第二十三章 最後の手紙
併合から五年後。
エレオノーラは病に倒れた。
六十を少し超えただけだった。
戦争中に無理を重ねた身体は、老年に入って急速に弱った。
セシリアは公務を減らし、母の傍にいる時間を増やした。
ある午後。
エレオノーラは娘に一通の手紙を渡した。
「これは?」
「昔、書いたものです」
宛名はない。
日付は第一次戦争二年目。
「誰へ」
「アレクシスへ」
セシリアは母を見た。
「送らなかったのですか」
「送れませんでした」
開いてよいと言われ、読んだ。
そこには恨み言はほとんどなかった。
戦争を止めてほしい。
王太子に戻してほしいとは思わない。
自分を罪人とするならそれでもよい。
ただ、これ以上兵士を死なせないでほしい。
最後に、
――あなたと結婚できなかったことより、あなたが私の知っていた人ではなくなったことを悲しく思います。
そう書かれていた。
セシリアは手紙を閉じた。
「母上」
「若いでしょう」
「ええ」
「恥ずかしいものです」
「そうは思いません」
母は窓の外を見た。
「ユリウスには、何か言いましたか」
「最後に話しました」
「そう」
「私と結婚するつもりだった、と」
エレオノーラは娘を見て、少し笑った。
「それで十分です」
「何がです」
「伝えられたのなら」
数か月後。
エレオノーラ・アルヴェインは死去した。
国葬には、公国領だけでなく旧王国領からも多くの人々が訪れた。
彼女を戦争の原因だと考える者も、最後までいた。
独立の母と呼ぶ者もいた。
本人は、そのどちらも望んでいなかった。
墓碑には、生前の希望により爵位も戦功も刻まれなかった。
ただ、
エレオノーラ・アルヴェイン
娘、妻、母としてここに眠る
とだけ記された。




