英雄バトス
「しかし、転移魔法ってのは、すげえ便利だな。さっきまで、魔大陸にいたのにもう王都だよ」
空間魔法を覚えたルルの頭をポンと叩く。ルルは何故か、顔を赤らめる。
なんだ?恥ずかしかったのか?照れることじゃないだろう。本当に凄ぇんだからよ。
「こうやって、無自覚に女を虜にするんじゃこの男は」
「全くです」
はるとよしおが二人、でため息を吐いている。
何を言っているんだ?おいクレイザー、そんな顔で睨むな。
俺達は、報告もかねて冒険者ギルドに入っていった。
ギルドの中がいつもより騒がしい。何かあったのか?
俺は、慌ただしく走る冒険者を捕まえた。
「おい!何があった?」
冒険者は俺の顔を見て、驚いた後に泣きそうな顔になっていた。
「バトス様!!」
冒険者の声に、ギルド内の人間が一気にこちらを見る。
ギルドのサブマスターのリリアンが、こちらに走ってきた。
「バトスさん!!戻ってきていたんですか!?」
「あぁ、で?この事態は一体なんだ?」
リリアンによると、魔物の大群が王都に向かってきているそうだ。
さらに聞くと、フォズという、みつき達が捕らえたティタンの腹心が逃げたそうだ。
「みつきちゃんは魔大陸。バトスさんもどこかに行っていたので、ギルドにいる人を総動員してでも、魔物の討伐に出ようとしていました」
「陛下には言わなかったのか?」
いつきの話では、ハインという女が王都を守るために、残っているという話だったが。
「はい。しかし、軍は動かせないと。でも大群はそこまで来ていますし」
陛下は、魔王を信じるためにそう言ったか?いや違うな。
「ルル!俺を陛下のもとに送ってくれ!!」
「え!?」
リリアンはルルが転移魔法を使えることを知らない、か。
「はい」
ルルが魔法陣を召喚すると、俺達二人が光に溶け込む。
「クレイザー!街のどこかにハインという女がいるはずだ!!探し出しておいてくれ!!」
「わかったよ!!」
クレイザーの生体感知なら、ハインを簡単に見つけられるだろう。
光が止むと、俺達は陛下の部屋に転移してきたようだ。
「バトス!戻ってたのか!!」
「魔物の大群が迫っているという事だが?」
「あぁ、いつきの言葉を信用するのなら、俺達には何も出来ん。無駄に被害を出すだけだ」
陛下はこの報告を受けてから、あまり休んでいないようだな。
「ルル、いつきに貰った、あのポーションの原液を陛下に飲ませてくれ」
ルルは陛下の前に、どす黒い液体の入った小瓶を置く。
「お、おい。なんだこれ?」
「黙って飲め」
「いや!!おま!!これは飲んじゃダメな色だろう!!」
「騙されたと思って飲め」
陛下は、嫌そうに小瓶を持つ。
「ささ、グイっと」
早く飲めよ。男の子だろう?
陛下は小瓶の中身を飲む。
「ぐはぁ!!!!まっず!!!」
まぁ、その反応は仕方がない。俺もそうなる。
だが、陛下の顔から疲労感がなくなる。
「体の疲れは多少とれたが、精神的には逆に疲れたぞ」
少し元気になった陛下に俺は宣言した。
「陛下。王都は俺達が守る。ハインには手は出させない」
「何を言ってるんだ!?確かに俺達が守れないとなると、交渉の上でも不利になるかもしれん!!だが、そんなちっぽけなプライドより、俺は国民の命の方が大事だ!!」
やっぱり、無駄に犠牲を出さない為にハインを全面的に信用したんだ。最悪、責任は自分がとるために。
これが陛下のいい所であり、王族としては欠点だと思う。
だが俺は。
「陛下。英雄を信じろ。黒姫程は頼りにはならんとは思うが、俺を信じろ!!」
「バトス…」
陛下は俺の顔をじっと見ている。
陛下と話をしていると、クレイザーとメイド?が転移してきた。
クレイザーは転移魔法が使えないので、このメイドが転移魔法を?
メイドは、貴族の挨拶であるカーテシーをして自己紹介をした。
「初めましてレオン陛下、私はヴァイス魔国アリス・ヴァイスの腹心。ハイン・ブラッドと言いますわ。種族は吸血姫ですわ」
このメイドが!?
いや、見た目で判断できないのは、魔大陸のあの村で充分味わったじゃないか。
ん?クレイザーの顔が腫れているように見えるのだが?
「おい、お前何かしたのか?」
「え?いや。ははは」
こいつ、何かしたな。
「この変態は、人を見るなりお尻を触ってきましてね。ちょっとお仕置きをしました」
ルルが、クレイザーを汚いものを見る目で見ている。
「い、いや!!あれは事故で!!?」
「はい?」
「ご、ごめんなさい」
俺は、ハインに状況を説明して、魔物の討伐は自分たちがすることを話した。
「わかりましたわ。私は、背後を守りましょう」
「わざわざ、残ってもらっていたのに済まないな」
「いえ、観光は楽しめましたので」
俺達が軽く話しているのを、陛下は少し呆れて見ており「信じていいんだな?バトス」と言ってきた。
確かに、魔大陸に行くまでの俺なら、死ぬ気で戦うしかないと思っただろうな。けれど今は。
「負ける気は全くしねぇよ」と自信を持って言える。
俺はよしおとはるを迎えにギルドへ戻った。
「私はここで待ちますわ。もしもの時は、いえ、今の貴方達には不要かもしれませんね」
「あぁ、リリアンお前もついてきてくれ。大群がいなくなったという証人が必要だ。戦う必要はない。よしお!はる!行くぞ!!」
俺達は、ルルの魔法で大群の前方へと飛ばされた。
「とりあえず、リリアンさんはここにいてくださいね。七色結界!!」
リリアンの前に虹色の薄い膜が現れる。これが、異世界の魔王に教えてもらったという結果魔法か。
「これで何があっても、魔物はこれより先に行けません」
次によしおが前に出る。よしおは、自分よりも大きな斧を持っている。いつきから受け取った斧だ。なんでも、ゆづきが強化したゴブリンの持っていた斧らしく、オリハルコンでできているらしい。
「うらぁあ!!!」
よしおが一気に斧を振り下ろすと、目の前にいた魔物が数十体吹き飛んだ。
吹き飛ばされた魔物は、塵となって消えていく。
なるほど、あの遺跡と一緒か。俺は生体感知で反応を確かめる。
「いた。あの大群の後方か。はる、俺が行っている間、あの魔物を殲滅しきれるか?」
今は無理だねぇ、あの二人が暴れているからねぇ。というか、あの二人で充分だろうねぇ。
魔物は確実に、数を減らしている。よしおとクレイザーが順調に数を減らしているようだ。
「まぁ、いいか。俺は、フォズを倒してくる。ルル、後方へ飛ばせるか?」
「はい!!」
俺は、ルルの魔法でフォズがいると思われる場所へと飛んだ。
俺の少し前にフォズが立っている。なんかくねくねしてねぇか?
「くはははは!!!!許しませんわよ!!!あの男を!!!私の純潔を奪った!!!!この国を!!」
こいつ…なんかオカマっぽくなってねぇか?そういや、拷問官の中に男色のやつがいたなぁ。
「しかし、何故!!数が減っているのですか!?まさか、あの小娘ども!!!」
「違ぇよ。俺の仲間だよ」
フォズは、急に声をかけられて驚いたのか、ものすごい勢いで振り返ってきた。
「お、お前は!!?」
俺の姿を見たフォズは、吹き出すように笑った。
「英雄バトスさんじゃなぁい!!私の研究施設でヘルハウンドごときに殺されかけていた。何しに来たのぉ?」
「あぁ、お前を殺しにな」
俺は聖剣ティールを召喚する。俺も、この剣にようやく認められたな。今まで、真の力も引き出せずにすまんな。
「お前ごときが私を!!!?馬鹿にするのもいい加減にしなさい!!!」
フォズが俺に襲い掛かってくる。
遅い。
いや、二週間前の俺になら速かったかもしれんが、今の俺には遅く感じる。
俺は、フォズの首を掴んだ。
「あと、お前は何回死ねるんだ?」
そう言って、フォズに剣を突き刺す。
フォズは苦しそうにもがく。
「心苦しいが、身動きを取れなくさせてもらうぞ」
フォズの四肢を切断する。
身動きの取れないフォズは、もがいているがまだ殺すわけにはいかない。
「さて、お前は、あの拷問部屋に逆戻りだ」
フォズの顔は絶望に染ま…ることはないようだな。恐らく切り落とした四肢か。
「残念だったな」
俺は、聖剣の力を使って、四肢を塵に変えた。
「いやだぁああああああああああああああ!!!!!!!」
切り落とされた四肢が最後の希望だったのか、フォズは絶叫を上げた後、泡を吹いて気絶した。
俺は、フォズの体に再び聖剣を刺し、仲間の所に戻った。
俺が戻るころには、全ての魔物が塵にかえられていた。
リリアンが俺達を見て驚いている。
四肢のなくなったフォズをはるの拘束魔法で動けなくして、よしおが担いだ。
「さて、戻るか」
俺達はルルの魔法で、ギルドへと戻ってきた。
ギルドに戻った後、リリアンがギルドに魔物討伐完了の報告をいれた。
俺達が討伐したという事がギルド全体に広まり、バトスコールが起こっていた。正直、恥ずかしいのだが。
その光景をクレイザーが歯をギリギリ言わせながら、睨んできていやがる。
だから、その目を止めろ!!
俺の周りに、女性冒険者が集まってきた。こんなおっさんに何の用だ?
そんなことを考えていたら、ルルが俺の腕にしがみついて「バトスさんの伴侶は私です!!」と大声で言っていた。いや、ルル!!何を言ってるんだ!?
「お楽しみのところを申し訳ありませんが」
ハインが俺とリリアンに声をかけてきた。
周りからは「誰だ?あのメイド」「めっちゃ美人さんじゃないか!?」「ルルちゃんだけじゃなく、あんな美人さんまで」といろいろ聞こえてきた。いや、違うぞ。このメイドは、俺達よりもはるかに強いんだぞ?
「リリアンさんでしたか?アロン王国国王にお伝えください」
「え?なぜ私に?」
「未来の王妃と聞きました」
「いや、あの」
「こほん。今、アリス様から言伝がありました。勇者黒姫がティタンの討伐に向かったと」
ハインの言葉に、ギルド内が静まり返る。
「おそらく近いうちに、ティタンは討伐されるでしょう。バトスさんもそう思いますよね?」
急に俺に振られても困るが…そうだな、みつき達が負けるところは想像もできないな。
「あぁ、あいつらは俺達よりも更に強い。問題ないだろう」
俺の言葉に、ギルド内は歓声が沸いた。
「さて、俺達は陛下に報告に行くとしようか。ハインは帰るんだろ?みつき達によろしく言っといてくれ」
「わかりました」
ハイン転移魔法を使って魔大陸に帰っていった。
さて、俺達も陛下のところに、戦勝報告に行くとするか。




