アリ姉の依頼
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流石は町一番の宿屋だ。疲れも癒えたし、朝ごはんも美味しかった。
僕達は満足な気分で宿を出た。
宿から出ると、馬車が止まっていた。
馬車の前には白銀の鎧を着た、一人の兵士が立っていた。
兵士はエリザを見ると、照れるように目を逸らした。
「エリザ、本当に人気なんだね」
エリザは「知らないよ。お城じゃ声もかけられないのに」と言っていた。
白銀の鎧は、母ちゃんの所属の兵士だそうだ。
白銀の騎士は、照れつつも僕達に「将軍からの命令で、勇者黒姫を迎えに行け」と命令があったそうだ。
僕達は、馬車に揺られて、王城へと向かった。
「大きな門ですね」
いつきさんが、目の前の門に注目する。
魔王城を囲むようにある外壁の門だ。空を飛ぶ魔物にも対応できるように、高く設計されているそうだ。空を飛ぶのなら、あまり関係ないと思うんだが。
あの門はめったに開かれることはない門だ。それこそ、大事な客が来た時にしか開かないとゼクスさんに聞いた。普段は小さい扉があるのでそこから、出入りするんだけど。
その門が、大きな音とともに開いた。
「え?なんであの門が開くの?」
僕が驚いていると、兵士の人が「いつもはみつき様が遊びに来ているだけですが、今回はアロン王国の特使としてヴァイス魔国に来ていると聞いています。だから、正式に来賓として扱われるそうです」という事らしい。まったく面倒な。
門を馬車でくぐると、ずらっと道沿いに並んだ兵士が一斉に敬礼をする。
「うわっ、これ昔を思い出すっすね」
そういえば、よいやみは元・お姫さまだっけ?
「あんたも、昔は王族としてこんな扱い受けたりしたの?」
「そうっすね。あしは、末の子供だったから、こんな式典には行くことはなかったっすけど、うちの国に大事な客人が来るときは、うちも盛大にやってた筈っす」
王族も大変なものだね。
馬車から降りると目の前にずらっと並んだ兵士が一斉に楽器を取り出す。
兵士たちはいろいろな楽器を演奏しだした。これが歓迎の式典だそうだ。
演奏が終わると、兵士たちが左右に分かれて、真ん中にはゼクスさんが立っていた。
髪の毛のことが心配だったが、まだ大丈夫なようだ。だけど、しっかり進行はしているようだ。
「久しぶりですな。こちらへどうぞ」
ゼクスさんは、他人行儀で僕達を案内してくれた。
「すまないな。今回ばかりは、特使として扱わねばなるまい。しばらく窮屈だろうが我慢してくれ」
ボソッといつも通りの口調で話してくれた。
王城の中に入ってすぐに、エリザは仕事があるからと別れ、僕達は豪華な部屋に案内された。
「豪華な部屋ですね」
いつきさんが、周りをキョロキョロしている。
「いつき、田舎者臭いっす」
「いや、私はただの町民ですからね?貴女のような王族じゃないから落ち着かないんですよ」
「あしだって落ち着かないっすよ。ガストは結構雑っすからね」
ゆーちゃんが豪華なソファーで寝ようとしている。
「あー!!ゆーちゃん寝ちゃだめだよ!!」
僕が止めようとすると可愛い顔で眠そうにする。
「ねむい」
そんな顔で言われたら、許すしかないじゃないか。
「まぁ、いいか」
「良くないですよ!!」
いつきさんに怒られた。
暫く寛いでいると(実際は緊張して、寛げなかったけど)母ちゃんが部屋に来た。
「みつきちゃん、お母さんの姿に驚いた?」
母ちゃんは、強そうだけど奇麗で体のラインが出る美しい鎧を着ていた。持っている剣は聖剣(?)かな?
「母ちゃん、将軍なんだってね。エリザから聞いたよ」
「そうなのよ!エリザちゃん、なんで言っちゃうかな!」
母ちゃんは、この部屋でばらして僕の驚く顔が見たかったらしい。
ちょっと膨れた顔をしている、母ちゃんに連れられて謁見の間へ移動させられた。
「みつきちゃん、アリスちゃんが王座に座っているけど、いつも通りはだめだからね。彼女は、この国の女王様なんだからね」
むぅ、国が絡むと、何かとめんどくさいよね。
よいやみの方を見ると、ちょっと緊張している様だった。逆にいつきさんは落ち着いていた。
謁見の間に入った僕達は、息をのんだ。
玉座に座ったアリ姉は、いつもと違った。
「勇者みつきよ、よくいらっしゃいました。私がヴァイス魔国、魔王アリス・ヴァイスです。アロン王国国王レオン・アロン殿からの書簡があると聞きました。ヴァイス魔国つきの将軍に書簡をお渡し下し…さい」
噛んだ!!アリ姉無理してる!?
母ちゃんの方を見ると、笑いをこらえている顔になっている。ゼクスさんは不機嫌な顔だ!!
「ゴホン!書簡を」
ゼクスさんの咳払いで僕は慌てて、王様から預かった書簡を母ちゃんに渡す。
母ちゃんが、アリ姉に書簡を渡す。
「勇者として、魔族と人族の友好について、どう考えているか個人的に話を聞きたい、つきの、勇者黒姫一行を迎賓室に案内してくれ。私も後程、そちらに行く」
アリ姉がそう言うと、母ちゃんと謁見室を後にした。
「ふぅ、アリ姉、いつもと違って、魔王様していたなぁ」
「やはり、威厳がありますね」
僕は緊張していたのか、背中が汗でびっしょりだった。
「しかし、アリスちゃんには笑ったわよねぇ。あそこで噛むんだもの」
母ちゃん、アリ姉は母ちゃんの主でしょうが。笑っちゃダメでしょうよ。
僕は笑う母ちゃんについて行った。
案内された部屋は、さっき待っていた部屋よりもさらにご豪華な部屋だった。
「えっと、どこに座ってたらいいのかな?」
これだけ豪華だと、どこに座っていたらいいのかわからなくなる。
「上座さえ空けていてくれていれば、どこでもいいわよ」
母ちゃんは軽く言う。
「アリスちゃんなら、上座に座っていても何も言わないだろうけど、ゼクスさんが煩いからね」
「つきの、誰が煩いんだ?」
母ちゃんの後ろには、怒り顔のゼクスさんがいた。
「やだなぁ、冗談じゃないのよ」
ゼクスさんは、呆れ顔でため息を吐いた。
「みつき、悪かったな。貴族どもを黙らせる必要があったんで、あんな形になったんだ」
ゼクスさんの髪の毛が危機的状況になるのは、アリ姉のせいじゃなかったのか。
「しかし、あれだな。みつきもみつきの仲間も強いな。ヴァイス軍でも上位に入るほどの強さだ」
ゼクスさんに褒められた。この人、人を褒めるとかするんだ。
「なにか、失礼なことを考えていないか?」
心を読まれた。
「ところで、アリ姉は?」
「あぁ、謁見の間で着ていた服が鬱陶しいとかで着替えてくるそうだ」
確かに、アリ姉はいつもラフな格好をしてることが多いけど、今日はドレスだった。
「お待たせ~。ゼクス~。書簡の返事を書きたいから、ペンと便箋を持ってきてくれる~」
アリ姉は、いつものようにラフな格好で現れた。
「馬鹿娘!!語尾を伸ばすなと、いつも言っているだろうが!!そんな事だから、今日みたいに噛むんだ!!」
「うるさいわね~。そもそも、ゼクスが睨むから、噛んじゃったんじゃない~」
アリ姉はそう言って、ゼクスさんを睨む。
「それにしても、みつき達強くなったわね~。見違えたわ~」
強くなったといっても、アリ姉に比べたらまだまだ弱いと思う。
「そういえば、ゆづきちゃんの所に時の番人が来たんだってね~。大丈夫だった~?」
なんで、アリ姉が知っているんだ?もしかして監視でもされてた?
「みつき~、もしかして監視していたとでも思ってる~?酷いわ~。そんなことしていないのに~」
心が読まれた!?
「な~んてね~。セトから聞いたのよ~」
セト?誰だそれ。
「セトはね~。時の番人の実質のトップよ~」
「な!!?」
と、時の番人のトップ!?アリ姉、時の番人のトップと知り合いなの!?
「ワタシはセトから、いくつかの魔法を教えてもらったからね~」
セトという人は、時の番人の中でも最強の魔法職と言われているそうだ。ほぼすべての禁術を使いこなせるらしく、彼女を手に入れたものは、全世界を手に入れることができるらしい。
だけど、そんな人を手に入れるとか、できるわけがないと思うんだけどな…
「まぁ、その事はいいとして~。アロン王国での、会談の事だけどね~。ワタシ達は、いつでも行けるわよ~。けどね~?」
ゼクスさんにも確認を取ったが、日程や移動手段は問題ないらしい。
ただ、人魔王ティタンが邪魔だそうだ。こいつを野放しにしていることを、ヴァイス魔国の貴族どもがいちいち喧しいらしい。
「その人達も力を持ってる魔族なんすよね?邪魔なら、その貴族の人達がやればいいっす」
よいやみの言うことは尤もだ。だけど、ゼクスさんが言うには、その貴族達は、戦闘能力はほとんど無いらしく、ただ、権力と文句を言う口だけを持っている連中だそうだ。
「どこの貴族も一緒っすね。うちの国もそんな奴らいたっすよ」
やっぱりどこの国にもいるらしい。
「ということで、サクッとティタンを討伐及び捕縛してきてくれないかしら~?」
サクッとって。僕達にそれができるんだろうか。ティタンの強さもわからないのに…
「ワタシからの依頼だと思ってね~。ちゃんと報酬も渡すわよ~」
報酬と聞いて、いつきさんの目が光った気がした。
僕は、いまいち自信が持てないんだよなぁ。
「やる前から弱気でどうするんすか!!みつきは、勇者黒姫なんすよ!!」
「みーちゃんつよいからだいじょうぶ」
「みつきさん、サクッと殺ってさっさと王都に戻りましょう。お金儲けが待っています!!」
いつきさんだけは、思いっきり自分の都合だけど。
「わかった。ティタンを倒しに行ってくるよ!!」
僕達は、人魔王ティタン討伐に向かうのだった。




