生存本能
「母ちゃん、お帰り」
僕は、焦って部屋に入ってきた母ちゃんに、軽く挨拶をした。
「ただいま!みつきちゃん。勇者に選ばれたと聞いたときはびっくりして、お父さんに三日間ご飯抜きのお仕置きをしちゃったわよ」
じいちゃん、そんな目にあっていたのか。ざまぁみろ。
「それよりも、時の番人がここにいる気配がしたわ。どこ?」
「さっき帰ったけど」
「そう…で?みつきちゃん、何か聞いた?お父さんの事とか」
僕は、話していいものか悩んだ。そんな僕を、母ちゃんが見逃すわけがなかった。
「聞いたのね。元・時の番人だったということ、死の病についても」
母ちゃんは少し悲しそうな顔をしていた。
「まぁ、それはいいわ。あいつらがここに来た理由は何だったの?」
僕は、ゆーちゃんの使う魔法の事、いつでも時の番人を呼び出せる指輪を渡された事を説明した。
「その子が、無限の魔力持ちで、尚且つ甦生魔法、即死魔法持ちか。時の番人からすれば、脅威とまではいかないか」
あれ程の強さなら、脅威になることなんてほぼないよね。
その日の夜は、久しぶりに母ちゃんの手料理を食べて、お腹一杯になった。うん、やっぱり故郷というのはいいものだね。
次の日、母ちゃんもゆーちゃんを気にいったらしく、ゆーちゃんを連れてどこかに出かけて行った。
いつきさんも、魔法具屋に行ったので、僕は暇になった。
「んじゃ、今日もボコボコにされてくるっす!!」
そういって、よいやみが特訓に向かおうとしたので引き留めてみた。
「なんすか?」
「ボコボコにされに行くっていうから、そういう趣味でもあるのかなって?」
「いや、ないっすよ!?行かないと、もっと酷い目に合うっすからね」
僕は、よいやみがどんな特訓をしているのか興味が出てきた。
「ねぇ、よいやみ。僕も特訓について行っていい?」
よいやみは、少し考えると「かまわんっすよ」と言った。
よいやみについて行った先は、村から結構離れた森の中で、凶暴な魔獣の多いところだ。
暫く進むと、森の開けたところに、グレンさんが立っていた。
「む?拳神殿のお孫さんではないか。どうしたんだ?」
「一緒に修行したいそうすっすよ」
いや、僕は暇だから来ただけで、そもそも二人は武器が体術で、僕は剣だ。流石に一緒には修行はできないだろう。
「よかろう」
え?いいの?
「みつき、あの熊には常識は通用しないっす。本気で行くっすよ」
よいやみは、全身に魔力を纏わせた。
一気に踏み込んで、グレンさんに向かっていく。
僕も聖剣を取り出して、闘気を纏わせる。
グレンさんは、よいやみの攻撃を涼しい顔で避けている。
「ほれ、拳神殿のお孫さんもかかってくるといい」
僕は遠慮なく、よいやみの好悪劇によって生まれた隙を狙って斬りかかる。
全然当たらない!?
「みつき!手を休めたらダメっす!!」
え?僕が一瞬目を離した時には、目の前に拳が迫っていた。
僕は何とか避けはしたが、それだけで終わらない、次は蹴りが来る。
よいやみは!?
よいやみも、グレンさんの攻撃を必死に避けている。
暫く攻撃を必死に避けていると、急に攻撃が止んだ。
「よぉーし!!準備運動はここまだ!!」
グレンさんの魔力が深く重くなっていく。
「みつき、疲れてないっすか?ここからっすよ、本当の地獄は」
そう言われると、帰りたくなる。蛇に睨まれた蛙みたいなものだ。
グレンさんは急に、叫びだした。いや、叫びというより獣の咆哮に近い。
グレンさんの咆哮の後、森が騒めきだした。
「みつき、ここからは魔獣も襲ってくるっす。魔獣を捌きながら、あの熊と戦うっす」
ちょ、ちょっと待って。あの人の強さって、僕と同じヒヒイロカネと思えないんだけど?
グレンさんの魔力は、更に深みを増す。この威圧感、時の番人と殆ど変わらない!?
「あしが、地獄といった意味が分かったっすか?」
「うん、ここからは確かに地獄だわ。あんた、この二日間よく生きてたね」
「まぁ、殺されはしないっすからね」
僕とよいやみは、震える体を抑えて構えた。
魔獣の気配が近くまで来ている。
魔獣グレートビースト。オオトカゲのような魔獣。魔大陸でも上位に入る魔物だ。
僕とよいやみは、迫るグレートビーストを全て一撃で仕留めながら、目の前の化け物に全力の攻撃を繰り出す。
フォズの研究遺跡を吹き飛ばした一撃だ。
よいやみは、全ての魔力を拳に集結させている。
僕の一撃は、グレンさんに簡単にかき消された。だけど僕は囮、本命はよいやみの拳だ。
よいやみの拳が、グレンさんの腹部にめり込むように入る。
グレンさんは吹き飛ばずにその場に立っている。かといって、腹部に穴も開いていない。
「ふむ、いい攻撃だな」
き、効いてない!?
「この熊は化け物っす」
フラフラになったよいやみがよろける。
グレンさんがここまで強いと思わなかった。じゃあ、この人に勝ったじいちゃんは一体?
「グレンさん、一ついいですか?」
「なんだ?」
「じいちゃんと戦ってるときは、本気じゃなかったんですか?」
「む?本気だったぞ?あの御仁は俺よりも、はるかに強かったぞ?」
嘘!?じゃあ、じいちゃんは僕相手には本気を出していなかったのか…
僕達は、ひっきりなしに襲ってくる魔獣を相手にしながら、グレンさんと対峙した。
グレンさんの攻撃はどれも重く、受けるだけで意識が飛びそうなものだった。
魔獣の相手は、全て一撃で倒せるように、急所を狙う。よいやみも同様に魔獣を倒している。
「ははは。いつの間に魔力を体に纏わせる事を覚えたのかと思っていたが、みつきの闘気を纏う力を真似たのか、やるじゃないか。よいやみ!!」
「褒められたっすよ」
よいやみは、今の状況なのにニヤニヤ笑っている。
熊だのなんだの言ってはいるが、褒められると嬉しいのか。
しかし、戦っていると気付かされる。グレンさんは、魔獣には攻撃を当てているが、僕達には、直撃しないように攻撃している。
同じヒヒイロカネでも、ここまで差があるみたいだ。
「みつき、ほいっす」
よいやみが、あの草汁を渡してきた。
「疲労が溜まると、師匠の攻撃なら直撃でなくとも、致命傷になりかねないっす。確かに、苦いっすけど飲んでおくっすよ」
僕は、草汁を飲んだ。
最悪だ。後味が最悪だ。
でも、疲労感は無くなった。
日が暮れるまで、グレンさんに特訓して貰った。
「よぉし!!ここまで!!」
グレンさんが終わりの合図を出した時には、僕とよいやみはへとへとで動けなかった。
「みつきによいやみ。この特訓の意味が分かるか?」
特訓の意味か…「熊の嫌がらせっす!!」ってそれは違うだろう。
案の定、グレンさんに小突かれるよいやみ。
「みつきはどう思う?」
うーん…どうなんだろう?
……………………
……………
あ!!
「乱戦の時に強いのがいた場合の対処法?」
「うーん、そこまで考えなくてもいいぞ。俺がこの特訓をやっている理由は、生存本能を高めるためだな」
生存本能?どういうことだろう?
「普段なら、魔獣と戦うのに本気なんて出さないだろ?冒険者を長くやっているとな、中途半端に強い奴ほど油断をした結果死ぬんだ。昔あったのは、オリハルコンのやつが王都の弱いゴブリンに殺された。お前達は、勇者一行である以上、様々な奴らと戦うことになる。油断で下らん死に方をするくらいなら、圧倒的な力で敵を寄せ付けなければいい。狩りの時だけ、手を抜いて油断させるのは反対しないがな」
普段の油断と、手を抜く意味での油断か…難しいな。
「ははは。じゃあ、二人ともまた明日な」
そう言って、グレンさんは森の奥へと帰っていった。
「みつき明日も来るんすか?」
「グレンさんの言い方だと行かなきゃいけないでしょ?」
「明日もよろしくっす」
「うん」
僕達は倒した魔獣に浄化の灰をかけて回った。
いつきさんに見せたら喜ぶかな?
「帰るっすか」
「うん」
僕達は疲れ切った体で、トボトボ家へと向かった。
よいやみは魔力を纏う事ができなかったのを忘れてましたw




