みつきとアルテミス
あの力は一体?私は混乱していました。
「いつき、どうしたっすか?」
「よいやみさんは、さっきの戦闘をどう思いますか?」
「馬鹿なことを言うっすよ?あれは、みつきであってみつきじゃなかったと思うっす」
よいやみさんも私と同じ考えのようだった。よいやみさんがどうしてそう感じたかは、私には分からない。けれど私は、みつきさんのあの状態に戦慄さえ覚えた。
例えばあの目、ゼズは確かに「銀色の目」と言っていた。銀の瞳はこの世界に存在しない筈。なぜなら、その目は神の目と呼ばれているから。
もう一つは、3対6枚羽。セリティア様が言っていたのは、背中の羽が多いほど力が強い女神だという事。セリティア様は2対4枚の羽だった。つまり、あの状態のみつきさんは、セリティア様よりも格が上だったという事になる。
さらにもう一つ、あの時のみつきさんはゼズの事をゼドラと呼んでいた。それはつまり、何らかの方法でゼドラの正体を見破ったことになる。
「う…………ん?」
みつきさんが目を覚ました。目は!?普通の黒色だ。ある意味良かった。
かりに、みつきさんが神の使途になっていた場合、感情も全て失うことになっていたかもしれない。
ゆづきちゃんがみつきさんに抱き着く。相変わらず無表情だったけど、目に涙を浮かべていた。
みつきさんもゆづきちゃんを抱きながら頭を撫でている。
暫くして、落ち着いたみつきさんから話を聞くことにした。
「みつきさん。あの力は一体何だったんですか?」
よいやみさんもそこが気になったらしく、頷いていた。
「僕にもよくわかってないんだけど、アルテミスの話では、僕の本来の魔力らしいよ」
「アルテミスさん?」
「あ、ちょっと待ってて」
みつきさんが聖剣を召喚しだした。
あれ?みつきさんの聖剣の形状と色が少し変わっている?
「アルテミス。さっきの事は説明しても大丈夫?」
みつきさん?何故、いきなり聖剣に話しかけているんですか?
「…………」
「うん」
え?みつきさんが一人で納得した?
みつきさんが一度目を閉じ、再び開いたとき、目は銀色になっていた。
そして、背には羽が。やっぱり3対6枚の羽だ。
「まず、私の自己紹介の前に……」
みつきさん?は何もない空間に指をさし「出てきてくださいね。そこの人」と言った。
何もないのに?一体みつきさんは何を!?
みつきさん?が指さした先が、急に歪んで、そこからピンク色の長い髪の女の人が現れた。
「流石、異世界の月の女神様ね」
異世界?月の女神?
そんな馬鹿な。セリティア様から、確かに異世界があるとは聞いてましたし、女神もいるとは聞いていました。でも、そのほとんどは力を失っていると。
「確かに、神界にいない女神は、力を失っていると言ってましたね。私もそうですし」
今の言葉で確信しました。この人はみつきさんじゃない。
「で?結局、みつき?は誰っすか?」
「ばーか」
一瞬目が黒くなりましたよ!?今のはみつきさんです!!
よいやみさんは、口をパクパクさせながら、みつきさんを睨んでいます。
「いや、私は言ってませんからね?私を睨まないでくださいよ」
みつきさん?は困った顔をして。よいやみさんにいいわけ?をしていた。
「私は、聖剣に残った女神アルテミスの残留思念。本物の女神ではありません。今回ばかりはみつきでも危なかったので、私が出てきました」
「そっちのねーちゃんは誰っすか?」
「私はセト。時の番人よ」
セト?どこかで聞いた気が……?
「んで?みつきのやつは、今は何してんすか?」
「え?えーっと?寝てるみたいですね」
よいやみさんが、少しイラっとしたみたいです。
「で?あの力は、みつきの本来の力なんすか!?」
よいやみさんは、かなりイライラしているようだ。みつきさんの事が、心配だっただけにお気楽な態度に腹を立てているようだ。
「アインからみつきへと聖剣の譲渡があった時に、みつきの魔力を調べました。その結果、闘気という本来は攻撃の余波などに使う力を魔力の代わりに使っているという、私達には到底理解できないことをしていることに気付きました。この世に意思のある生き物で魔力のない生物は存在しません。どんな赤子でも必ず魔力は存在します。それなのに、何故こんなことをやっているのか疑問でした」
でも、みつきさんは生活用の魔法具すら使えなかった。だから店長も魔力がないと判断した。
「みつきが生活魔法すら使えない理由は、意識的に魔力を使えませんでしたし、そもそも本人が魔力を使えないと思い込んでいたのが原因ですかね」
確かに、みつきさんは「僕は魔力がない」とよく言っていましたしね。
「それで闘気を魔力の代わりに使ってたすっか?それってすごいんすか?」
「纏わせることが難しいことを考えたら、闘気という得体のしれないものを体に纏う事自体がおかしいんですよ」
みつきさん、寝てる間におかしい人扱いされてますよ。
「つまりアレっすか?みつき本来の魔力っていうのは特別なんすか?」
「はい。特別です。ゼロの魔力という前衛職の魔力の使い方の最高峰とも言われている魔力です」
ゼロの魔力、聞いたことがないですね。
アルテミスさんは、ゼロの魔力について詳しく教えてくれた。
私には、凄さは分からなかったけど、よいやみさんには凄さが伝わったようだ。
私はもう一つ気になっていることがあったので、聞いてみた。
「アルテミスさんが乗り移っている時に、神の目をしているのは仕方ないとして、みつきさんも一時、神の目をしていましたよね。あれは何故ですか?」
私の質問に、アルテミスさんは、ワズが使っていた聖剣を召喚した。
「この聖剣の名はフレースヴェルグ。魂を司る聖剣です。この聖剣の能力は二つ。所有者に神眼を与えること、もう一つは先読みという能力。これを持っていたから神の目になっていたんですよ」
と、いうことは、ワズはその力を?
「使えませんでしたよ。彼はフレースヴェルグの力を使いこなしてはいませんでしたからね」
「みつきのさっきの強さは、その神眼ってのと、アルテミスさんのおかげなんすか?」
「それは違いますよ。あれはみつきが本来使える筈の力なんです。今までは闘気が邪魔をしていたんですよ」
「チッ。また差をつけられたっす」
よいやみさんは悔しそうですね。
「そんなことないわよ。よいやみちゃんの全力戦闘。あれをゼドラに使っていたら、勝っていたのはよいやみちゃんよ」
え?それって。
「よいやみちゃんはみつきちゃんとは違い、自力で神の領域に踏み込んだってことね」
神の領域。確か、凄い魔法って意味じゃ?
「こっちの世界じゃ、どういう意味で使われているかは知らないけど、私達の拠点のある世界では、神の領域はある一定の強さを超えた者をそう呼ぶのよ」
時の番人の拠点。よいやみさんはすでにその領域に入っている。私は?
「いつきちゃんは、まだ入ってはいないね。ゆづきちゃんもまだね。みつきちゃんは、ゼロの魔力を使いこなせればってとこかな」
私もまだ入っていない。黒姫一行をこれからも名乗るんなら、私もその領域に行かなきゃいけませんね。ゆづきちゃんは天才だから、きっと難なく入れる筈。私だけが踏み込めないかもしれないってことですか。
あれ?今の言い方だと、現時点でうちのパーティのなかじゃ、よいやみさんが最強ってことじゃ。
よいやみさんは、すごくご機嫌さんになっている。
「さて、これ以上はみつきの負担になるから、私は休むね」
アルテミスさんが目閉じると背中の銀色の羽がすぅっと消えた。みつきさんが目を開く。黒目だった。
みつきさんが目を開いた瞬間、よいやみさんがみつきさんのこめかみをぐりぐりし始めた。
「ぐ、ぐぅおおおおおおおおお!!!」
みつきさんがもがき苦しんでいる。
「さっき、バーカっていったのみつきっすよねー?しかも、あし達がアルテミスさんと入れ替わった、みつきを見て混乱している時に、のんきに寝ていたと?」
「ち、ちが……!!ご、ごめ、ごめんなさい!!」
よいやみさんの攻撃はしばらく続いた。
「さてと、私も帰ろうかな。みつきちゃん。アリスによろしくね」
「あ、はい」
アリスさんを知っている?あれ?もしかして……?
「じゃあね。また会いましょう」
セトさんは、空間の裂け目をくぐって消えていった。そうか、あの人が時の番人のトップの人なのか。
「さて、私達も帰りましょう」
「ちょっと待って」
みつきさんが転移魔法を使おうとした私を止める。
「どうしました?」
「ティタンの遺体。どうする?」
私達は、しばらく黙っていました。
「連れて帰ってやろうっす。陛下に見せるっす。陛下が決着をつけるべきっす」
そうですね。陛下には最後の仕事をして貰いましょう。
私はティタンの遺体に拘束魔法をかけ、空間魔法で特別な空間に収納した。
「さて、王都に帰りましょう」




