異国の勇者編15 黒女神
大司教が拘束されてから数日たった。今日は王様が国民の前で、大司教が犯してきた罪を、国民に公表するそうだ。そして、教会の再建と大巫女であるえりかさんの紹介が行われるようだ。
今僕は、いつきさんに髪の毛を梳いてもらっている。何故そんなことになっているかというと、セリティア様を降臨させる予定だったが、見た目があれなのでいつきさんが却下したそうだ。
アルテミスと同じ方法を取ろうとしたセリティア様だが、残滓のアルテミスと違い本体のセリティア様では同じ方法が使えなかったらしい。
そこで、白羽の矢が立ったのは僕だ。アルテミスを降臨させて、セリティア様に見せかける。その作戦をいつきさんから聞かされた時は、正気かと神経を疑った。
困った僕はアルテミスに相談したところ、自分を介せばセリティアを降臨させることも可能という事を知り、いつきさんに報告。いつきさんはこれ幸いとこの話を了承。
いつきさんから、セリティア様に交信して、セリティア様もこれを了承。ただし、セリティア様は言葉使いが酷いので、アルテミスに任せるという事になった。これにはセリティア様も拗ねたが、いつきさん一喝で事足りた。
「と、言うことで、みつきさんお願いしますね」
「うん。僕は体を貸すだけだから」
アルテミスに身体を貸すのに慣れてきた。今では、完全な銀髪に変化するようになった。羽も完全な実体化に成功してるし、いつか乗っ取られるんじゃないだろうか?とそんなこと思ってら『みつきを乗っ取るのは不可能ですよ?貴女の魂は貴女が思っているよりもはるかに強い。だから乗っ取りは出来ませんよ。そもそも出来たとしてもしませんよ!!』とすっごい怒られた。
僕は普段、髪の毛を後ろで縛っているが、久しぶりに人前で下した。
「おぉ~、みつき見違えたっすよ~」
よいやみが茶化してくる。僕は恥ずかしくなる。
いつきさんは衣装を持ってきて、僕に着せた。
いや、スカートなんて村にいる時ぶりなんだけど?
「黒姫さん奇麗ですよ」
カレンに褒められた。恥ずかしい。
そういえば、僕は聖剣を持っている時にしか体の譲渡出来ないんだけど、そこはどうするんだろう?
いつきさんにそれとなく聞いてみたところ、聖剣を持っていても問題はないという事になったそうだ。
「みつきさんはここで待機していてください」
「うん」
『みつき、そこまで緊張しなくても、私が話をするから大丈夫ですよ。セリティアも大人しくすると約束していますし』
そういえば、セリティア様は金髪の2対4枚羽。どうするんだろう?
アルテミスに聞いてみたところ、アルテミスに主導権を渡した後、セリティア様を聖剣を使って特殊な召喚をして、重ねがけのようなことをするらしい。初めてセリティア様に出会ったとき、あまり強い力を感じなかったのは、セリティア様自身の戦闘能力は低いのが理由と聞いた。だからこそ、重ねがけをしても主導権を取られないそうだ。
今、城のバルコニーでは、王様が国民に向かい今日までの教会の不正、大司教による犯罪の数々が暴露されている。民衆の声は怒号と歓声に分かれている様だった。
歓声の方は冒険者ギルドや教会によって不幸になった人達だろう。逆に怒号の方は、教会によって財を成していた商人や、教会関係者。あとは孤児院なんかの関係者だろうか?時折、子供たちの声も聞こえる。
うぅ…怖いよぅ。僕が今からあそこに行かなきゃいけないのか。嫌だよぅ。
えりかさんが教会の大巫女として紹介された。怒号が激しくなる。えりかさんは怖くないのかなぁ?
「やかましい!!!!!!!」
え?今のえりかさんの声?
「文句ばっかりで教会を変えてこなかったのは、お前達だろうが!!!!アロン王国の支援でセリティア様の巫女の私が抜擢されたんだ!!!!文句を言うならお前達がやれ!!!!!」
えりかさん?え?今の威圧ってえりかさん?
よいやみも驚いている。そういえば、よいやみが、えりかさんはただ者じゃないとか言っていたような気がする。間違いなく、僕達クラスの強さだあの人。
エリカさんの叱責で、民衆は静まり返る。
「今回、兵士の皆さんが民衆の意見を聞いてきてくださった結果、教会を残すと決めたんですよ?ガタガタ文句を言うのならこの話はなかったことにしましょう。ソーパー王もそれでいいですか?」
うわっ!?脅しまでかけてきた。そりゃ、えりかさんからしたら今回のことは、故郷を離れてまでやることになるから、メリットは少ないんだよね。
教会の大巫女に就任はアロン王国にいても変わらなかったことから、ソーパー王国で大巫女の職に就く必要がないそうだ。だから好きにすればいいと言ってあると、いつきさんが言っていた。
王様がどう答えたかまでは聞き取れなかったが、民衆からは落胆しているような悲鳴が聞こえてきた。そして、王様の謝罪があり、当初の予定通りえりかさんはソーパー王国の大巫女に就任した。クレイザーが教会付きの勇者になるそうだ。ギルドから面白い奴がいなくなるのは残念だが、今のクレイザーなら大丈夫だろう。あとから聞いた話だが、えりかさんに惚れているらしい。がんばってくれクレイザー君。
「みつき、そろそろっすよ」
僕は聖剣を召喚する。
「じゃあ行ってくるよ」
僕はアルテミスに身体の主導権を渡す。僕の髪の毛が綺麗な銀髪に変わる。目も当然、銀の目だ。
「格好の事もあって、どこからも見ても女神にしか見えないっすね」
「綺麗」
よいやみとカレンが褒めてくれる。
「さて、セリティア。来てください」
「わかったよー!!」
僕の体が金色に輝いた。体の中にいる僕でも眩しいくらいだ。
しかし不思議な感覚だ。僕の姿を第三者のように見ることができる。僕は金髪になっていた。光が当たると銀色に輝く。2対4枚羽は今はない。後から出すらしい。そういえば、セリティア様は羽のない状態でいたなぁ。
アルテミスがバルコニーに出ると、騒がしかった民衆が静まり返る。民衆から「綺麗」や「なんだあの美人」といろいろ聞こえてくる。恥ずかしい。
えりかさんが「お願いします」と小声で言うと、アルテミスは聖剣を抱え込むように持って、羽を広げた。2対4枚羽だ。ちゃんとセリティア様と同じ枚数になっている。羽の色は金色?セリティア様の羽は普通に白だった気がするんだけど?
「あれだよ。アルテミスの魔力の方が強いから仕方ないね」
セリティア様が横にいる気がする?なんで?
「そりゃ、みつきの体の中にいるからねぇ」
変な感じだ。あの女神セリティア様が僕の体の中にいるなんて。
アルテミスの説明と説得により、えりかさんは民衆に受け入れられた。というより最初の叱責でかなり印象付けたようだ。あの人に逆らうと痛い目に合うかもしれないと……
次の日。
僕達は、アロン王国に帰る準備をしていた。見送りにはえりかさんや、ソーパー王国の王様や王妃様、それにヨハン殿下と婚約者の方、カレンの育て親、アディの両親などがいる。
僕は、昨日の女神降臨で外に出られなくなった。髪の毛の色も違うし大丈夫だと思ったがギルマスに「あの女神お前に似てるな」と言われてやばいと感じた。アディの両親にも女神様に似てると言われて本格的に外を歩けないと思って、帰るのを今日にした。
カレンやアディには近いうちに来てくれたらいいと言ったんだけど、一緒にアロン王国に帰る事になった。
「勇者黒姫。感謝する。お前達のおかげで教会の腐敗を正すことが出来た。もし、困ったことがあったら遠慮なく言ってきてくれ」
「あ、はい」
カレンやアディも家族とお別れをして、アロン王国に帰ってきた。
カレンとアディには、生活する部屋にといつきさんの店の一室を、地下倉庫を仕事場として提供した。セトさんと交渉して、人間の入れる空間魔法を魔法具屋のおばちゃんに使ってもらったらしいので、大きい魔物でも問題なさそうだ。
「ところでさ、このパーティの名前ってなんなの?」
アディから突然そんなことを言われた。僕達は今まで、黒姫一行と呼ばれてきた。でもそれじゃダメなのかな?とは思っていた。
僕達のパーティは正式にはギルド登録してはいない。パーティ名を思いつかなかったからだ。でも、僕達も6人の大所帯だ。そろそろ名前を決めなくてはいけないな。
「黒女神でいいっす」
よいやみがいきなり何か言いだした。黒女神って?
「昨日のみつきっす。黒髪でも女神に見えたっす。これでいいっす」
こ、こいつ何言ってんだ!!?ふざけんな。
「いいですねぇ」「賛成」「うん」「いいねぇ~」
え?いや、それでいいの?いや、恥ずかしいんだけど……
こうして悪意のある多数決でうちのパーティは黒女神という名前になった。勘弁してほしい。
異国の勇者編これで終わりです。次の話は今から考えます。




