ジルキン編3 初めての船
「ジルキン帝国っすか。遠いっすね」
オルテガさんからの依頼の話を、いつきさんが皆に説明していると、よいやみがボソッと呟いた。
「どうしたの?ジルキンには嫌な思い出…ご、ごめん!!!」
「みつき~。何を勘違いしたか、お姉さんに話してみるっす」
「え?よいやみって王女だったでしょ?それがそんなにやさぐれているから、ジルキンに婚約者がいて振られたのかな…ぎゃあああああああ!!!」
よいやみが、無言でボクのこめかみを両方からぐりぐりする。そこ痛いからやめて!!
「そんな理由じゃないっすよ。あしは船が苦手なだけっすよ」
「確かに船に乗るのはねぇ。俺もあの浮遊感は苦手だよ。だから俺は残るよ。竜王の解体には、俺とカレンでもそれなりに時間がかかる。それなら俺は残って解体するよ。カレンはどうする?」
「私も残る。これ以上、差をつけられるのはごめんだからね。お土産に期待してるよ」
カレンとアディは解体を理由に、ここに残ることになった。他の国に行くのも楽しいのにと言ったら「俺達はまだこの国に来て日が浅いからな、この街も他の国とまだ変わらないから大丈夫だよ」と言っていた。
「もし何かありましたら、これで連絡してください。可能な限り戻ってきますので。金額のことで困っても連絡下さいね」
いつきさんはカレン達に連絡用の魔宝玉を渡していた。これもいつきさん達が開発したもので、以前の物より小型化されている」
次の日。出発するという事で、出国の手続きをしにギルドにやってきた。しかし、アロン王国の所属になるから出国の手続きが必要になるなんて、ソーパー王国の時は手続きなんてしなかったのに。
「あれは、緊急性のある仕事だったから、仕方なかったんですよ」
確かにあの時は、王様と一緒にソーパー王の所に乗り込んだ形になっていたよね。
今日もギルドは繁盛している。一般の冒険者用の受付には結構な行列列ができている。ん?あの人だかりは?
僕は人だかりの出来ている所に行くと、ここにいないはずのクレイザーが光っていた。なぜいる?
「クレイザー。えりかさんの所をクビになったの?」
「あ!みつきちゃん。違うよ。今日は、中間報告と派遣される巫女の護衛のために来たんだよ」
巫女の護衛?
「あぁ、教会の方から数人ソーパーの教会に派遣することになったんですよ。昨日、教会の人が来て説明されました。正直、私には説明も必要ないと思うんですがね」
「いつきちゃんは聖女で全教会の頂点だからね。流石に報告なしというのは不味いと思ったんじゃないかな?」
そういや、セリティア様も言っていたな。聖女はいつきさんしかいないって。なんでいつきさん以外は聖女にしなかったんだろう?唯一の聖女がねぇ?
「みつきさん。馬車の用意が出来ました!」
ギルドの受付の女の子が僕達を呼びに来てくれた。そのことで、僕達がここにいることがギルド内に知れ渡ったらしく、注目の的になってしまった。所々で「あれが黒女神か」「黒姫ってちっちゃいのな」「よいやみちゃん可愛いなぁ」「いつきちゃん、踏んでくれ」とかいろいろ聞こえてくる。僕をちっちゃいって言った奴の顔は覚えておこう。後で覚えておけ。
僕達は用意された馬車に乗って、船という物が出ている港町までやってきた。
「よいやみ、船ってどんなのなの?」
「みつきは見たことがないんすか?」
「うん」
僕の住んでた魔大陸は海に囲まれた小島とはいえ、僕は船を見たことがなかった。聞いたことはあるんだけど、ただの村娘に船は無縁だったんだよ。
「いつき。ちょっと港に出ないっすか?みつきに船を見せたいっす」
「いいですよ。どうせ乗船手続きもしなきゃいけませんし、行きましょう」
港についた僕は感動した。王都から魔大陸に行くときも、結局ハインさんに送ってもらったし。こんな大きいものが海に浮かぶんだ。凄い。ゆーちゃんも感動したようで二人で船をジーっと見ていた。
「おい、ね~ちゃん!!俺達と良いことしねぇか?」
「うるさいっす」
ん?よいやみが絡まれている。酔っ払い?この国の冒険者がよいやみを誘う事はそうないんだけどな。
他の国の冒険者かな?
「あぁ!!俺が誘ってやってんのに無視してんじゃねぇぞ!!痛い目にあわせてやろうか!?あぁ!!そのうち気持ちよくなるかもしれねぇがな!!」
男達は汚らしい笑い声をあげていた。そろそろかな?
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!」
男達の一人が悲鳴を上げた。当然よいやみだ。殴ったのかな?
「そのうち気持ち良くなるんすよね?」
そう言って股間を踏みつぶそうとしている。よいやみって元々お姫さまだったんだよね?股間はじいちゃんにでもダメージが通る唯一の場所だよ?踏まれたら痛いだろうな。
「どうなんすか!!!!」
踏み込んだ!!男は泡を吹いて気絶した。よいやみの所業に周りの男達は絶句した。
よいやみ、なんか機嫌悪そうだな。
「て、てめぇ!!俺達を誰だと思ってやがる!!」
「知らんっすよ。誰っすか?」
うん。僕も知らない。
「俺達は時の残忍だ!!」
時の残忍?なんじゃそりゃ?
「ぶひゃ!?」
よいやみが突然吹き出した。今も腹を抱えてうずくまって笑っている。
「と、時の残忍?なんすか?そのどっかのアホが間違ってつけたみたいな名前は?」
「貴様ら!?俺達に逆らうと粛清されるんだぞ!?」
ん?こいつらまさか。時の番人の名を語ってるのかな?
いつきさんの方を見ると半笑いで男達を見ていた。
よいやみは呆れきった顔で「はぁ、ちょっと痛い目を見せとくっすか」と拳をこきこき言わせていた。
「次から人を見た目で判断するんじゃ無いっすよ?」
よいやみが満足そうな顔で僕達の方に帰ってきた。
周りの冒険者を含めて、みんな青い顔をしていた。
「よいやみさん。船に乗るのが不安だからって、人に当たっちゃダメですよ?」
不安?なんで?そんなかわいい理由であの結果?
僕はどつきまわされて、泣いてる時の残忍達を見ると逃げていった。
「みつきは船酔い大丈夫なんすか?」
「船酔い?」
船酔いってなんだろう?ゆーちゃんと二人で首を傾げていた。
「よいやみさん。これを飲んでみませんか?」
「なんすか?これ」
「最近作った、酔い止め効果がでるといいな~と思って作った、ポーションです。誰で実験しようかな?と思ってたところだったんで丁度いいですね?」
「自分でやらんすか?」
「私は酔いませんから」
よいやみは観念したようにポーションを飲む。
「あれ?今回は美味しいっすね?」
「はい。味にも拘りました」
「これなら売れそうっすね」
二人が商売の話をするなんて珍しい。
港に大きな音が鳴った。
「乗船の時間ですね。みつきさん、ゆづきちゃん乗りますよ」
初めての船にワクワクしながら(よいやみだけは青い顔をしていたけど)船に乗り込んだ。




