第十八章 地下文書庫
王都包囲が始まった。
公国軍は総攻撃を行わなかった。
セシリアが拒んだからである。
「城壁を破れば、市街戦になります」
軍務卿が言った。
「このままでも市民は飢えます」
「食糧搬入路を一つ開けます」
「王国軍も利用します」
「検査してください」
「戦争ですよ、殿下」
「だからこそです」
公国軍は北門付近に民間物資搬入路を設けた。
軍需品は没収。
食糧と薬は通す。
王都住民の間に、公国軍への敵意より王家への不満が強くなっていった。
城壁内では、ユリウスが祖父の言葉を確かめるため地下文書庫へ入った。
王家の記録は膨大だった。
二十年前の箱を探すのに半日かかった。
そこに、ヴィクトール・アルヴェインの署名がある書簡が残っていた。
一通。
二通。
三通。
――王国軍の領内駐留は受け入れ難し。ただし王家監察官を歓迎する。
――我が家は王家への忠誠を撤回する意思なし。
――両軍を国境より後退させ、陛下の立会いの下で協議を求む。
――これ以上の流血を避けるため、停戦を切望する。
ユリウスは一通ずつ読んだ。
そして、王国軍が最初に国境を越えた記録も見つけた。
自分が教わった歴史とは違う。
祖父が言った通りだった。
さらに、文書の中に二十年前の宮廷議事録があった。
そこにはヴァレリー侯爵の父の発言が記録されていた。
――アルヴェインは弱腰である。今圧力をかければ屈する。
ユリウスの手が止まった。
数か月前。
現ヴァレリー侯爵が言った言葉。
――公国は弱腰です。今なら譲歩させられる。
ほとんど同じだった。
ユリウスは椅子に座った。
長い間、動けなかった。
歴史が繰り返したのではない。
その記録を隠し、同じ失敗を成功策として次の世代へ渡した。
だから、自分は同じ場所まで歩いてきた。
地下文書庫には窓がない。
遠くで鳴っているはずの包囲軍の音も聞こえない。
ただ紙の匂いだけがあった。
「陛下」
侍従が入口から呼んだ。
「公国から使者です」
ユリウスは顔を上げた。
「和平条件が提示されました」
「内容は」
「王国軍の全面武装解除。戦争責任者の引き渡し。旧占領地域の自治保障。そして……」
侍従が言葉を止めた。
「言え」
「王国の国家体制について、戦後協議を行うと」
ユリウスは目を閉じた。
王国を残す保証がない。
それが意味することは分かった。




