時の番人
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僕は思いっきり踏み込んで、男に斬りかかる。
この距離なら、避けることは出来ない筈だから、受け止めるか何かする筈。
あれ?男は、全く動こうともしない。なんでだ?
「不思議そうな顔をしてるな。答えてやるよ」
「え?」
「動かないのは何でかだろ?避ける必要がないからだ」
僕は、剣を斜めに振り下ろす。男は避けようともしないが少しだけ動いた。そして、剣にそっと触れた。
嘘だろ?
最小限の動きだけで僕の剣の軌道を逸らされた。
「ほぅら!!何をぼーっとしてるんだ!!」
男が、僕の剣の刃部分に蹴りを入れた。
重い蹴りだ。
流石は聖剣、折れることはなかったけど、僕の手が痺れてしまって、剣を落としてしまった。
しまった!?
僕は、全身に闘気を纏う。
込められるだけ込めてやる。
「おいおい。そんなに、体に魔力を込めたら壊れちまうぞ?」
「うるさい!!」
僕は全力で蹴りかかる。
僕の全力の蹴りは、男に簡単に受け止められてしまった。
これでもダメなのか?
僕は急いで離れる。
「さて、お前らに限界の向こう側って奴を見せてやろう」
限界の?どういうこと?
男は、魔力を更に解放した。
お、重い!?
足がすくむ。
僕は堪らず、膝をついた。
ここまで、差があるのだろうか!?
立ち上がれない。
「それが、俺達時の番人とお前らの差だな」
く、くそ!?
このままじゃ、ゆーちゃんを守れない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「!?」
男が後ろに下がった!?なんで!?
「へぇ、覚醒もまだでその強さかよ。将来が楽しみだ…ぶっ!!?」
「お前は何をしておる?」
「いってぇ…って三番!?」
三番?そういえば、この男は八番目と名乗っていた。
男を殴ったのは六十歳くらいのお爺さん。男と同じで白いコートを着ていた。
「この娘が、セリティアのお気に入りか?流石はシンの娘じゃな」
また、お父さんの事を?
「嬢ちゃん、わしらは戦いに来たわけではない。そこの小さいお嬢ちゃんに、甦生魔法を使い続けることの恐ろしさを、教えておこうと思ってな」
男とお爺さんを僕の家まで案内した。
お茶を出すと、お爺さんは一気に飲み「うまい茶じゃのぉ」とご満悦だった。
「さてと、何が聞きたい?」
男が茶を飲みながら、聞いてきた。僕が聞きたいこと…
「まずは、ゆーちゃんは粛正対象じゃないの?時の番人は、禁術を使うものには容赦がないと聞いたから、ゆーちゃんもその対象なのかと思った」
「あぁん?誰がそんなこと言ったんだ?」
「それは魔法具やのおばちゃんが…」
男は少し考えてから「あぁ!!あの空間魔法使いか!?」と言った。どうやら、おばちゃんのことを知っているようだ。
「あいつの場合はな、最初の接触の時に、俺達に宣戦布告をしてきたという背景があるんだぞ?そうでもなきゃ、俺達だって人だぞ?いきなり、人を殺しにかかるかよ」
お、おばちゃんが宣戦布告?あの優しいおばちゃんが?
「当時、あの女を追っていたのは俺だ。そして、あの女に一番被害を受けたのも俺だ。というか、上位の魔法職という奴は、自分の魔法の研究のためならば、なんでもしやがるからな」
ということは?ゆーちゃんが襲われる心配はないという事?
「それは保障は出来んよ。もし、このお嬢ちゃんを手に入れた国が、悪に染まった国の場合は、国を滅ぼすよりも嬢ちゃんを始末、もしくは封印した方が早い場合、もしくは、お嬢ちゃんが自分の意志で、世界を混乱させようとした場合は、容赦なく粛清させて貰う。我々は、世界の調停者でなくてはいけないからな」
僕は息をのんだ。
この人達は、使命のためなら、感情を殺して人を殺すことを、正当化できる人達なんだ。
「お前が、俺達の事をどう考えているのかは分からないが、俺達だって、無抵抗な人を殺したいわけじゃない。だからこうやって、お前らと会って警告したりするんだ」
「ただいま帰りました」
いつきさんが、魔法具屋から帰ってきた。
「あれ?どちら様ですか?」
「時の番人」
「え?」
僕の言葉に、いつきさんが凍り付く。
「まさか、ゆづきちゃんに粛正を!?」
「本当に、お前らは俺達を殺人集団にしたいんだなぁ…一応言うが、お前の親父も元・時の番人なんだぞ?」
そういえば、さっきそう言っていたな。いつきさんが驚いて、僕の方を見る。
僕も聞いた時は驚いたよ。
「お父さんは、なぜ時の番人を辞めたの?」
お爺さんの話では、僕がお母さんのお腹の中にいることを知って、一緒に生きていくために、時の番人を辞めたそうだ。とはいえ、疑問に思ったのだが、何故辞める必要があったのだろう?
それに関しては男が教えてくれた。時の番人になるには、圧倒的な強さと感情を押し殺す事が出来る人物でないと、勤まらない。
そんな人物は、滅多に現れない。それこそ数十年、下手をすれば数百年、現れないかもしれない。そうなれば、世界の調停者である時の番人は成立しなくなってくる。
それを避けるために、禁術の一つに、歳を取らなくなる呪いに近い禁術をつかわれるそうだ。
当然、その禁術を受ける以上、時の番人の任務を必ず実行しなければいけなくなる。
「んで、歳を取らない禁術は呪いに近いといったが、時の番人をしている間は問題ない。ただし、抜けるとなったときには話は別だ。その禁術の反動として、体のどこかに異常が出る。これは確実にだ」
ということは、お父さんもどこかに異常が出た…から、早死にしたの?
「シンの場合は、最悪にも死の病を発症しちまった」
死の病。聞いたことがある、治療法が今のところはなく、禁術の重ねがけの上、一定確率出ないと治ることのない致死率の高い病。原因は神罰とも呪いとも言われているけど、まさか、お父さんがその病で死んでるなんて。
「お前の母親は、自分のせいでシンが死んだと思っててな、俺達も言ったんだ。あいつは自分で望んで、禁術を解いたと、誰も悪くないといったんだがな」
そんなことがあったのか…
「さて、わし等もそろそろ帰ろうかの。八番、帰るぞ」
そう言って、お爺さんは立ち上がった。
「待てよ!!ここに来た目的は、シンの話じゃなくて、そっちのちっこいのに話があるからだろ?」
「忘れておったわ。お嬢ちゃん、単体に嫌がらせに使用するなら、問題はないが、大規模に使う場合は、わしらに相談してくれるかい?」
相談と言っても、どこにいるかもわからないのに…
「シンの娘!この指輪をもっておけ」
「これは?」
「それに念じれば、時の番人の誰かが向かう。ちっこいのの話は俺や三番が他の奴等に話をしといてやる。安心してくれ」
「じゃあ、つかうときはみーちゃんにそうだんする」
「そうじゃ、いい子じゃのぉ」
お爺さんは満足したのかゆーちゃんの頭を撫でていた。そのあと、男を連れてフッ消えた。
驚いたが文字通り消えたので、転移魔法か何かだろう。
「転移魔法にしては、発動を感じさせない魔法でしたね」
空間魔法使いのいつきさんが見ても、異常なほどの消え方だったらしい。
「帰ったっすよー!!」
よいやみが能天気な声で、帰ってきた。昨日と違って、今日は元気だ。
よいやみに、時の番人の事を言うと驚きはしていたが、この家に強いのが二人いることは、なんとなく分かっていたらしい。
「師匠を止めるのに必死だったっすよ」と笑っていた。
僕達のいる部屋に、血相を変えた人が入ってきた。
「みつきちゃん!!時の番人が来たというのは本当!?」
その人は、僕の母ちゃんだった。




