本物の流儀
20XX年、山梨県の山奥にある小さな旅館。
僕は今日、罪を犯す。
僕の名前は井戸内靭斗。
世間で言うところのサイコパスだ。
昔から人が死ぬ映像やニュースを見るのが好きだった。
人が苦しむ様子に興味があった。
誰かを殺してみたいと思ったことも一度や二度じゃない。
もちろん、今まで実行したことはない。
だが今日ならできる気がした。
この旅館は客の泊まる建物と食事や会計を済ます建物に別れている。
俺はとりあえず共有スペースで狸の剥製を見ていた。
「あー露天最高だわ。」
肩にタオルをかけ、共有スペースのソファでくつろぎながら呟いている。
この旅館に泊まっているもう一人の男――
その男は雲無照也と言った。明るい茶髪、軽そうな服装、誰にでも話しかけそうな笑顔....。
正直言って嫌いなタイプだ。
その時だった。
玄関の方から女将の声が聞こえた。
「お客様、ご到着です。」
扉が開き、次々と人が入ってきた。
「お食事は元の建物でご用意いたします。それではごゆっくりおくつろぎください」
女将が去る。
僕は新しく来た宿泊客たちを見る。
新しく来た宿泊客たちと共有スペースで挨拶する。
二十代くらいの男、落ち着いた雰囲気。
「伏屋蒼です。よろしくお願いします」
短く頭を下げる。
感情が見えなかった。
電話が鳴り、共有スペースを離れる。
その隣、
二十代前半くらいの女性。
「私、深海朱莉!よろしくね!」
人懐っこい笑顔。
...妙に距離が近い。
次は...
二十代くらいの男性。
「鯖木正善でーす。よろしくー。」
だらしなく椅子へ腰掛けている。
そして...
三十代くらいの男。
「熊面真言と申します。よろしくお願いします」
物腰が柔らかい、ヘラヘラとした感じだ。
もう一人いた。
二十代後半ほどの女性。
「一柱梨果だ。よろしく」
それだけ言うと壁際へ移動する。
無愛想だった。
ーーなんだ。
思ったより面白そうな連中じゃないか。
僕は全員に挨拶を済ませる。
その途中で雲無照也が缶コーヒー片手に近づいてきた。
「兄ちゃんも一人旅?」
「....まあ」
「俺もなんすよ!」
そう言って笑う。
うるさい
距離感が近い
だが悪い奴ではなさそうだった。
露天風呂からあがり、戻ってきた時、旅館の周囲は静まり返っていた。
夜風に当たろうと外へ出た時、横にいた雲無と目があった。
旅館の脇で煙草を吸っている。
「井戸内さん」
そう言って煙草の箱を差し出した。
「一本いります?」
僕は首を振る。
「...吸わない」
「ハハッ、もったいねー」
雲無は笑う。
「こんな空気のいい場所で吸うと最高なんすよ」
知らない
勝手に吸ってろ
その笑顔が妙に気に障る...
何も知らない顔...
悩みなんてなさそうな顔...
楽しそうな顔...
その時、ふと思った。
こいつでいいか...
いや...
こいつがいい...
夕食の時間が近づいた頃、
旅館の外から悲鳴が響いた。
共有スペースへ全員が集まり玄関を見ている。
悲鳴は深海のものだった。
その前に倒れる雲無照也。
身体から大量の血が溢れて死んでいた。
深海朱莉は死体を見て泣いている。
僕は何となく慰めてあげようと思った。
「大丈夫だよ深海さん....」
だって僕が順番に天国へ送ってあげるから...
「可哀想なの...」
ぽつりと言った。
「殺し方に愛を感じない...」
....は?
熊面は顎に手を当てる。
「なるほど...タバコの燃えかすの温度で死亡時間が推察できるな。」
一柱はしゃがみ込んだ。
傷口を見る。
「こことここの2つだけで失血死は狙えた。そんなことも分からず殺したのか。」
鯖木正善は腕を組む。
「どうせ衝動的な犯行だろ。呼んどいたぜ、警察。」
伏屋蒼は一歩だけ近づく。
そして静かに言った。
「素人だな」
こちらを見ている。
僕の背筋が凍った。
反応がおかしい。
まるでーー
殺人を見慣れているみたいだった。
鯖木が言う。
「首を狙ったのは分かるが、位置が悪い。」
熊面が死体を見下ろす。
「雲無さんの死ぬ瞬間、見てみたかったですね....」
僕は息を呑んだ。
何だこいつら
何なんだ
僕はサイコパスだ
僕は異常者だ
そう思っていた。
だが、その5人組は
何かが違う。
根本的に。
決定的に。
何かがおかしい。
伏屋が静かに言った。
「井戸内さん...」
その言葉に全員の視線が動く。
その視線の先は
井戸内だった。
井戸内が冷や汗をかいている。
「....いや」
「いやいやいやいや...!」
「そんな急に犯人にされても...!」
井戸内は言い逃れしようとする。
その声はあり得ないほど震えていた。
鯖木が近寄る。
「んーじゃあ現行犯逮捕?でいい?」
「触んなよ!」
井戸内は抵抗しようとするが、鯖木は乱暴に拳を振るう。
井戸内は頬を殴られる。
その時に井戸内は抵抗を諦めた。
ほどなくして警察が到着する。
「鯖木、お前....またやったのか」
警察官は唇を噛んでいるようだった。
「俺?なんもやってねーよ?」
鯖木は軽く答える。
「犯人はこいつです。捕まえて下さい。」
伏屋が井戸内をつきだす。
「...なぜ分かったんです?署まで同行してもらってもいいですか?」
警察官が怪しそうな目で伏屋を見る。
その時、
「やめとけ。」
警察官の上司らしき人が引き留める。
伏屋に近づいて、
「ご協力ありがとうございます。」
そう言って井戸内を逮捕して去っていく。
突然、伏屋の携帯が鳴る。
伏屋は携帯をとり電話する。
「何か巻き込まれたらしいな、伏屋君。」
「はい。ですが問題ありません。」
「君には期待しているよ。」
そう言って電話を切られる。
次の日、伏屋、熊面、鯖木、一柱、深海は身支度を整えていた。
「では、これから東京へ行きます。生活のルールは....追々決めましょうか....。」
そう言って5人組は旅館を出る。
一話をお読み頂きありがとうございます。
今作品の投稿頻度は二日に一回くらいだと思います。




