第十九章 王国を救う方法
公国政府でも意見は割れていた。
王国を残すべきだ。
属国化すべきだ。
南北に分割すべきだ。
王家だけ廃して共和制にすべきだ。
公国へ全面併合すべきだ。
議論は三日間続いた。
セシリアはほとんど発言せず、各地から届く報告書を読んでいた。
王国南部では王家に反発する諸侯が独自同盟を形成。
北東部では別の王族を擁立する動き。
王都では市民評議会が成立。
このまま王国軍だけ解体して撤退すれば、内戦が始まる可能性が高かった。
「王国を残せば、王党派が集まります」
外務卿が言った。
「王家を廃せば、王族の誰かを担ぐ者が出る」
「分割すれば」
「国境紛争が何十年も続くでしょう」
軍務卿が地図を見た。
「最も安定するのは、全面併合です」
セシリアは指を組んだ。
「二十年前、公国は独立することで戦争を終えました」
「はい」
「今回は、王国を消すことで終えるのですか」
誰も答えなかった。
母エレオノーラが会議の後、娘の部屋を訪れた。
「眠っていませんね」
「母上も」
「年寄りは眠りが浅いのです」
「まだ六十にもなっておられません」
「十分です」
母は向かい側に座った。
「王国を併合しようと思っています」
セシリアが言った。
「そう」
「止めないのですか」
「止めてほしいのですか」
「分かりません」
母娘の間に沈黙が落ちた。
「母上は、王国を残したいですか」
エレオノーラは窓の外を見た。
遠くに王都の灯が見える。
「二十年前なら」
ゆっくり言った。
「滅びればいいと思ったことがあります」
セシリアは母を見た。
「戦場から負傷兵が運ばれてくるたびに。村が焼かれたと聞くたびに。父が痩せていくたびに」
「今は」
「国が滅びるというのは、王冠を一つ壊すことではありません」
母は娘に向き直った。
「そこで暮らしてきた人々が、自分たちが何者なのか分からなくなることです」
「では」
「それでも残すことで、また戦争になるなら」
言葉が途切れた。
「あなたが決めなさい」
「重いですね」
「公女でしょう」
エレオノーラはわずかに笑った。
セシリアもほんの少し笑った。
「母上」
「はい」
「私は王妃になるはずでした」
「ええ」
「それが、王国を滅ぼす決定をすることになるとは」
「人生は、あまり趣味のよい物語ではありませんね」
母は立ち上がった。
扉の前で、振り返った。
「ただ一つだけ」
「何でしょう」
「勝ったと思わないことです」
セシリアは長く母を見つめた。
「はい」
翌朝。
公国政府は正式な最終条件を決定した。
王国の国家としての解体。
全領土をアルヴェイン公国へ併合。
旧王国領には広範な地方自治を認める。
王国貴族の爵位については個別審査。
王国軍兵士への一般恩赦。
戦争犯罪と開戦決定に直接関与した者のみ裁判。
ユリウス本人については退位と王位請求権放棄。
条件は王都へ送られた。




