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二度目の婚約破棄――王国が滅びるまで  作者: ゲント・カイ


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第二十一章 王宮

公国軍が王都へ入った日。


 戦勝の鐘は鳴らされなかった。


 軍楽隊も演奏しなかった。


 セシリアが命じたからである。


 城門から王宮まで、兵士たちは整然と進んだ。


 住民は道の両側から見守った。


 泣く者。


 無表情な者。


 公国旗に頭を下げる者。


 背を向ける者。


 国が一つ消える日に、全員が同じ感情を抱くはずはなかった。


 王宮の上から王国旗が降ろされた。


 代わりに公国旗が掲げられる。


 その様子を、エレオノーラは娘と並んで見ていた。


 二十年ぶりの王宮だった。


「母上」


「はい」


「大丈夫ですか」


「何が」


「ここへ来るのは」


 エレオノーラは王宮を見上げた。


「二十年前より小さく見えます」


 階段を上る。


 そして大広間へ入った。


 あの夜と同じ場所。


 床も柱も残っている。


 燭台だけが新しいものに替わっていた。


 エレオノーラは広間の中央まで歩いた。


 そこに立った。


 二十二歳の自分がいた場所。


 向こうの壇上には、若いアレクシスがいた。


 隣にリディア。


 周囲には数百人。


 自分は何を考えていたのか。


 今となっては、すべては思い出せない。


「ここです」


 エレオノーラが言った。


「何が」


「婚約を破棄された場所」


 セシリアは母の隣に立った。


「私も、ほとんど同じ場所でした」


「そうね」


 二人はしばらく何も言わなかった。


 広間には兵士も役人もいたが、少し離れて待っている。


「母上」


「はい」


「終わりました」


 エレオノーラは娘を見た。


「本当に?」


 セシリアは答えられなかった。


「王国はなくなりました」


「ええ」


「戦争も終わりました」


「ええ」


「では」


 エレオノーラは娘の手を取った。


「これから始まるのですよ」


「何がです」


「国を滅ぼすより難しいことが」


 旧王国には数百万の人間が暮らしている。


 公国を恨む者もいる。


 王家を懐かしむ者もいる。


 公国への併合を歓迎する者もいる。


 それらすべてを、明日から一つの国家の中で生きさせなければならない。


「勝ったとは思わないで」


 母は言った。


「はい」


「私たちは、国を一つ消しただけです」


 セシリアは広間を見渡した。


 二度の婚約破棄。


 二度の戦争。


 一つの王国の終焉。


「母上」


「何です」


「二十年前のあの日に戻れたら、どうしますか」


 エレオノーラは長い時間、答えなかった。


「同じことをします」


 やがて言った。


「婚約破棄を受け入れます」


「その後も?」


「父に報告します」


「戦争になると分かっていても?」


 エレオノーラは娘を見た。


「戦争になると分かっていれば、もっと必死で止めます」


 少し間を置いた。


「でも、自分だけが黙って消えれば皆が幸せになるとは、もう思いません」


 セシリアは頷いた。


 母娘は広間を後にした。


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