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星粒のリテラエ ——異世界転移した文化人類学者、理系王女と最適解王子の“誤差”を観測する  作者: はなちゃん
第一章 虹の王女ナナリエ 〜ふたつのソラの下で見つけた、私の座標〜
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第5話 マジョ?——世界の拒絶だって観察対象です!

「これはあれだ」


 部屋を出て石畳の道を歩きながら考えた。

 水が手に入らないとわかると、急に喉の渇きが輪郭を持ち始めた。


「スーパーブラックバード」


 なんで今、それを思い出したんだろう。

 黒すぎる鳥。

 光を吸って、閉じ込める、みたいな。


 空間がそこだけ黒く切り取られているように見えるやつ。


「構造色……?」


 最近誰かとそんな話をしたような気がする。

 でも、その「誰か」が思い出せない。


 視界も記憶も、まだぼんやりしている。



 一番新しい記憶、


 ———あの冷たい部屋の水道を、私は思い出していた。


「これは料金滞納で止められたパターンだな」


 自分の経験に重ねて推測してみる。

 いや、待って。私、水道を止められたことあったんだっけ?


 わからない。


 でも、喉の渇きはもう限界に近い。


 そうだ、誰かに助けを求めよう。


 少しずつ晴れていく視界を頼りに、人を探した。


 おばあさんを見つけた。

 石畳の道に柄杓で水を撒いている。

 ゆったりとした長い布を巻いたような服装をしている。

 浴衣にも似ているし、どことなく神話の女神が着ているようでもある。

 どこの文化か特定しがたい。


 見知らぬ土地で最初に声をかけるなら、おばあさん。

 その方がうまくいく。


 ——そんな判断を、私は当たり前のようにしていた。



「こんにちは」


 表情筋に力が入らない。

 ちゃんと笑えているかもわからない。


 おばあさんは驚いた顔をして、何か言った。

 知っている言葉のようで、全く意味が呼び起こされない。


 通じていない。


「旅をしている者ですが」


 両手で自分の体を示す。

 言ってから、しまったと思った。


 黒くてベタついた髪。

 臭い。

 そして、この真っ黒な服。


 どう見ても、旅人じゃない。


 おばあさんの手が、わずかに引いた。

 柄杓の水が、こちらにかからないように避けられる。


 ……警戒されている。


 私は柄杓を指さし、それから自分の口元を指した。


「お水を分けていただけませんか」


 まずは日本語。無意識にそう口にしていた。


 反応はない。


 じゃあ——英語。

 世界で一番通じる確率が高い言語。


 それでもだめ。


 なら、話者人口の多い順でいくしかない。


 中国語は……無理。知らない。


 その次。


「アグア……ポルファボール……?」


 大丈夫。南米を旅行した時も、だいたいこれで通じた。


 でも。


 おばあさんは、何かを小さく呟いた。

 祈りの言葉みたいにも、呪いみたいにも聞こえた。


 そして、背を向ける。


 完全に、拒絶だ。


「ありがとうございました」


 今度は、その言葉だけをスペイン語で言ってみた。


 でも、もう振り向いてはくれなかった。


 ……まあ、次に行こう。


 今度は路地で遊んでいる2人の子供たちを見つけた。

 ガラス玉を瓶に入れて楽器のように鳴らしているらしかった。


 さすがにこの格好で子供たちに話しかけるのは躊躇われた。


 距離をとりつつ「こんにちは」と手を振りながら通り過ぎた、


 そのとき。


「マジョ」


 背中に、言葉が当たった。


 ゆっくり振り返る。


 子供たちと目が合った。


 びくり、と肩を震わせて、走って逃げていく。


「マジョ……」


 そう聞こえた。


 いや、本当にそう言ったのかはわからない。


 でも。


 魔女?


 この黒い髪、この格好。


 ——まさか、本当に?

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