね。」
「もし守れなかったらどーなんのよ?」
鯖木が軽く尋ねる。
「...終わりです。私もあなた達も抹殺されるだけでしょうね。」
「へぇ~」
「ほぉ...」
「なるほど...」
「...ふーん。」
「....だってさ。気をつけろよお前ら。」
鯖木がそう言って会話が途切れる。
しばらく車を走らせ東京へ着く。
伏屋たちの車は住宅街を進んでいる。
並ぶのは二階建ての住宅、
街路樹と小さな公園、
どこにでもありそうな風景。
ビルはぽつんと遠くに見えるだけである。
東京は名ばかりの首都である。
「東京なのに普通の住宅地なんだね~。」
深海が胸を弾ませ喋る。
「当然だろう。あの災害後、首都機能の分散が急速に進んだからな。」
一柱は落ち着いた声で答え、ため息をつく。
「俺もっとタワマンとかの夜景見れるとこが良かったわー。これじゃ海近い意味ねーし。」
鯖木は少し残念そうにした。
熊面が伏屋に話しかける。
「この家それなりに大きいですね~。殺人事件に映えそうだ...。
伏屋さんのものなんですか?」
伏屋が首を横に振る。
「依頼人が用意したものです。」
伏屋は玄関に鍵をかざし、
「早く入りましょう。」
と言う。
家の中はフローリングの木の匂いが包まれたどこか落ち着く空間だった。
家具はある程度置かれていて一人一人の部屋がしっかりある。
その上リビングは5人で生活するのに文句のでない広さだった。
「では生活の規則を提示します。」
「はいはーい!質問でーす!」
深海が勢いよく手を挙げる。
伏屋は嫌な予感しかしなかった。




