魔族と人間
少し書き直しました。
オーガに襲われている村までは、馬車で一日以上かかるらしい。僕達は馬車に乗り込むと、オーガをどう倒すか話し合う事にした。
「よいやみちゃん。オーガは倒せる自信はあるの?」
「あしは、オーガを見たことはないんすよ。まぁ、オーガが一般的な魔物と変わらないんであれば負けることは無いっすね」
よいやみは結構な自信があるようだ。本当に強いのかもしれない。
「リリアンさん。オーガというのは、あのゴブリンより強いんですか? もし強いとなるとかなり厄介かな」
あの強化ゴブリンが魔大陸にいたとしたら、かなり強者の部類になると思う。
「みつき何言ってんすか? ゴブリンは弱いっすよ?」
よいやみは、あのゴブリンを見ていないから、ゴブリンは弱いものと思っている。しかし、何故か腹が立つから無視でいいや。
「あのゴブリンより強くはないわよ。あんな強さの奴がそんなにたくさんいれば、王都でも滅んでしまうわよ」
「だから、ゴブリンは弱いっすよ!!」
よいやみは無視されたのが気に入らなかったのか大きい声で同じこと叫んでいた。
うるさくするから、寝ようとしていたゆーちゃんが睨んでいるじゃないか。
リリアンさんがよいやみに説明する。こんな狭い馬車の中でゆーちゃんの機嫌を損ねるのは危険と判断したのだろう。
「普通のゴブリンじゃなかったのよ」
強化ゴブリンの事を説明すると、よいやみの目が輝いたように見える。戦いたかったのか?
「しかし、そんなゴブリンを簡単に倒すみつきって相当強いんじゃないっすか?」
なんか知らないけど褒められるのは悪くない。
「化け物っすね」
前言撤回だ。腹が立つ。
緊急クエストという事なので聞いておきたいことは無いかと言われたので、最初っから気になっていることをリリアンさんに確認を取る。
「一応聞いておきたい事があるんですけど、本当にオーガですよね?」
「どういうこと?」
オーガとよく似た亜人が存在するのだ。
「オーガなら問題ありませんが、襲っているのが鬼族なら、村の方にも原因があるかもしれませんから」
オーガは魔物だから、本能で人間を襲うことがあるが、これが鬼族という亜人だと、何らかの理由があって襲っているという事になる。何の理由もなく、ただの村をわざわざ襲うとは考えにくい。
そう説明すると、リリアンさんは驚いた顔をしていた。
まぁ、王都に住む人達ならば、魔物も亜人も同じと思っているだろうから、僕が言ったことの方がおかしいだろう。
僕の住んでいた魔大陸では、魔物はともかく、魔族、人間、亜人がわけ隔たりなく暮らしているからかもしれないが。
「みつきちゃんも魔族は全てが悪じゃないというの?」
今、僕もって言った? まさかアロン王国でも僕のような考えの人がいるの?
それはともかく、僕としては聞いておかなきゃいけないこともある。
「逆に聞きますが、魔族の全てが悪ならば、人間の全てが正しい生き物なんですか?」
人間にだって悪人は存在するし、魔族にしたっていい人だって存在する。それなのに、魔族の場合はすべて悪というのは余りにも暴論だと思う。
その証拠に、僕の質問に誰も答えられなかった。ゆーちゃんは寝ていて、聞いてなかったけど。
「ま、魔物は各地で暴れてるっす! 魔王や魔族だって、人間と戦ってるっすよ!?」
「そうね、この国でも魔族やその頂点である魔王と長く争ってるわ」
うん。この問題で言い返せることはそれくらいだと思う。
確かに二人の言うことはよくわかる。
でもそんなことを言い出したら、勇者や冒険者が魔族を襲うことだってあるし、人間の国同士だって長く戦争をししたりする。
それと一番聞きたいことがあるとすれば、人間の王は複数いるのになぜ魔王は一人だと思うのか。
少なくても僕の知っている魔王は、人間を襲うなんて事をするとは思えない。
それに一言言ってしまえば、僕の知っている魔王がアロン王国を欲しがると思えないが、戦った場合アロン王国に勝ち目なんて無い。
「リリアンさん。当たり前の事を聞きますが、この国の王様は人間全ての王様ですか? 別の国に王様はいませんか? もう一つ、この国の王様を殺してしまえば、この国の人間は全て消滅しますか?」
「何言ってんすか? 消滅するわけないじゃないっすか。みつき。頭大丈夫っすか?」
「!!!!」
リリアンさんは、僕の言った意味を理解してくれたようだ。それに比べてよいやみは、理解するどころか人の頭をおかしいとか言いやがった。とりあえず、よいやみの頭を叩いておいた。
「い、痛いっす! 何するっすか!?」
「よいやみ。逆に聞くけどさぁ。こんな人に会った事はない? 魔王を倒せば魔族や魔物が全て消えて、平和になると思っている人」
「そ、そうじゃないんすか!? あしもそう思ってたっす!」
「そうなんだ。じゃあ、人間の王様を殺せば人間は消えるの?」
「消えるわけないっす! 王様とあしは別人っすよ?」
「魔族や魔物も同じことだよね? 魔王とその他の魔族は別人だもの。亜人なんてさらに種族が分かれているんだから消えるわけないよね」
僕がここまで言うと、よいやみも漸くその意味を分かってくれたらしい。
「みつきちゃんに聞きたいのだけど、魔大陸には魔王と呼ばれてる魔族はいるの? 私達が、敵対してる魔王は魔大陸にはいないはずなのよ」
「いますよ。でも、あの人は人間と敵対する気はないみたいですよ。なんといっても魔王城の城下町には人間も数多く住んでいますから。もし、アロン王国の王様が魔王と話がしたいと考えれば、あの人なら話し合いに応じますよ」
リリアンさんは、それを聞いて何故かホッとしたような笑顔で「陛下に、そう伝えておくわ。あの方は、魔族との話し合いを望んでいらっしゃるからね」と言った。
この国の王様は、魔族そのものに偏見は持っていないのだろう。じゃあ、襲ってきている魔族というのはどこの魔族なんだろう?
でも、これで少しは魔族の全てが悪ではないって事が、わかってもらえたようだ。
と思っていたら、よいやみが「魔族に家族を殺されたものは、そんな話は受け入れられないっす」と言い出した。
よいやみの親が魔族に襲われたのか聞いたら、違うらしい。でも、そんな境遇の子はたくさん見てきたそうだ。
「確かにそうだろうね。殺した魔族本人に復讐するのは、誰も反対しないしその権利はあると思うけど、それが魔族全てに復讐すると言うならさ……人間、そうだね。冒険者や勇者に家族を殺された魔族も、人間全てに復讐のしても良くなるよね? 仮にだよ? 人間が人間に殺された場合、殺された人間の家族なんかは、人間全てに復讐する権利があると思う? 僕はないと思うよ。だって関係ないもん。だけどこれが魔族が相手だったら、魔族全てに復讐していいって言うのは、おかしな話だよね」
「まるで、魔族にも家族や大事な人がいるみたいな話っす」
「いると思うのが普通じゃない? 愛情や絆みたいな優しい感情を持ってるのが、人間だけだと何故思うの? 魔族だって、種族が違うだけで自我を持つ同じ生き物なんだから」
よいやみは返す言葉が見つからないのか、黙ってしまった。
「実際にその状況になると、僕の言葉も綺麗事になるけどね。よいやみ、ごめんね」
「謝ることないっす。みつきは正しいっす」
「みつきちゃんは、陛下と同じ事を言うのね」
「王様も同じことを言ってるんですか? でも絶望の村、いや、魔大陸の人間はほとんどが同じことを言いますよ」
こんな話をしていたからか、馬車のなかの皆は暫く、誰も口を開かなかった。それぞれ考えることがあったのだろう。馬車の中はゆーちゃんの寝息だけが聞こえていた。
馬車に揺られて暫くすると、妙な気配を感じた。
囲まれてる? でも、敵対心は感じない。
「囲まれてるっすね」
よいやみもそんなことを言い出した。よいやみも生体感知を使える? やっぱり使える人は使えるんだ。
「しかし、妙っすね。殺気は感じないっす」
殺気まで読める? これには驚いた、よいやみの評価を修正しなきゃいけないな。
「とりあえず、止まった方がいいかもね」
リリアンさんに馬車を止めるように御者に言ってもらい、馬車を止めてもらった。
「僕が行きますから、皆は中にいてください」
「あしも行くっすよ。実力を見せなきゃダメっすから」
よいやみも降りるというが、おそらくは戦闘にはならないだろう。
僕とよいやみが馬車から降りると、身長が僕達の二倍はありそうな大男がこっちに向かって歩いてきた。
「オーガがこっちに来るっす!」
「待って! あれはオーガじゃないと思う」
大男は、僕達の目の前で立ち止まった。そして、僕達を冷めた目で見下ろす。
「この先に何をしに行くかは知らないが、人間はこれ以上進まない方が良い」
大男は、吐き捨てるようにそう言い振り返って、元来た道を戻ろうとしていた。
「ねぇ。あんた鬼族だよね? この先にオーガに襲われている村があるらしいんだけど、何か知ってるの?」
鬼族の大男は、僕が鬼族と言ったことに驚いて振り返ったが、ため息を吐き「あれは、村人の自業自得のようなものだ」と呆れたように言った。




