第二十二章 消えた国の人々
併合後の最初の一年は、戦争中よりも忙しかった。
旧王国領を十二の行政区へ再編。
旧王国法と公国法の統合。
貨幣交換。
軍人の復員。
土地所有権の確認。
難民の帰還。
王国貴族の爵位審査。
それら一つ一つが、別の争いを生んだ。
セシリアは旧王都に半年以上滞在した。
王宮の一部は行政庁となり、王家の私室は封鎖された。
ユリウスは王位請求権を放棄した後、北部の離宮へ移された。
処刑を求める声もあった。
セシリアは認めなかった。
「彼一人を殺して、戦争の責任が終わったことにしてはならない」
ヴァレリー侯爵は裁判にかけられた。
しかし、彼もまた単純な悪人として処理されることはなかった。
第一次戦争で父と兄を失い、その憎しみを孫世代へ渡した人物。
裁判記録には、その背景も残された。
「言い訳まで記録するのですか」
若い官僚が尋ねた。
「言い訳だからこそです」
セシリアは答えた。
「次の世代が、なぜそう考えたのか分からなければ、また同じことをします」
公国の歴史書も改訂された。
第一次戦争について、公国側に都合の悪い記録も載せる。
公爵軍が撤退時に村を焼いた事件。
捕虜虐待。
独立後に王国人商人の財産を不当に没収した地方官。
反発は強かった。
「なぜ勝った我々の罪まで子供へ教えるのか」
議会でそう問われた時。
セシリアは短く答えた。
「王国がそれをしなかったからです」
誰も続けられなかった。




