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星粒のリテラエ ——暫定魔女が記録する、理系王女と最適解王子のたったひとつの“誤差”  作者: はなちゃん
第四章 結びと環りの国 〜私は、この世界を好きになる〜
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第45話 あの街とこの街のカクテル

「ナナリエ〜!南に来るなら言いなさいよお!」


 淡く輝く金色の髪に、蜂蜜色の瞳。


 すごく既視感のある。


 鼻筋が通って目もぱっちりして、まつ毛も長い。


 すごい美人がナナリエの肩をガッチリ組んで揺さぶっている。


「お姉様、すでに酔ってます?」


 ナナリエは嫌がるでもなく揺らされている。


「病院には消毒用のアルコールしかないわよ」


 美人は鋭い視線でニゲラに命令した。


「お酒、一番強いやつ」

「はいはい」

 ニゲラは慣れたようにあしらう。


「先生、今日はガーネットから出張かい」

 おばちゃんの一人が、美人に話しかける。


「うん。カーネリアンの病院に髪の感覚野が焼けちゃった子がいてね」


 美人はナナリエの頬を突きながら軽く答える。


「ガーネットに搬送できないっていうから、来たの」

「ご苦労だねえ」

 おばちゃんたちが感心する。


「車の方が早いしね」

 美人が不敵な笑みを浮かべる。


「先生の運転、荒いもんね〜」

「道歩いてる人たち、頭抱えてしゃがみ込んでるよ」


「失礼ね!」


 ちょうど美人の前にお酒が届く。


「きたきた〜」


 一気に飲み干して、グラスをガンと置くと、美人は鋭い目を私に向けた。


「アンリね」


 名前を呼ばれた。


「はい。アンリです」


 魔女って言われない。ちょっと他の人と違う。


「ハルが魔女がどうのこうの言ってたけど、

 あの子、本当に話を複雑にするのが好きね」


 ハル。あの子……?


「ハルお兄様は制度に基づいて対処してるだけです」


 ナナリエが細長くてカリカリしたものを齧りながら横目で美人を見る。


「ナナリエが甘やかすから、あいつ偉そうなのよ!だめだめ!」


「あの……」


 私はおそるおそる声をかける。


「あなたは……もしかして」


「察しがいいわね。話の早い子は好きよ」


 美人は満足そうに笑う。本当に既視感がある。


「ハルお兄様の姉上、ヒヤシンスお姉様よ」


「ああ、王族を抜けて医者になったっていう……」


 なんかそんな話をハルジオンがしていた気がする。


「診る?」


「え?」


「お願いします」


 私の代わりにナナリエが返事をした。


「お姉様は脳神経が専門なの。外科はなんでもやるけど」


「の、脳神経外科医……?」


 私の脳神経に異常が……?


「まあここじゃ検査もできないけど」


 ヒヤシンス様は躊躇いなく私の髪をさらっと持ち上げた。


「稀にある症例よ」


「え?」


「意識の混線」


 言葉が短い。


「原始的な接続の副作用なんかが原因で、別人の記憶や人格が流れ込む」


 大きな目がさらに見開かれる。


「でも……」


 ぎろりとナナリエに視線を向ける。


「アンリはこの星の子じゃないって言ってたわよね?」


 ナナリエはこくんと小さく頷く。


「これまでの言語反応、文化認識、知識体系の差異を総合すると、その可能性が最も高いです」


「……ナナリエがそう言うのなら、そうなのね」


 ヒヤシンス様は金色の髪をさらりと耳にかけた。


「ハルが珍しく突拍子もないことを言っていると思ったんだけど」


 甘い蜂蜜色の瞳が一気に距離を詰める。


「接続先がこの場にいない混線は聞いたことがない」


「既存症例はすべて近距離接続ということですね」


 ナナリエが確認する。


 その確認をはさんでも、話についていけていない。


「えーと」


 頭の中を整理する。


「私が何故この身体に入っているか、についての話ですか?」


「そうよ」


 二人の声が揃う。


「さっき、たぶんこの身体の持ち主に話しかけられたんですけど……」


「彼女がこの環を初めて起動したときのことです」


 ナナリエが黒いオパールに軽く触れ、補足する。


 私は話を続けた。


「この子が、私の身体を『借りてる』ってはっきり言ってました」


「互いに自我境界が残っているのね」


 安堵するように、ヒヤシンス様は肩をすくめた。


「意識を渡る存在でしょうか?」


 ああ、さっきナナリエが呟いていたやつだ。


 ヒヤシンス様は私の髪の毛をゆさゆさ弄び始めた。


「アンリにとっては事故でも、この黒髪のお嬢さんにとっては制御できるものってことね」


 そのまま私の三つ編みをほどきはじめた。


「それなら、このお嬢さんが気が済むまで待つしかないわね。こっちは」


 手櫛で髪を整えられて、くすぐったい。


「幸い、神経や精神に異常は来していないみたいだし」


 そのまま私の身体をくるっと半回転させ、ヒヤシンス様は後ろから私の髪を結い始めた。


「いいんじゃない。このまま——なんだっけ?観光記録だっけ?」


「観察です!観察と記録!」


 ものすごい速さで髪を編み込みにされて、頭皮がぞわぞわする。嫌じゃないけど。


 向かいの席のニゲラが無言のまま、カバンから取り出したヘアピンをヒヤシンス様に手渡す。


「それそれ。観察と記録の仕事をしながら、美味しいものを食べて過ごせば」


 ヘアピンを絶妙な位置にグサグサ刺しながら、ヒヤシンス様は診断を下した。


 風邪ですね。栄養とって、あったかくして早く寝てね、って言われてるみたい。


「そのうち元に戻るわよ。……はい、できた」


「あらかわいい〜」

 工場のおばちゃんたちがキャッキャと騒ぐ。

「はい、鏡あるわよ」

「ありがとうございます」


 三つ編みがカチューシャのように頭の周りを一周している。


 これは……私には再現できないやつだ。


「髪の毛は私たちの感覚器官だから」


 鏡ごしに目を合わせながら、ナナリエが言った。


「お姉様は若くして、神経と感覚器官の第一人者よ」

 そんなにすごい人なんだ。


「髪の毛の手術のときは私のとこでオペしてあげるわ」

 ヘアカットのことかな……?


「ナナリエにも医者になってほしいってずっと言ってるんだけどね〜」


 今度はナナリエの髪の毛を結い始めた。


「私は臨床に向いていません。それに自分の研究で手一杯です」


「医者になってアンリを救ってあげたらいいじゃない」


「私はアンリを救おうなんて思いません」


 無垢な瞳が大きく見開かれる。


「私はアンリを理解したいだけです」


 瞳の中にきらきら星がいっぱい入っている。


 頬もほんのり赤くて、少しだけ酔っているみたい。


 その横でヒヤシンスがため息混じりに笑った。


「そうね。やりたいことやるのが一番よ。……ニゲラのそれ、私のも」


「はいはい」


 ニゲラはグラスに赤と青のお酒を混ぜ、自分でカクテルを作っていた。


 きれい。


「ナナリエの頭もでーきた!」


 ヒヤシンス様はナナリエの両肩をぽんと叩いた。


 ナナリエの髪型は独特だった。右上に大きなお団子、そこから左下にかけて複雑な編み込みが流れて、左下にも緩い大きなお団子がついている。


 満足そうに笑うヒヤシンス様とは対照的に、ナナリエは大して興味なさそうだった。


「まあ、私が一番わがまま通しちゃってるから……だけど……」


 ヒヤシンス様の切れ味が少し落ちた。


「私が医者になるために王位継承を投げたから、ハルが犠牲になっちゃったのよね」


 悲痛というほどではないけど、少し残念そうに言った。


「え?ハルジオン殿下、やる気満々に見えますけど」


 あの人、人の上に立つの好きそうだし。なんでも掌握したいタイプでしょ。


「王になったらハルの本当にやりたいこと、できないから」


 ヒヤシンス様の言葉を聞く、ナナリエの瞳には何の情報もなかった。


 驚きでも、納得でも、否定でも、悲しみでもなく。ただ聞いている。


「所詮、双王なんて——」


 その言葉を遮るように、静かにグラスが置かれた。


 赤から青への目の覚めるようなグラデーション。


「それ以上の発言は法に触れるわ」


 ニゲラが静かにヒヤシンス様を見つめる。


「さすがサファイア出身。線を引くのが上手だこと」


「あなたにも故郷は残っているでしょう」


 黄色い稲妻と青い稲妻が空中でぶつかる。


 大気は極めて不安定だった。


「ね……この二人って仲良いの?悪いの?」

 隣にいるナナリエにこっそり耳打ちした。


「さあ?面識はあるみたいね」

 興味なさそう。ナナリエはこういう子だった。


 私たちの密談を察したのか、ニゲラが柔らかく笑った。


 そのまま静かに、私とナナリエの前へふたつのグラスを滑らせる。


「どうぞ。あ、アンリのはお酒入ってないから」


 目の前のグラスは南の海みたいに青かった。


 縁にレモンが引っ掛けられている。


「レモン、絞ってね」


 ナナリエと顔を見合わせてから、一緒にレモンに手をかける。


 しゅわっと音がして。


 色が変わった。


 一瞬の紫。


 そして、柔らかい桜色に。


「おお……」


 驚きすぎて可愛くない声が出てしまった。


「アントシアニン系色素。酸性化で発色が変わったのね」


 隣でいつもの分析が聞こえる。


 ゆっくりナナリエの方を見たら、彼女も私を見ていた。


「こういうの、好きでしょ?」


 同時に言う。


 同時に笑う。


「仲良しね」

 ニゲラが声を出して笑った。


「共鳴しすぎ」

 ヒヤシンス様も腹を抱えて笑った。


「なになに〜。若い子達、楽しそうじゃない」


「おばちゃんたちも混ぜてよ〜」


「ていうかカズラばあちゃん、もう寝てるわ」


「ねー!おにーさん!膝掛け貸してー!」


 再び賑やかになる。


「ヒヤシンスは西の社交界の一番星みたいな存在だったのよ」


「やめてよ。ニゲラは直接知らないでしょ」


「お茶の淹れ方がとても優雅で。気配りも上手で」


 ふと、思い出す。


 西の琥珀宮で、ナナリエがめんどくさがっていたお茶会。


 あれか。


「西側の淑女たちはみんなヒヤシンスに憧れていたと聞くわ」


 くすくす笑ながら話を続けるニゲラ。


 怒りながら辛そうなものをバクバク食べるヒヤシンス様。


「もう、いいじゃない。故郷は捨てられない。それでいいでしょ」


「そうね。通ってきた道を無かったことにしないで」


 ニゲラは辛いものにむせるヒヤシンス様に、そっと水を差し出した。


 一気に飲み干す。



 ちょうどそのとき、お店に体格のいい赤髪のお兄さん二人が入ってきた。


 店員さんが今は満席なのでと言いながら、チラリと私たちの席を見る。


 確かに私たちのテーブには端に四人くらいのスペースが余っている。


 大勢で占領しちゃってるからな。


「こっち座っていいわよ」


 ヒヤシンス様が店員さんに声をかけた。


「恐れ入ります〜」


 店員のお兄さんが会釈すると、彼の黄緑色の髪がさらりと揺れた。


 赤髪のお兄さんたちも、日焼けした肌と対照的な白い歯を見せてニカっと笑う。


「姉さんたち、悪ぃな!お邪魔しまーす」


「綺麗なおねーさんと相席なんて、一生分の運を使い果たしちゃったな〜」


 豪快に笑いながら注文を始める。


「祭りまであと四日ねえ」

「あれまあ、もうすぐじゃない」

 おばちゃんたちの話題は春のお祭りに移っていた。


「あんたんちは今年も王都まで行くの?」

「今年はこっちで参加するわ。孫が生まれたばかりでね」


「お兄さんたちも祭りの準備でしょ?」

 おばちゃんの一人が赤髪のお兄さんたちに話題を振る。


「おう。仕事帰りに櫓を組んで来たぜ」

「当日は人流整理っすよ〜」


 忙しそうだけど楽しそう。


 お祭りかあ……。


「楽しみだね」


 私はナナリエに笑いかけた。


 何をやるのかはよくわからないけど、祭りといえば楽しい。


「そうね……準備は大変だけど……」


 若干、ナナリエの顔色が悪い。


「……二日で戻るつもりだったのに……朝一番で戻っても残り三…いえ実質二日……」


 なにかぶつぶつ言い始めた。


「通常の決済処理も保留にしてきちゃったし……衣装合わせもしてない……」


「そういえばさあ」


 ぶるぶる震えるナナリエの様子は気にせず、ヒヤシンス様が話しかけていた。


「祭りって言えば、あの系譜の照合、まだやってるの?」


 ぶるぶる震えるナナリエの代わりに私が答えた。


「ああ、儀式に参加する人の血統照合ですね。ハルジオン殿下が文句言ってました」


 ヒヤシンス様が、はあ〜っとわざとらしくため息をついた。


「あんなの、遺伝子鑑定すれば一発なのにねえ」


 え?そういう問題なの?


「いいじゃない、先生が検査してあげなさいよ」

「そうそう。なんだってデータ見りゃあわかるんだから」

「出た出た!見りゃわかる!」


 おばちゃんたちも同意する。


 そうか。


 ……血のつながりを見るなら、それで十分かもしれない。


 いや……。それはそれで大変では?


「確かに効率的です」


 急にナナリエが復活した。


「結環の儀は、磁場共鳴適性の高い遺伝子群を持つ個体を最適配置するための儀式なので」


 また複雑なことを言い出した。


「そうでしょう。毎年毎年、徹夜で照合してさ」


「しかし……」


 ナナリエが仮説を立てるように静かに呟いた。


「系譜を辿る行為、それ自体が儀式の一環なのだと思います」


 ニゲラも静かに目を伏せる。


 それがどれだけ古くから続けられてきたことなのかはわからない。


 非効率なもの全てが間違いなのかは、きっと簡単には決められないんだろう。


 ずっと続いてきたものを自分の代でやめるって、けっこう難しいかも。


「でもさあ。それでも西は大義名分ばかり守ってる感じよね」


 あんまり納得行かなそうなヒヤシンス様。


「制度とか義務とか、町単位の集まりとかで、お互いを牽制しあってるのよ」


 鼻息荒く断言する。


「ああー、西の人ってよそ者に冷たいって聞くよなー」


 隣のお兄さんたちが軽く同意する。


 ちょうど店員のお兄さんが料理を置いた。


「ぼく、西にも住んだことありますけど……」


 お兄さんは黄緑色の目を細めて、ふにゃっと笑う。


「実際住んでみると温かったですよ。誰も見捨てないっていうか。最後まで手を差し伸べてもらえる空気がありましたね」


 トレーを脇に抱え直して、少しつけ足す。


「まあ、多少窮屈なところもあったかもしれませんが」


 身体の大きいお兄さんたちは顔を見合わせて苦笑した。


「違ぇねえ。南はボサっとしてたら置いてかれちまうもんな」


「優しかぁねぇな」


 その会話を聞いたナナリエも、ぽつりと呟く。


「そうですね。東も、自分で情報を取捨選択できない人には厳しい環境です」


 ニゲラも同意するようにナナリエに温かい視線を向けた。


 ヒヤシンス様は考え込み、その小さな空間だけ一瞬沈黙する。


 でも、


「ま!南が一番だけどな!」


 お兄さんが豪快に笑い飛ばした。


「話が早ぇ」

「祭りが派手」

「なにより寒くない」

「女が強い!」

 途中からおばちゃんたちも割り込んできた。


 みんな楽しそう。


 思ったことを自由に話している。


 楽しい空気に包まれる。


 私も思わず笑ってしまう。


「みんな、自分のとこが一番って言ってそうですね」


 ナナリエがふふっと笑って私を見た。


「そうよ、東が一番いいわ」


「そのとき住んでる街が自分史上最高ってことよね」

 横髪をかき上げながらヒヤシンス様が艶やかに微笑した。


「ねーちゃん、いいこと言うなあ」


「当然よ。私だもの」


「こう見えて、先生は偉い人なのよ〜」


 おばちゃんがおにいさんたちに笑いかける。

 お兄さんたちも笑って答える。


「わかるわかる。見りゃわかる」

「また出た、見りゃわかる」


 南の人たちの笑いは豪快だ。


「……ねえ」


 その笑いの中で、ヒヤシンス様が訝しげに呟いた。


「その、見りゃわかるっていうやつ、流行ってるの?」


 そのとき、座敷の片隅で寝ていた、カズラばあちゃんが目を覚ました。


 ゆっくりと起き上がる。


「もしかして……」

 おばちゃんの一人が首を傾げる。

「ヒヤシンス先生んとこにも来たのかい?」


 少しだけその場が静かになった。


「病院にもいたわよ」

 ヒヤシンス様が苦笑する。

「臨時で働いてた変な子。指示する前に、“見りゃわかる”って言うの」

 少し懐かしそうな表情だ。


「うちの工場にも来た来た!」

「自然に輪に入ってくるんだよねえ」

「私らの食べてるおやつ、さりげなく持ってくし」


 思い出しては楽しそうにおしゃべりする。

 お兄さんたちも顔を見合わせた。


「あいつか?」

「あいつかも」

 やっぱり苦笑する。

「図々しいやつだったよな」

「でも、嫌いじゃない」

「初対面でも妙に馴染むっていうか」


 カズラばあちゃんが大きなあくびをした。

「……なんだい、そいつぁもしかして」


 よっこいしょと立ち上がると、弟子のナナリエが急いで駆け寄った。


「あいつのことかい?」


「カズラばあちゃんも知ってるの?」


「なんだっけ、太陽みたいな名前の」

「そうそう、馴染みない名前だったよな」


「馴染みない名前とは……?」


 カズラばあちゃんを支えながら、ナナリエがその場の人たちに聞き返した。


「いや、あんまり名前呼ぶ機会なかったから、なんだったっけな」

「呼ぶ前に、もうそこにいたし」


「でもなんとなく……」

 みんなの視線がナナリエに集まる。


 きょとんとするナナリエ。


「ナナリエ……」

 ヒヤシンス様が声を漏らした。


「そう、そういう響きだった」

 みんなは一様に頷いた。


 ナナリエは無表情のまま、首を傾げた。


 ヒヤシンス様に結ってもらったふたつの大きなお団子ヘアが、頭の右上と左下でぽわんと揺れた。




「祭りが終わったら、また顔出しな」

 店の外に出ると、カズラばあちゃんがナナリエの頭をポンとした。


「次の工場視察は旦那と来るのよ〜」

 おばちゃんたちはもう一軒行きそうな雰囲気。


「今度はもっと長くいること」

 ヒヤシンス様も笑った。


「次は静かな店にしましょう」

 ニゲラが小さく付け足す。


 ナナリエは少しだけ迷うように視線を伏せて、


「……はい」


 いつもより、ほんの少しだけ返事が遅かった。


「ばあちゃん、寝るときは布団入りなよ!」


「あんたこそ、腹出して寝るんじゃないよ!」

 カズラばあちゃん、私の頭は容赦なく撫で回す。


「アンリ、困ったことがあれば私に言いなさい」

「私も、いつでも待ってるわ」

 素敵なお姉様方が優しく微笑む。


「また遊びに来ます!」

 そう答えて、隣を見ると、ナナリエも私を見て微笑んだ。



「行こっか」

「行きましょ」


 また同時に言う。



 南の夜は、いつまでも賑やかだった。


 けれど私たちは、翌朝一番の便で王都へ戻ることになっている。


 祭りまで、だいたいあと三日。


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