堕ちた勇者
「俺を、その名で呼ぶんじゃない」
失踪した勇者か。でも勇者がなんでティタンの悪事に加担しているんだ?
「俺は勇者を捨てた。ティタン様は勇者の俺でなく、俺自身を見てくれている」
俺自身?そんな事よりもあの聖剣、嫌な感じがするな。
僕は、国を裏切った勇者よりも、勇者の持つ聖剣の方に興味が出ていた。
悪に落ちた勇者でも、聖剣の力を引き出すことが可能なんだろうか?
「勇者。お前に聞きたい」
「なに?」
急に声をかけられた。こいつと話すつもりはないのに。
「お前はくじ引きという下らないものに、人生を振り回されて悔しくないのか?勇者というだけで、あの国のために命を懸けるほど、お前はあの国に恩でもあるのか?」
「ないね」
当たり前だよね。クジ引きなんて下らない方法で、勇者なんかに選ばれたんだから、恨みはあっても恩はありやしない。
僕があまりにあっさり答えを言うものだから、ワズは寝返るとでも思ったのか、僕を勧誘してきた。
「あの国を恨んでいるのならティタン様に付け!!悪いようにはしないぞ!!」
「嫌だね」
馬鹿じゃないの?勇者になるのが嫌なら、最初から断ればいい。僕みたいに断れなくするんなら、国はちゃんといい待遇にしてくれるんだし(してくれてたっけな?)。
僕が断ると思っていなかったのか、少し驚いているようだ。何故、話に乗ると思ったんだろうか?
「何故だ!!お前は、クジ引きで選ばれた事に腹が立たないのか!?」
「あのさぁ、腹は立つけどだからって、国を滅ぼしていい理由にはならないでしょ?アホじゃないの?嫌なら逃げりゃよかったじゃない。それとも僕みたいに、支度金も用意されてない状態だったの?その場合なら、勇者を断ることもできたと思うよ?あんたはバトスさんと違って、英雄でもなかったんでしょ?つまり、いてもいなくてもいい勇者だったんだよね?」
「バトスのような、あの男の腰巾着と一緒にするな!!!!」
あの男というのは、ティタンの弟でもある王様の事だろうな。
「でもさ、王様の腰巾着だろうと、バトスさんが、今まで身を削って国を守ってきたのは事実じゃない。それに比べて、あんたは自分の意志で勇者になって、それなのに国を守るのから逃げて今に至るんでしょ?」
「黙れ!!!」
ワズの聖剣の周りを、魂のようなものが漂う。
魂のようなものは、怨念めいた叫びにも似たうめき声をあげている。
「ゆーちゃん。魔眼であいつの剣を見て」
「うん」
ゆーちゃんの魔眼なら、あいつの特性を見れる。
「あれはこいつにころされたひとたち。あのけんがたましいをにがさないようにしてる」
魂の束縛!?こいつ分かっていてその聖剣を使っているのか!?
まさか、ティタンが魂を与える禁術を使うのに利用していたのは、この剣に束縛されている魂を利用したのか!!?
「あんた、その聖剣の特性を知っているの?」
怒りを抑えて、ワズに尋ねてみる。
「当たり前だ!!フレーズヴェルグは人間の魂を食い荒らすことができる!!ゴミのような人間の命を、ティタン様が有効に使っておられるのだ!!」
よいやみの殺気が膨れ上がっている。魔力も高まっている。
「よいやみ、ごめん、僕に譲ってくれるかな?こいつは勇者だから僕が始末をつけるよ」
「わかったっす」
よいやみは僕が戦うことを納得してくれたみたいで、魔力を収めてくれた。
僕は聖剣を構えた。闘気を軽く纏わせているので、刃部分が薄い金色に変わっている。
「お前も聖剣を使うようだが、まだまだ子供!!俺はこの聖剣を長年使っている!!年季が違う!!」
ワズは聖剣の力を解放した。
魂が聖剣に吸い取られ、聖剣が禍々しく赤く染まる。
「さて、4人でかかってきてもいいぞ?」
「いや、僕一人だよ?国を守るのも、自分で道を切り開くのも、どっちも嫌で逃げてた弱っちい勇者なんて、本来相手にもしたくないけど、あんたも一応は討伐対象になるからね。遊んであげるよ」
「貴様、俺を馬鹿にしているのか?」
「うん?馬鹿にしていないよ?あんたには、そんな価値すらないじゃない」
僕の挑発に、ワズは怒りで顔が歪んでいる。こんな小娘の挑発に怒るなんて、小さいプライドだ。
「使うつもりはなかったが、絶望を与えてやるぞ!!」
ワズは懐から取り出した、何かの薬を飲んだ。
薬を飲んだ直後、ワズの魔力が大きく膨れ上がった。何の薬だ?強化の薬?そんなのがあるなんて、聞いたことがないけど。
ワズは、剣を振り上げて僕に迫ってきた。正直グレンさんと特訓をしてきた僕からすれば、こいつの動きは遅すぎる。
「どうした!!どうした!!」
ワズは、剣技が得意らしく、何度も斬りかかってくる。僕はそれを受ける。
「反撃もできないのか!!」
「できるよ?」
反撃をして欲しいみたいなので、聖剣を持った方の腕を斬り落としてあげた。
「が!!!?」
ワズは何が起こったのか分かっていないのか、僕の前で呆然としている。
勇者相手に目の前で、呆然としちゃ殺されるよ?
僕は、ワズの首を狙って、避けれそうな速度で斬った。
「あ、避けられた」
流石に今のは避けられるか。腐っても勇者だからね。
「き、貴様!!何をした!!」
「なにって?あんたが反撃しろっていうから、反撃した。それだけ」
あんたが反撃しろって言ったんじゃん。なんで驚いてるの?
「くそ!!貴様、俺の剣技に押されてたんじゃ!?」
「遅すぎて反応に困ってはいたよ?」
「な!!?」
何をそんなに驚くんだろう?
「ぐが!!!!」
ん?ワズが苦しみ始めた?そういえば、さっきの薬って何だったんだろう?
僕が斬り落として無くなった腕の付け根から、嫌な気配を感じる。
いつきさんの方を見ると、首を横に振っていた。
「うがぁあああああ!!!!!」
切断面から腕が生えてきた。けれどあの肌の色は?
生えてきた腕は、浅黒い色をしていた。
僕はこの現象を見たことがある。リュウトに起こった魔物変化症と同じ現象だ。
ワズの頭から一本の角が生えてきた。
「ぐあぁあああああ。いい気分だ。これで俺はティタン様のために戦える」
ワズは、悪魔型の魔物に姿を変えた。これが、こいつが望んだこと?馬鹿じゃないの?
ワズが聖剣を拾い僕に迫る。さっきよりも速い。
「でも、まだ遅いよ?」
ワズの腹部を横に斬りつける。
斬りつけられたことに驚いたワズは、聖剣を高らかに掲げ上げた。
何処からか、無数の魂が聖剣に流れ込む。
「俺の中にある魂も力に変えろ!!」
「お前は人の命をなんだと思っているんだ!!」
「ティタン様の前では他人の命などゴミと変わらんわ!!!」
こいつ……久しぶりに、本気で頭にきた。
闘気を最大限に纏い、ワズに斬りかかる。
どれだけ強くなろうと、遅い!!
「がぁ!!な、なぜだ!!なぜ、こいつより、はや、速くなれない!?」
僕は、ワズを一方的に斬りつける。
「く、くそが!?や、やめろ!!お、俺はティタンさ、様のために!?」
剣を、胸に突き刺す。
「ぐはぁ!!な、なぜ、だ。た、たまし、い、をつか、ってもな、なぜつ、よ、くなれ、ない?」
膝をつくワズ。
「じゃあね。次の人生があるんなら、まともに生きなよ」
僕は、ワズの首を斬り落とした。
結局、他人の魂を使っても、全く強くなんかなってなかった。
ワズの首は、地面に落ちたあと砂のようになった。
ワズだった砂に聖剣が残されている。
「みつきさん。これどうします?」
人の魂を食う聖剣か……せめて、この剣の中にある魂だけでもどうにかできないかな?いつきさんにそれとなく聞いてみた。
「できますよ。浄化魔法を使えば、魂だけは浄化できます。聖剣の方はどうします?」
「聖剣は、僕が持ち続けるよ。僕が持っていれば、僕が悪用しない限りは安全だし」
「わかりました。みつきさんなら安心ですね」
いつきさんは聖剣に向かって、魔法を唱えた。魔法をかけられると、聖剣は淡く光りいくつもの魂が天に昇っていく。全ての魂が天に昇り切った時、いつきさんが何かに気付いたようだった。浄化が終わった後、僕の方を見て、優しい笑顔で僕に「みつきさん、信じられないかもしれませんが、この剣はまさしく聖剣です。大事にしてあげてくださいね」と聖剣を渡された。
詳しく聞くと、この剣に閉じ込められた魂は、聖剣によって守られていたと。聖剣に吸収されて肉体強化したわけじゃなく、あれは魔物変化症の結果だという事らしい。その証拠に、今、天に昇った魂は全てが安らかだったと。
そうか。だからワズは強くならなかったんだ。
僕は複雑な気分だったが、いつきさんが言うのならと、聖剣を異空間に収納した。
『 』
え?なにか、礼を言われたような気になったけど気のせいだろう。
僕達は、ティタンを倒すために城に足を踏み入れた。




