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二度目の婚約破棄――王国が滅びるまで  作者: ゲント・カイ


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第八章 失われた西方領

二度目の婚約破棄――王国が滅びるまで

第二部 二十年の偽りの和平



王太子の変化を、セシリアが最初に意識したのは冬だった。


 夕食会の後、二人だけで王宮庭園を歩いていた。


 雪はまだ降っていなかったが、噴水の水は止められ、裸になった樹木の間を冷たい風が抜けていた。


「セシリア」


「はい」


「公国では、旧王国領という言葉を使わないそうだな」


「公国領ですから」


「二十年前までは王国領だった」


「それを言うのであれば、四百年前には別の国だった土地も多いでしょう」


 ユリウスは足を止めた。


「君は、あの土地が王国から奪われたとは思わないのか」


 セシリアも立ち止まった。


 以前の彼なら、この問い方はしなかった。


「殿下は、奪われたと思っておられるのですか」


「事実として、戦争前より王国は狭くなった」


「公国では、独立したと考えています」


「同じことだ」


「いいえ」


 二人の間を風が通った。


「殿下」


 セシリアは声を低くした。


「私たちは、その考え方を乗り越えるために婚約したのではありませんか」


「だからといって、歴史まで忘れる必要はない」


「忘れろとは申しておりません」


「ならば認めてほしい。王国は領土を失った」


「公国も、多くの人間を失いました」


 ユリウスは黙った。


 セシリアもそれ以上言わなかった。


 互いに礼をして別れた。


 その夜、彼女は母へ長い手紙を書いた。


 最後まで書き終えた後、数行を消した。


 不安を伝えるのは早いと思ったからだった。


 王太子の周囲には、若い貴族たちが集まり始めていた。


 彼らは第一次戦争を知らない。


 生まれた時から公国は外国だった。


 戦争の死体も、焼けた村も見たことがない。


 知っているのは、教科書に書かれた「失われた領土」と、親世代から聞かされた「王国の屈辱」だけだった。


 彼らにとって戦争は記憶ではなく、物語だった。


 その中心に、一人の女性がいた。


 イザベル・ヴァレリー。


 ヴァレリー侯爵の孫娘。


 ユリウスとは幼馴染であり、王国の旧家に生まれたことを誇りとしていた。


 彼女はセシリアのように政治資料を持ち歩くことはない。


 だが、人の感情を読むことに長けていた。


「殿下は変わられました」


 ある宴席で、イザベルは王太子へ言った。


「何がだ」


「以前は、もっと王国を誇りに思っていらした」


「今も思っている」


「では、どうして公国の言い分ばかり聞かれるのです」


「和平には妥協が必要だ」


「公国は何を妥協しました?」


 ユリウスは答えなかった。


「私には、王国ばかりが譲っているように見えます」


 事実ではなかった。


 公国も関税収入を失い、国境軍を後退させ、王国商人へ多くの特権を認めていた。


 だが、感情にとって均衡は数字では測れない。


「殿下は公女と結婚なされば、いずれ王になられます」


「ああ」


「その時、王国の隣には、王妃の父が治める強大な公国がある」


 イザベルは微笑んだ。


「人々は、どちらの国の王だと思うでしょうね」


 ユリウスは杯を置いた。


 その夜から、彼は条約文書を別の目で読み始めた。


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