第十五章 二度目の戦争
二十年前と違い、戦争の最初の一か月で趨勢はほぼ決まった。
王国軍は、かつての公爵領軍を想定していた。
領主ごとに指揮系統が分かれ、徴募兵を中心とし、装備も地域によって異なる軍隊。
しかし公国軍は二十年かけて変わっていた。
常備軍。
統一規格の武器。
軍道。
補給拠点。
参謀制度。
独立戦争の失敗を一つずつ記録し、そのすべてを二度と繰り返さないために作られた軍隊だった。
王国第一軍団はメーレン平原で敗北した。
三日後、第二軍団も退却。
一か月後。
公国軍は国境線を回復した。
本来なら、そこで止まるはずだった。
「追撃すべきです」
軍務卿は進言した。
「今なら王国軍主力を壊滅させられます」
「国境を越えるのですか」
「戦争は既に始まっています」
「公国の目的は領土防衛です」
「王国軍を残せば、また攻めてきます」
正論だった。
セシリアは答えを出せなかった。
その夜。
王国軍が再び国境砦へ攻撃を行ったとの報告が届いた。
翌朝、追撃命令が出た。
公国軍は二十年前とは逆の方向へ国境を越えた。
王国内へ。
最初の町は抵抗した。
二日で陥落した。
公国軍司令部は略奪禁止令を出した。
民家への侵入、住民からの物資強奪、捕虜虐待を厳しく禁じた。
破った兵士三人が軍法会議にかけられた。
その知らせは、進軍より速く王国諸侯へ伝わった。
次の町は、戦わなかった。
城門が開いた。
領主である老伯爵は、公国軍司令官へ剣を差し出した。
「我が領民を守っていただけるなら、私は王家のために町を焼くつもりはない」
その後、同じことが続いた。
戦争は、公国が王国を征服するというより、王国の外側から王家への服従が剥がれていくように進んだ。




